金子勝・雨宮かりん講演会

   

                  
三宅 雨宮さんは特に90年代のご自身の体験を元に、ご自分の生き方を社会との関係で鋭い切り口で問題提起をされておられますが、なぜ労働・生存運動に関わられるようになったのでしょうか。

雨宮 2006年の4月にフリーターメーデーというのがあって、それに参加したのが労働・生存運動に関わるきっかけです。25歳の時でしたが、2000年に一冊目の本を出して、それからずっと「自殺」「生きづらさ」「リストカット」などを取材して書いてきたのですが、そういう問題の背景には、構造的な“何か”があるんじゃないかと感じるようになりました。自殺者は減らないし、死にたいと言う人や、精神的に病んでしまう人も減らない。自分自身も就職氷河期で、今33歳ですけれども、就職ができなくて、19歳から24歳までの5年間フリーターをしていました。その時、本当に生活が不安定で、生活が不安定だと精神的にもものすごく不安定になるという経験をしています。精神的不安定さの背景には、雇用の不安定さ、生活の不安定さ、経済的な不安定さが無関係ではないだろうと考えていた時に、このメーデーに行って、新自由主義がいかに雇用を破壊して、若い人たちの生活や将来をメチャメチャにしてきたかというような話を聞いてすごく納得をしたことが、こういう運動に関わるきっかけでした。

三宅 そういったご自身の体験をもとに発言をされているわけですが、ご自身のフリーター体験を含めて、今の若い人達の実態をどう見ておられるかをお聞かせください。

雨宮 最近はフリーターの取材が、ホームレスの取材になっていたり、中国に日本のフリーターが派遣されるという状況があります。コールセンターの仕事なんですが、時給が300円で、渡航費も全部自分持ち、ビザ代も自分持ちで海外で働けと言われて、中国のコールセンターに派遣され、そこで日本からの電話を受けているのです。コールセンターは、今までは沖縄にあったのです。沖縄が日本で一番最低賃金が安い場所だったからですが、その仕事が今は中国に移転して、日本のフリーターを時給300円で使う。国内だけの問題ではなくなってきたというか、日本の最低賃金が守られなくなるんですね。そういう実態があります。
 2年前の春には、ネットカフェで20代30代の人が所持金10円、20円しかなく、使用料が払えなくて逮捕されるという事件が起きていました。大阪でも個室ビデオ店の放火の事件がありましたけれども、そういうところに住んでいる人のことは2年前ぐらいには全然知られていなくて、私が初めて知ったのは2年前の春で、岐阜で30代の男の人が一ヶ月マンガ喫茶に滞在して、使用料が払えずに逮捕されてしまったという事件を知った時に、これはフリーターのホームレス化が始まったなと思いました。自分自身フリーターだった5年間のうちに、自分の収入だけでやって行けたことがなくて、家賃を滞納してアパートを追い出されそうになると親に頼るということを繰り返していたので、これはもう親が死んだらホームレスだなと思っていたのです。そうしたら本当にその10年後ぐらいには、自分と同世代のフリーターの人たちが、そういう形でネットカフェ難民となって逮捕されるという事件が全国で起こり出したし、最近では私の仲良くしていた友人の女性が、この一年、ずっとホームレスをしている。不安定雇用の問題がそのまま路上生活に結びついているなと感じています。

三宅 そういう状況を最近はテレビでも取り上げるようになりましたが、それに対して実情だけでなく、これはおかしいのではないかと異議申し立てをする人が出てきていると思うのだけれども、その人たちについて。

雨宮 私が初めて行ったフリーターメーデーは2006年でしたが、その頃から、全国でフリーターの労働組合ができてきました。誰でも、一人でも、フリーターでも正社員でも入れるインデイーズ系労組と言っていますけれども、そういう人たちが全国でメーデーをやる。正規の労働者という枠組みから漏れてしまう人たちが、「自分たちも言いたいことがある」ということでメーデーを起こして、そういうメーデーが、今年は全国で14個所ぐらいで開催されています。そういうインディーズ系メーデーはプレカリアートメーデーとも言われています。プレカリアートというのは、イタリア語のプレカリオ、不安定なという意味です。つまり不安定なプロレタリアという意味の言葉です。そういう運動なんです。労働生存運動というのは、2003年にイタリアの路上にプレカリアートという言葉が落書きされているのが発見されましたが、フリーターメーデーは、プリカリアートメーデーとも言われています。その言葉からもわかるように日本だけではないのです。イタリアでも1000ユーロ世代という名前で、日本と同じように年収は200万以下で、高学歴なのに非正規の仕事しかなく、派遣の職を続けざるを得ない20代のことが社会問題になっています。韓国では88万ウォン世代と20代が呼ばれています。88万ウォンというのは多分9万円ぐらいだと思います。韓国の大学進学率は84%を越えているにも関わらず、正規の仕事が全くなくて、日本だと非正規雇用率は33%ですが、韓国では50%、二人に一人は非正規雇用、特に20代では60%から70%が非正規雇用で、社会問題化しています。グローバリゼーションや新自由主義の元で、雇用の不安定化が起こっているのです。決して能力がないとか、やる気がないといった問題ではないのです。そういうふうに言われがちですが、これは経済の問題なんです。そういうことが言えるので、プレカリアートという言葉を積極的に使って、自分たちのメーデーをプレカリアートメーデーと呼んでいます。
            —プレカリアートメーデーの記録DVD放映—
 これは今年の5月3日に開催されました。今年は14ヶ所でしたが、来年は100ヶ所ぐらいに拡げたいなと思っています。今回はドイツやイタリアでもプレカリアートメーデーが開催されました。イタリアでは10年前には100人ぐらいだったのが、今では10万人ぐらい集まって、正規のメーデーを越えているんです。不安定層が多数派だからです。海外とも連携してやっているので、来年はぜひ韓国とか、日本と同じように非正規雇用率が高い国と連携してやっていきつつ、日本でも全都道府県でもやりたいなと思っています。

三宅 ビデオを見て感じたのだけれど、主張していることは深刻なのだけれど、参加者はすごく楽しそう。これは僕らの世代からみると面白い。深刻な問題を楽しみながら主張しているという感じですね。

雨宮 サウンドデモと言って、トラックにスピーカーを載せてDJをかけながら、みんなで踊りながらデモをする。すると、道端からどんどんお客さんが入ってきて、最初は500人ぐらいで始めたデモが、終わった時には1000人を超えていた。やっぱり新宿あたりを歩いている人たちにはフリーターの人が多いし、正社員でも、時間で割るとアルバイトの時給以下の賃金で働いているような人たちも多いので、そういう人たちが入ってきて、しかもスローガンが「生きさせろ!」とか、「もう家賃が払えない」とか、「月12万じゃ生きていけない」というような分かりやすいものなので、共感するんですね。
 2年前に初めて参加した時、200人ぐらいの若者が、「生きさせろ!」と、日本で生存権を本気で訴えていたことにびっくりしました。デモに行く前の集会で新自由主義がいかに日本を破壊しているかとか、それがいかに自殺や心の病につながっているかということを知りました。それと私の弟が過労死しそうになったということもあります。弟は家電量販店に契約社員として入って、その1年後に正社員となって、正社員になった途端に管理職になって、連日の労働時間が17時間で、1日30分しか休憩がない、しかも立ちっ放しの仕事で見る見るうちガリガリに痩せて行くので驚いたのですが、そういう正社員の長時間労働と非正規の人たちが路上生活に転落していくという問題と、自殺の問題などが一直線でつながって、こういうことだったのかとわかった後に、デモでみんなと繰り出したら、警察が3人ぐらいを逮捕してしまった。本当に生きさせろと言っているだけなのに、生存権を訴えただけで何もしていない若者が、目の前で逮捕させるのを目撃して、それが、今の日本の現状に疑問を持った瞬間です。それから運動に参加するようになりました。
 今度サウンドデモは10月19日に、反貧困ネットワークの集会で明治公園で「世直し一揆大集会」というのをやります。13時から明治公園で集会が始まって、17時からデモをすることになっています。反貧困ネットワークというのは私が副代表で、弁護士の宇都宮健児さんが代表です。多重債務問題とか、労働問題とか、シングルマザーや障害者の問題とかホームレスの人の問題とか、いろいろなジャンルの人が貧困というプラットホームに辿り着いたという言い方をしていますけれども、問題の根っこにはそれぞれ貧困があったということで、「貧困」を合い言葉にいろんなジャンルの人が、大同団結してつくられたネットワークです。

三宅 「生きさせろ」というスローガンが、21世紀にデモに掲げられるなどということは、多分一定の年齢の人には想像できなかったと思うのです。

雨宮 そうですね。当事者も想像してなかったのです。1億総中流という言葉のもとで育ったわけですし、私が学生のころは経済成長の時代で、その頃は「いい学校、いい大学、いい会社」みたいな神話が通用していたし、まさか日本で食いっぱぐれることはないだろうと思っていました。ところが自分が社会に出た瞬間にバブルが崩壊して、就職すらもできない状況になってしまった。でもこんなに平和で豊かな日本で、自分が食いっぱぐれる筈はないと思いながら、10年ぐらい低賃金で働いてきたフリーターの人たちが就職氷河期世代には多いのです。その人たちが、豊かだと言われている日本で、本当に路上に行き着きつつあるという、そういう状況が当事者に理解されるまでには時間がかかって、自分に起きていることが何なのかわからないという人が多かったですね。でもその背景には派遣法がどんどん改正されてきて、製造業の派遣にまで解禁されて、派遣会社は北海道とか東北とか沖縄とか、そういう最低賃金の安い場所に営業所をたくさん持って、そこで月収30万稼げるというような嘘ばかり書いた求人広告をばらまいて、田舎の若者を騙すように愛知とかの工場に連れてきて、時給1000円ぐらいで働かせる。しかし、そこから寮費を取られて光熱費を引かれて、エアコン代を一日100円ぐらい引かれて、カーテン、こたつなどにも全部レンタル料がついていて、それも引かれてという感じで、結局12〜3万にしかならない。秋葉原の加藤容疑者などは典型的に、青森から日経製造という日本最大手の製造会社に登録して、豊田系の関東自動車工業に働きに来て、ああいう事件を起こしたわけですけれども、私の取材でも、製造業の派遣が解禁された2004年以降に、そういう働き方をして、そのままホームレスになった人にたくさん出会いました。その理由は、製造業の工場の派遣は2〜3ヶ月契約なので、生産調整なんかによって、すぐに首を切られるので、地元では、半年働けるよと言われて出てきて、実家から遠く離れたところで寮生活をしているわけですが、いきなり「あと3日で契約は終了だから寮も出て行け」と言われ、知らない土地で仕事と住む場所をいきなり失うので、ホームレスになりやすいのです。派遣会社によっては往復の交通費が自己負担だというところもあるんですね。例えば半年以内に辞めると自己負担だとか、半年以内に辞めると寮のハウスクリーニング代を1万5000円請求されるとか、そういう感じで1円も残らないようなシステムがつくられているのです。トヨタとかキャノンを経由して、名古屋や東京のネットカフェで寝泊まりして、住所がないので普通のアルバイトもできないので日雇い派遣の仕事をして、それが長期化して5年以上そういう生活をしているような人がたくさんいます。それはやっぱり派遣法が改正されたことと、もう一つは94年に、日経連が「新時代の日本的経営」という報告書を出しますが、働く人を勝手に「長期蓄積能力活用型」「高度専門能力活用型」「雇用柔軟型」の3つに分類して、これからは一部の人を激安の使い捨て労働力にしょうという提言を、今から13年前に出した。それが今働く人の三人に一人が非正規雇用というふうになっているのです。これはまったく自己責任ではなくて、そのように仕組まれてきたんだということを、この2〜3年、当事者側も勉強をして知るようになりました。小泉構造改革や規制緩和と言われたものが一体何だったのか、そのことで自分たちの生活がみるみる苦しくなっていったことを、若年層ほど実感しているので、そういう議論があって、先程のメーデーにつながる運動が全国に拡がっているのです。最初からそれは憲法25条の生存権の問題であるということは共有されていました。そして貧困の問題を突き詰めると9条の問題にいくというか、貧困の問題を突き詰めて行くと戦争の問題に辿り着いたという感じの問題意識が最近共有されつつあります。それで先程のメーデーも大きなテーマは「反戦」「戦争反対」ということでした。

三宅 「自己責任」という主張があって、雨宮さん自身もある時期内向的になっていたと本には書いていますが、そこから「生きさせろ!」という方向に自分自身の意識を反転させていく、その辺のことをお聞かせください。

雨宮 それは状況が厳しくなったというのが一番大きいです。今運動に関わっている人たちも、本当に自分が職を失うとか、失業を繰り返しているとか、路上生活が真近かになっているとか、本当に生きられなくなったからというところがすごく大きくて、思想とか以前の問題として、生きられなくなったから面倒くさいけれども運動をやるという感じです。本当に、動かないことには生存できないというところがあるので、自己責任と言われて続けて、自分を責めて責めて、私の周りでも、友人やイベントに参加してくれた人を含めると数十人ぐらいがこの10年で自殺しています。自分を責めて自分を殺してきたということを20代・30代の人たちはしてきて、2002年から20代・30代の死因の一位は自殺なんです。事故や病気で死ぬより多いのです。そういうことと、就職氷河期とか、98年の後半から成果主義が導入されて、正社員で居続ける、職場にしがみつくことも大変になってきていて、20時間ぐらい働かないと正社員として認められないみたいな、そういう中で、どんどん精神的にも壊されて来たという経緯があります。そういう人も一瞬小泉政権を支持したりしましたけれども、結局小泉が郵政選挙で勝ったことによって、どんどん自分の状況が悪くなって行ったことが分かって、それで気づいたというところもあると思います。それと、景気回復ということが言われるようになってきて、例えば、今30代の就職氷河期の人たちは、社会に出る時に全然採用がなくて、でも景気が回復すれば自分たちも何とかなるのではと、景気回復を待つ形でフリーターや契約社員として働いてきたわけですけれども、景気回復と言われるようになっても何にも良いことがないどころか、どんどん自分たちの状況が悪くなっていく、30代になっているのでアルバイトすら雇ってもらえなくなるということになって、これはもう自己責任とか、そういうレベルではないんじゃないかということに気づきだした。そういう形での運動の始まりだったと思います。逆ギレですね。

三宅 若い世代の自殺は多いのですね。

雨宮 もともと多いのですが、2002年からこの5年間の多さというのは異常ですし、運動や怒りに行く前に自己否定の回路に入ってしまって、自分で自分を追いつめてしまう。親とか周りの人にも結構追いつめられているんですよ。親の理解がなかったりしたので。親は社会の構造に対して一緒に怒るんじゃなくて、子どもの個人的な能力の問題なんじゃないかと捉えていて、先程の製造業の派遣を経由してネットカフェ難民になってしまった人に話を聞いても、親に信じてもらえないんですね。働きに行くと言って東京や埼玉に行って、働いているのに帰るお金もないなんていうのを親は絶対に理解してくれません。でもそういうシステムになっているんですね、社会が。1円も残らないどころか赤字になるシステムが派遣労働に組み込まれているのに、親の時代だと期間工という形で稼げたわけですね、工場労働は。でも今期間工は派遣労働の人の憧れで、派遣と期間工は年収100万円ぐらい違うんです。期間工は寮もタダだし、慰労金も出る。でも派遣の人は年収100万違う上に寮費も自腹だし、慰労金も1円も出ないし、完全な時給制なので、お正月とかお盆とかゴールデンウイークとかは給料が8万円ぐらいになってしまう。そういうことをなかなか理解してもらえない。正社員になっても、ものすごい長時間労働でもう続けられなくて、ぼろぼろにされて、再起不能なほどに使い捨てられる形で辞めるような若い人が多いということも、やっぱり「若者は3年で辞めてしまう」みたいなバッシングがあったりだとか。
 でもその背景には、過労による精神疾患で、20代・30代の労災申請人数が60%を越えているんです。そういう話をすると、弱いからではないかと言われることもあるんですけれども、企業には育てようという気が全くなく、即戦力で使い捨てて、それを回転させていくことで、なんとかやっているというように、企業自体が完全に余裕を失っている。そういう中では、正社員も使い捨てだし、非正規だと最初から使い捨てということが前提みたいなものですし、そういう中で産業構造も変わって、国際競争なんて言葉で、何も言い返せなくなっているうちに、どんどん労働環境が破壊され尽くして、今の状態があるという、そういう感じですね。

三宅 1990年代の末から自殺者が年3万人以上、で、絶対数が多いのは50代なんですが、3万人を越えるのがずっと続いているというのはすごい話で、1960年代に交通戦争という言葉が言われたことがあって、この時は交通事故で死ぬ人が1万人で、だから戦争なんだと言われたんですね。一万人以上死んだというのは日清戦争の時の数なので、これは交通戦争だと言われたのですが、3万人以上死ぬのが10年も続けば、これは長期的な内戦みたいな話ですね。 

 

第2部 金子勝さんの講演
                  
三宅 21世紀に入って、特に小泉改革の時に出てきた今の状況の背景を今度は金子さんにお話を伺いたいのですが、よろしくどうぞ。

金子 『世界金融危機』という本を出しまして、実は最初に『閉塞経済』という本を出して、今起きている枠組みを説明しながら、同時に雑誌の『世界』に『グローバル・クライシス』(クライシス=経済上の危機。恐慌)というタイトルで連載を初めて、7月に次の津波がやって来るという予言をしまして、第4回では9月に世界は壊れそうだと書きましたが、9月7日から壊れだしたわけです。おそらくここにいる方々は不気味な予感を持っている筈です。世界中の金融機関が潰れていって、アメリカとEUを合わせれば世界のGDPの3分の2を占めますから、そこで不況になり金融機関がどんどん潰れていくと、日本が無事なわけはないのですけど、今の麻生内閣の人たちは、何が起きているか分からないので、「オタオタする状況ではない」とか「日本への影響は極小だ」とか、そしていざ自分で調べてみたら選挙に勝てそうもないというので、「世界金融危機だ」と言い出したりする。しかし、それがどういう意味を持っているかも説明できない。
 まさに二大政党制が機能しなくなって、オルターナティヴ(代案。既存の支配的なものに対するもう一つの考え方、思想)が表面に見えない。対立がただお互いの勢力を高めるためだけに行われている。起きている現実が何であり、それがどういう原因で起きて、だからこういうふうにしなければ突破できないんだ、あるいはこういう大きなリスクに対して何かの手段を取らなければ、社会も経済も救うことができないんだという強い訴えをする政治家も、経営者も、官僚も、学者も、ジャーナリストも皆無に近いほどに崩壊をしてしまった。そういう状態の中に私たちは生きているというふうに考えざるを得ないです。

アメリカ経済の破綻
 9月7日に、二つの住宅関連の金融公社がアメリカで潰れました。ファニメーとフレディマック、こんなこと分かっていたのです。住宅ローンを担保証券に替えるのがこの二つの公社の仕事です。08年の1〜3月期のデータを見れば、この住宅ローン担保証券の発行額がほぼ0に近くなっている、つまり仕事がないのに公社が5兆ドル近い証券を抱えているか、保障をしている。仕事がないのに持っている債券はどんどん損失が出ている。潰れるに決まっているんです。しかもこれは小泉路線と同じように、住宅関連の公社はもともと国営だったものが民営化されたものなのです。
 2月11日の夜中に、友人から「おいリーマンの株価が4割落ちた、AIGが15%落ちたぞ」と知らせがきた。ここから始まったのですね。リーマンブラザースが潰れていることは、3月のベアスタンズが潰れた時点で、批判的な意見を持つ人たちの共通項でした。「もう終わっている」と。直前にウォーレンバフェットとか、向こうの金持ち達にも「もうゲーム イズ オーバーだ」と言われていたのです。15日にメリルリンチと共に潰れて、メリルリンチは買収され、ゴールドマンサックスとモルガンスタンレーが銀行持ち株会社に衣替えをして、FRBという中央銀行の救済を受けられるような形態になった。気がついてみるとアメリカの証券大手5社は、投資銀行を止めて、つまり証券会社であることを止めて銀行に買収されるか、自ら銀行形態に移行した。上位5社が潰れた投資銀行モデルこそは、小泉構造改革が、これで食っていくんだと言ったモデルだったのです。「金融立国だ」と言ったのです。金融自由化を基軸とするグローバリゼーション(地球規模化)によってばく大な富を得て、そして多くの人たちを落としながら、これで日本は食っていけるんだと言ってきたわけです。
 日本政策投資銀行のホームページを開いてみると、我々は民営化して証券化ビジネスをやるんだ、CDS(債権を直接移転することなく信用リスクのみを移転できる取引銀行自己資本比率を高める対策の一環として利用されるケースも多い)をこれから取り扱いますと言っている。来年の6月にも銀行と証券の垣根を取り払い、プロの市場をつくる。まさにそこが爆薬庫になって爆発している最中に、今もってこの国のリーダーたちは、本当に何が起きているかさえ分からず、過去に言った言説の責任を免れるために、あいまいな言説を流し、そしてタブーをつくり、そして多くの人たちに考えることを止めさせようとしているとしか言いようがない。
 でも眼前に株価が900円以上落ち、9200円代まで落ちている。銀行は株価が1万円を割れれば損失が出るので、猛烈な貸し渋りが始まる。この国は今、産業戦略も何もかも失った状況に立たされている。私たちは何で食べていくのかということを、国のリーダーが指針を持たないまま、食っていこうとする「金融立国」が、実は世界中をペテンに巻き込む詐欺だった。振り込め詐欺を取り締まるのは結構だけど、政治家も官僚も経営者もジャーナリストも、トップにいる振り込め詐欺をまずはきちんと処罰することから、この国は初めて再出発することができるのです。

貸し渋りと企業の倒産
 次に、インフレターゲット(物価上昇率に対して中央銀行が一定の目標を定めること)だとか、構造改革とかを組み合わせる経済政策を、常識であるかのように語ってきた経済学者の責任であります。輸出に依存して我々は生きてきましたが、考えてください。今ヨーロッパもアメリカも次々と金融市場は完全に麻痺状態です。市場競争はとことん激しく自己責任で死ぬか生きるかの戦いをすることによって、人々は真剣に闘い、それによって市場の活力が生まれ、経済が成長するのだと言ってきた。でもよく現実を見てください。今世界の銀行間の調達金利は、この金融安定化法案の通る直前には7%までに上がってしまった。一ヶ月物の金利も10月1日が3%、2日は4.5%、今短期金融市場は誰もお金を出さない。この現実の後ろ側にあるものは何か、金融機関同士がお互いを信用しなくなっているということです。お互いがお互いに疑心暗鬼になっている。相手の銀行にはどのくらい損失が眠っているのだろうか、もしかしたら潰れるんじゃないか。誰も潰れる相手にお金なんか出しません。どんどん短期金融市場が麻痺し、金利が上がる。コマーシャルペーパーという短期の証券を出す市場もほとんど崩壊状態になって高くなっていく。良く考えてください。血と血を争うような市場競争のど真ん中にある金融市場において、実は経済は信用で成り立っているのです。互いが互いを信用しないかぎり、市場は崩壊するという現実がパーッと表に出てきたのです。そのために公的資金を入れたり、いろんな事をやろうとしていますが、どれもこれも中途半端で上手くいきそうもない状態です。そのことも分かってしまっている。そして世界が次々と、次はどこの金融機関が倒れるかを恐れながら、信用がどんどんひっ迫してくる。企業も倒れそうになる。個人も消費が落ちてくる。こういう悪循環が起きると、さらに住宅価格が落ち、証券の価格が落ち、金融機関の損失が拡大し、そしてまた金融機関が貸し渋りをし、金融収縮が起き、こういう悪循環に今入りつつあるわけです。
 私は悪魔の預言者って、よく言われてしまうんですが、別に悪魔の預言者ではなくて、自己責任でやれとか、リスクは自分で取れと言ってきた張本人たちは、思い出してください。小泉さん、竹中さんを筆頭に、エコノミスト、アナリストの大半、あるいは大多数がいつでも楽観論、自分の責任は自分でとらなければいけない、大丈夫だ、大丈夫だ。彼らは常にバブルに載せたいだけ。自分は出し抜くだけ。後はみんな死んで行くプランクトンです。こういう言説だということをちゃんと見ないといけない。まあ、ある種の騙しになるわけですね。で、煽る。バブルが崩壊しそうになっても、大丈夫だ。崩壊しても大丈夫だ。ずるずる行っても大丈夫だ。しかし、我々研究者が職業倫理に忠実に従うならば、常に起きるリスクを我々は何であるかを考えて、できればこれを全面的に回避する。回避できない場合でも、その被害を最小にする。それがまっとうな研究者の役割だと私は思っています。残念ながら今のところ100発100中当たってしまっている。しかし私はどうも研究者として認められていなくて、学会のアルカイダ扱いです。残念ながら。当たれば当たるほど嫌がられる。
 今、大きな時代の転換期に差しかかっているということを、まず大きな流れを読んでいただきたい。なぜならば、大恐慌のストーリーは、その後に多くの国々の、グローバリゼーションの後に来るものは国家間の衝突であり、格差の是正も自社会中心主義になりがちになり、そして結果として起きることは、世界がどう動くかがわからないために、人々が得体のしれない不安に駆り立てられる、そして軽はずみな言論に乗っていくという事が起こるからであります。私はこの社会、市場社会が崩壊することを願ってはいません。救うために最大限の努力をする、それは一面で理不尽なシステムを抱えているかも知れないけれども、それが延命される事になるという批判を私に投げかける人がいますが、私はそれでもなおかつ人々が生活できないという現実に対して、崩壊をするのを待ち望むような無責任な意見に対しては、私は断固反論します。
 人の命や人の生活がいかに大変であるか、そのために最大限の努力をしないものの言説を誰が信じるでしょうか。ある程度の所得を持ちながら、どうせこの仕組みは壊れるんだよ、という高見の見物は、私の趣味ではありません。火中に入り、そして中小企業の経営者も、大企業の経営者も含めて、多くの人に納得してもらい、理性的な社会を最低限実現するために、先頭に立つことが何よりも社会の多くのたちの納得を得る道だと言わざるを得ないのです。
 そう考えると残念ながら今起きている世界的な金融危機は、しばらくの間は止まらないであろうと思います。おそらく、二つの問題があります。一つは金融安定化法案が通りましたが、これはメディアのタブーになっていますが、本当の問題は証券化である。何でも証券化する、そういうやり方が複雑な金融商品をつくり出してしまったために、損失が隠され、特定できなくなっている。まさに金融立国のコアにある証券化の大失敗であります。これは主流の経済学者、エコノミスト、アナリスト、そして官庁、あらゆるものが推進してきたものであり、メディアもそれを応援してきた。ここがタブーです。

損失を見えなくした“証券化”
 いいですか。住宅ローンを担保証券にする。これをリスク毎にプライム(信用度の高い人向け高級住宅ローン・金利が安い)、ジャンボ(大口住宅ローン・金利が安い)、オルトA(勤め先がしっかりしているものの、所得や資産内容に若干の問題がある人向けローン。金利は中間)、サブプライム(通常の融資の受けられない信用度の低い人向けローン。金利が高い)に切り分ける。さらにそれを支払いの優先劣後、つまりデフォルト(債務不履行が起きても優先的に払われる証券)、シーニア・メザミーと支払い順序に応じて、このサブプライムもオルトAもさらに切り刻んでいる。それを中小企業向けのローンや自動車ローンや消費者ローン、これのリスクに応じて組み合わせて複雑な証券をつくる。こんなもの誰が価格が分かりますか。出どこが分からないいろいろなものを一緒に混ぜて計算上はリスクは回避できる。しかし、価格が決められないんです。日本のバブル崩壊の時は経営者がごまかしていました。しかしこれは、小泉構造改革や主流経済学者が進めてきた証券化そのものの大失敗がつくり出している事態、売れもしないし価格もわからないものを、どうやって買い取ったらいいのか、どういう価格を付けたらいいのか、昨日、リーマンの会長が議会の公聴会に呼ばれて、五年間で480億円から貰っていたという事実で糾弾されていました。財務長官のポールソンは、退職金70億円です。ゴールドマンサックスです。彼らがやってきたことを、彼の子分が今度査定をするわけです。入札であるという。自分たちを救うために、インチキな価格を設定するのは分かり切っているわけです。彼は資本を注入しないといけないと、公的資金を入れ資本不足を補わなければいけないと言っている。そんなことは公正な価格ではできません。価格がないんだから。決められないんだから。損失がいくらだか分からない。だからこそ、そういう問題が出てくるのです。

「金融安定化法案」では救えない
 もう一つ、実はプロの市場をつくるとか言っています。来年の6月に証券と銀行の垣根を取り払う、日本の政府はまだそこに突っ込んでいるわけです。法律まで決めて。このプロの市場はどういうところにできているかというと、アメリカでは銀行の下にSIVという投資ビークル(金融市場から低金利の資金を調達し、不動産などを担保にした長期証券である債務担保証券や資産担保証券などの高利回りの証券に投資を専門に行う投資会社のこと)をつくっている。資産運用を目的とする会社です。で、投資銀行の下には、ヘッジファンドがたくさんあります。これが預かり金を預かったり、証券を発行して資金を調達して証券化のビジネスをやる。連結決算(親会社と、その支配関係にある複数の会社グループを単一の組織と捉えて、一括して業績を把握する決算方法のこと)の対象外だから。FRB(アメリカの中央銀行)も証券取引等監視委員会SECの監視も監督も及ばない。自己資本比率規制というさんざんぱらアメリカが押しつけてきたルールも効かない。証券化はもっとも、こんなに複雑になったために時価主義会計、グローバルスタンダード(世界標準)だとさんざん押しつけてきたものは何も適用できない。この隠れた地雷の、この「影の銀行システム」と呼ばれるファンドやSIVが実は10兆米ドル、1000兆円の規模がある。日本のGDPの倍です。本体の銀行とほぼ同じくらいの規模があるということは、FRB自身が言っている。ここには、まったく今度の金融安定化法案は及ばない。どんどん景気が悪くなって証券が劣化する。短期市場がだめになって資金が調達できない。資金が空売り規制でますます儲けられない。そういうファンドがボーンと爆発して行くたびに、本体に不良債権が表にどんどん出てくる。かくて、隠しや飛ばしで、日本の銀行が奥深いところの不良債券が眠っていたのと同じ状態にアメリカは置かれています。金融安定化法案がだめであっても、資本注入をなかなかできない。経営責任を問うことができないかぎり、公的資金の導入は本当はできない。まさに日本の社会が、かつてぶつかったのと同じ問題、いやもっと高度化された形でアメリカで再現されている。
 さらにこれはヨーロッパに飛び火していますが、今EUはこれに対応できなくなっています。ECB(ヨーロッパ中央銀行)は、EU内の個別の銀行を救済することが法律上の規定でできません。連合体の中央銀行だから。各国ばらばらで国有化したり、いろいろな救済をやっている。今、パニック状態です。アイルランドが預金を全額保護し、アイスランドもやった。アイスランドはご存知の通り金融立国のモデルで、NHKも祭り上げて「こんなにすごい金融特区にして自由化してこんなに儲けている」と。でも今はぼろぼろです。今正反対のロシアに救われている。不思議な状況です。アイルランドは全額保護した。もう危ない。土地バブルがはじけています。イギリスも、スペインもノルウェーも、なんとスウェーデンも、ドイツも、フランスも、イタリアもあらゆる国で、GDPがマイナスに入り、住宅バブルが崩壊し、まるで1920年代から30年代にかけての時代と同じような状況に入っています。いつ銀行が潰れてもおかしくない。全額保護しないと預金が逃げてしまう。そうなると銀行が潰れてしまうからです。だから全額保護する。他の国も自分も全額保護するといわないと預金が、どんどん他の国に逃げてしまう。そのために銀行が潰れてしまう。まさにそういう非常事態、さらに分かってきていることはなんと、UBS(富裕層向けの投資銀行)という大量の不良債権を抱えているスイスの大銀行はなんとGDPの5倍も資産を持っている。ドイツ銀行はドイツのGDPの8割を持っている。もし、この大手金融機関に危機が及べば、国有化もできない。だって国家より大きいから。国有化したとたんに国家が潰れちゃう。まさにそういう事態なんです。

小泉政権の大罪─産業の喪失・雇用の喪失・医療、年金制度の崩壊
 小泉構造改革はこの中で大破綻をしたということをまず認めることから、事態を打開しなければいけないということを多くの人が、声を大にして言っていただかないとこの国は救えません。
 小泉政権には、3つの大罪があります。1つは金融立国路線によってこの国は産業戦略を失ってしまった。この国は何で食っていくのか、まったく方針がない。2番目、輸出依存の成長をしてきた。経済財政白書でも6割から7割、そのために円安を誘導し、非正社員をつくり、賃金を下げ、中国の人や韓国の人と同じ賃金水準になるまで競争させるという路線を取った。そのために321万人の派遣労働者と180万人のフリーターをつくり出した。でもこの輸出さえだめになるんです。この間のイザナギ越えがなぜ実感がなかったか、輸出に依存して、6割から7割の成長のうち、6割から7割が輸出だったと経済財政白書も認めている。では世界の3分の2が不況になって、これが持つだろうか。
 3番目、雇用の規制緩和。医療や、年金の崩壊、これによって格差がひどい上に内需がまったく振るわなくなってしまう。それだけではない、この世界同時不況が、この日本を襲えば、この格差社会のまま一体何が起こるのか。社会が持つわけがない。何で食っていくかの戦略もなければ、飢えたる人々を次々とつくり出すようなこの社会のメデカリズムを放置している。今若者の問題がありましたけれども、私は福祉ネットワークという教育テレビの番組で医療や介護の現場を次々回っているんですけれども、もう本当に起きていることはめちゃくちゃです。病院はどんどん追い出している。小泉改革のおかげで診療報酬は19日を越えるとどんどん減ってしまうので、病院から出さなくてはいけない。14日以下にすると診療報酬は上がる。次々です。リハビリに行く、ここでも追い出す。次々難民化している。医者が不足しているだけじゃないんです。国民健康保険の保険料を滞納している480万世帯、35万世帯が保険証を取り上げられていて、100万を越える世帯が短期保険証に転落をしている。すべり台社会と湯浅誠が言っていますが、国民年金は崩壊し、国民健康保険も崩壊している、賃金がない、その日暮らしの雇用が守れないだけじゃなくて、ひとたび病気になれば生きていけない社会になっている。それは若い人だけではない。
 私は福祉ネットワークという番組でこのような事例を取材しました。広島のある女性で、二度離婚をして、下の子と住んでいますが、ダブルジョブで、掃除婦とお総菜をつくる職場で働いて、娘さんも非正規職で、二人で月収は18万円。それでアパートを借りて生きている。その方が病院に担ぎ込まれる事例を追いかけたのですけれど、乳ガンなんです。しかも医者のカルテを見たら10センチもあって、噴火口のようになっている。血がパーット溢れてきて救急車で運ばれた。それでも「私は保険証がないので10割負担なんで、抗がん剤は幾らかかりますか」と聞く。実際10万ぐらいする。生きていけないではないですか。入院を断ってそのまま帰って来た。当然のことながら、痛いので膏薬を貼って痛みを止める。でももう溢れる血が止まらなくなってまた救急車で病院に担ぎ込まれる。どうもならない。そこで娘さんを呼ぶ。医者は「末期ガンであります」と宣告する。ソーシャルワーカーが生活保護を申請して、生活保護を受けて入院をしたのですけど、3ヶ月で死んでいきます。ガンの宣告をされた時に、娘さんも立ち会っていたのですが、娘さんも、母親に保険証がないことは知っています。本人は末期ガンであることを知って覚悟していたのですが、娘さんは泣き崩れてしまう。実は亡くなった後に放送はできなかったのですが、そういう人は出てくれないのです。自己責任社会っていうのはむごくて、保険料が払えないのに、払わなかったという罪悪感があって、「悪いことをしているのに出るわけにはいかない」と、親戚も言って止めるんです。最初は離婚した、前の旦那さんの長女が出てきて、理不尽を訴えてくれる筈だったのですが、結局親戚が止めて、出られなくなってしまった。まだその後があるのです。亡くなった後、妹さんは生活保護を受けるしかないので、お姉さんが生活保護を申請したのだけれど、駄目だったのです。この人もワーキングプアで保険料が滞納気味なんですけれど、結局、元の離婚した自分の父親とは違う男性のところへ行って、どうか妹にお金を出してほしいと説得するわけです。結局、上手くいったかどうか分からないまま、帰ってこざるを得なかったのですが。一事が万事、起きていることはそういうことなんです。つまり突き落とされた先に歯止めがない。そういう社会です。
 石炭から石油ヘ移って行った時代が、1930年代にありましたが、世界の金融システム、国際通貨制度が崩壊をして、金融機関が次々と倒れ、多くの人たちがその渦に巻き込まれて、たくさんの失業者や、たくさんの生活することが困難な人たちが生まれた時代に重なるように、世界が動き始めています。1927年に日本は最初の金融恐慌に突入し、そして小泉と同じように浜口雄幸内閣がラジオで痛みを伴う改革を訴え、1000万枚のビラをまく。そして痛みを伴う改革を実行し、グローバルスタンダードである金本位制に復帰しようとして、昭和恐慌に突入し、翌年満州事変に入って行くわけです。現代はそう簡単に戦争には入らないとは思いますが、いつでも私たちの国には、「方向性の見えないエネルギーはどこへ向かうかわからない」という恐怖心が僕にはあります。
 真の対立点のない、民主主義のない国の、その政治のありようの中からは脱出口が見えなければ、そのエネルギーが、憤まんやる方ないエネルギーが、秋葉原の無差別テロであったり、荒川冲の無差別テロであったりする。その兆候一つ一つに私たちは敏感にならなければ、本当の意味で、この社会が悪い方向に向かうのを阻止することができない。だからこそ、威勢のいい言説よりも冷徹な分析力、そしてこの国や社会が世界とともに、どういう方向へ向かおうとしているのか、そしてそれを阻止するためにはどうしたらいいのか、人々が生きるための戦略、そういうものを真剣に指し示すことができるものこそ、社会を救う急告の本当の志士となるこことができるのだろうと思います。
 私は本当に国を憂いています。極めて危ない状況です。そういう状況の中だからこそ、真のオルターナティヴ(代案。既存の支配的なものに対するもう一つの考え方、思想。)を皆さんとともに考えながら、私はいくつか出していますが、どうにかこの社会が、未来の子どもたち、あるいは未来の世代が、いきいきと生きられるそういう正常な社会に残していくことこそが、私たちのある一定年齢以上の世代の最後に残された責務だろうと思ってあきらめずにやっているわけです。

第三部 質疑応答
 
三宅 雨宮さんへの質問の一つは「雇用や失業に関して、法で規制するなど、どのような方法が良いと考えるか?政治の役割をどう考えるか?」というものです。

雨宮 規制緩和で雇用が破壊されてきたので、規制の強化の方向を求めて運動をしていて、明日も院内集会を議員会館で行います。派遣法自体を99年の全面解禁以前に戻すのが一つの大きなテーマです。法律によって、政治的な意図で不安定化させられたものは、政治が変わらないと、個人の努力ではどうにもならないので、そういうことを求めています。政治の問題として取り組んでいます。

三宅 金子さんに対する会場からの質問はだいたい四つに分類されると思います。

 質問1 金融に関して国だけでなく海外も含めてどういう新しいルールが必要と思
        うか?どういうものを何に関して要求していったらいいと考えるか?
 質問2 社会体制の問題をどう考えるか。特に中南米などのあり方と絡めて、これ
        から先をどう展望するか。
 質問3  人と人との社会的な連帯をどうつくるか。どういう性格のものがいいと考え
        るか。
 質問4 将来に対する展望と、私たちが個人のレベルでもできることをどう考えるか。

 

オバマの演説にみるエネルギー産業革命と大地の再生
金子 僕はオバマという人間が生まれてくること自身が、アメリカのダイナミズムをどこかで象徴していると思っています。日本の麻生と小沢は汚染米です、残念ながら。オバマのオルターナティヴは、つまり「チェンジ」と言って彼が演説をすれば若い大学生が取り囲むように聞いて彼の演説に酔う。それはブッシュや小泉のワンフレーズ・ポリティック(政治学)ではなく、チェンジという分かりやすい言葉は言っているけれども、彼は長い演説をゆっくり、ゆっくりかみ砕いて演説をします。みんな酔いしれるようにそれに聞き入るわけです。そこには新しい見来像を指し示すようなさまざまなメッセージが込められています。例えばミシガン州という共和党と民主党の激戦区でヒラリーと戦った時に、彼はこの不況の地で、「みなさん私は1500億ドルを環境投資として政府が支出をします。それによって500万の雇用をつくり出す」と。「環境エネルギー革命を展開することによって新しい社会をつくります」と言うのです。よく考えてみれば、石炭が蒸気機関をつくり、紡績機具をつくり、そして海軍力で世界を支配したイギリス、石炭から石油になった時に、蒸気機関はエンジンに変わり綿織物工業は重化学工業に変わり、デュポン、GE、フォード、ロックフェラー、あらゆる後を支配する世界有数の企業が、小さい企業から次第に大きくなっていき、そして空軍力で世界を支配していく。今そういう意味での大きな代替エネルギーへの転換、環境問題は単に地球温暖化を防ぐのではなくて、新しいエネルギー革命を起こすというメッセージが込められている。
 エンジンがモーターになり全ての自動車を替えなければいけない。建物を替えなければいけない。自然再生エネルギーは、エネルギーが不安定なので、ローカル単位に蓄電をする装置をネットワークのように張り巡らせなければいけない。さまざまな雇用や新しい更新需要を生んでいく。戦争で破壊することによって更新需要を生み出すのではなく、エネルギー産業革命を起こすことによって雇用をつくり出すのだという一つのメッセージであります。
 私たちの国は貿易黒字をバックにして、エネルギーを中東に依存し、麻生首相は9割を中東に依存するこの国のいびつな構造を何も省みることなく、インド洋での給油活動を継続することが日本を救う道だと言っている。しかし、今足元は貿易赤字です。買うお金もないのにインド洋で守る必要はないだろう。何よりもエネルギーの需給をどうやって高めて行くか、そのことによってどうやって雇用をつくり出すのか。人間の生きて行く糧、job(仕事)をどうやってつくり出すのかというところからはじめなければならない。
 同時に食料の需給、『食から立て直す旅』という本をだしましたけれど、いかにして普通の人が安全なものを食べ、そして農業者も生きていけるか。僕はいろんな農村を今回っています。実はこの月曜日、日曜日と山形県の高畠町で有機農業のふるさとで、学生と農業体験をやって来たのですけれども、流通を短縮する。遠く運ぶことには意味がない。もっと合理的に流通費用や運搬費用を削減する。農協の搾取を止めさせて自分で売る。そのことによって小さな面積でも生きていける。あるいはそれを農産加工していく。日本中でおいしいワインが、あちこちできていたりする。こういう、一から、大地から再生するような食料やエネルギーという社会の生活を成り立たせる。基盤から立て直して行く。そこから産業や雇用をつくり出していくというような、我々自身の社会を変えて行くようなメッセージにもつながっていくようなことを彼は、オバマは演説の中で言っています。

自国だけが生き延びようとする時代
 おそらく最大の問題はドルの暴落が起きるかどうかということにかかっていきます。本当にそれが起きた場合には、我々は手の打ちようもない混乱に入るかも知れません。しかし、避けられないかもしれません。フレディマックとファニーメイ(どちらも、GESと呼ばれる政府援助企業の1つで民間企業。民間金融機関からローン債権を買い取り、証券し、市場で住宅ローン担保証券を発行する業務を行っている)の債券を、中国政府および中国のファンドは3760億ドル持っています。日本は228億ドル、そしてロシアは1000億ドル持っています。80年代はアメリカの同盟国と言われた日本が必死に輸出をし、稼いだお金でアメリカの赤字を支えていた。しかし今は、敵国とされるロシアや中国、あるいは同盟国とは本当の意味では言えない中東諸国が、これを支えている。もし、彼らが投げ売りをすれば、ドルが崩壊するような時代、しかし、彼らは共連れで死にたくはない、しかし、アメリカを支える気は無い。こういう不思議なバランスの上で今動いています。アメリカの金融機関に中東も出さなくなってきているし、ロシアはどんどんお金が逃げられて株が暴落し、中国も暴落しているので、アメリカを助ける気はあまりない。そういう中でジリジリと事態が進行して行った場合、どうなるのか。オバマは新しい希望かも知れないけれど、オバマの政策を実行して行けば、おそらく1兆ドルから1,5兆ドルの財政赤字は避けられない。今から50年の長期債をアメリカはこつこつと発行しはじめている。つまり、そういう状況の中で、この膨大な財政赤字を誰が支えるのかという問題が、多くの国々に突き付けられる。アメリカ中心の秩序を快く思っていなくても、一気の崩落は何とか避けなければならない。こういうバランスの中で動いてきている。EU諸国も先程言ったように、ECB(ヨーロッパ中央銀行)、EU統合の効果が大きく発揮されないままこの金融危機の中で、自分の国だけが生き残ろうという動きが強まってしまっている。こういう中で国際的な金融ルールが定着するまでには、相当な時間や、ひょっとすると途端な苦しみを我々自身があじあわなければならない局面がくるかもしれない。そういう中で長期の展望をしながら、新しい国際金融ルールの定着、あるいは新しいアイディアの形成、おそらく、バブル的なものをするには、少ない元手で大量の資産取引をする証券取引や資産の取引をするやり方を、どこかで食い止めるようなルールを多くの国々が合意しないかぎり、安定的な秩序はつくり出されないだろう。その中で、そういう長期の展望を掲げながら、未来に向かって新しい流れを誰がつくリ出すのかを競い合わなければならない。
 そうするとエネルギーや食料という基幹から始まり、それを産業に転換し、雇用をつくり出し、その中に新しい時代の価値、つまり安全や、地球環境を守ったりという新しい価値を実現する若いエネルギーが結集されるような枠組みをつくらなければいけないのに、この国はひたすら若い人たちが這い上がれないように財界も政界も官界も学会もジャーナリズムもみんなオヤジたちが逃げ切るために、若い人を馬鹿にしている。何も考えないようにしている。生きるのに精いっぱいにしている。これじゃあ江戸時代の農民同然だ。馬鹿が一旦組織のトップに座った時この国の組織は極めて恐ろしい事態になる。責任をとるルールがない。それはあらゆる組織に共通していることで、私たちはその中で、なおも新しい価値の実現のために、そういう日々の努力をしている。農村で新しい事業を起こす。環境エネルギー革命のために何かの努力をする。あるいはそういう中で社会保障の再建や地域の生活の崩れるのを救うために最前線に立つ。その中に社会の崩壊を防ぐセイフティネットと、新しい食べて行く戦略、産業戦略が絡み合った状態の中で新しい展望が切り開かれるわけです。

金持ちは高負担・庶民には低負担を!
 今必要なのは、戦略的な政策転換であり、小泉構造改革の決定的な間違いに対する反省に立脚しながら、新しい産業戦略と社会の連帯を取り戻すための社会のルールの共有です。年金は全ての人が同じ年金に入れなければいけません。全額消費税で全ての人が入るというのはペテンです。なぜならば大企業はこれによって負担を軽減されている。その分国民に上乗せされる。では医療や介護に誰がお金を払うのか。オバマは「所得再分配的な課税を」と言っています。不況を救うためには、多くの人々の税金を軽くし、金持ちの税金を重くする。これを基本に考えている。しかし日本では、財界と大企業の組合とそして医師会や健保連と妥協してルールをつくっているために、非正社員はどこにも意見が反映しないし、ましてや所得再分配的な課税を求めるような声は極くわずかな声しかないということで黙殺される。ジャーナリズムは口をついて消費税、消費税とすり込んでいます。消費税は長い意味では避けられないかもしれないけれども、その前にやるべきことがある。法人税が上げられないのなら、社会保障の負担が重いなら、ヨーロッパがやっているように環境税でその財源を確保したり、所得再分配的な課税を強めることによって、それでもなおかつ必要な財源があれば、そこで初めて消費税が問題になる。
 社会体制が社会主義か資本主義かという体制は、私はほとんど意味がないと思います。おそらく、多くの人々の立脚点、つまり、事故米を食わせる官僚、厚生年金を、国民年金を改ざんする官僚ではなく、人々の生活に基づいて、もっともその人たちがよくできる方から組み立てたら、市場であろうが、政府介入であろうがいい。必要なのは資本が国有であるかどうかは別です。資本に対する猛烈な規制が必要であると同時に、全ての人々がルールを共有することを社会連帯の基盤を築くこと、雇用を破壊する労働者派遣法を元に戻すこと、もともと、派遣労働者を保護する法律であったものが、全ての人を派遣労働者として使い捨てにする法律に変質させたことを変えること、年金を共有すること、全ての人が健康保険を共有すること、そして、多くの貧しい人々に負担を求めるのではなく、金銭的にゆとりのある人たちからまず負担をしていくこと、そういう当たり前の公正な社会を実現することこそが、私たちの生活を多くの人々が同意できる公正な原理であるというふうに私は思っています。

国際的なルールによる連帯を!
 その上で私たちはあらゆる国をモデルにするは止めようではありませんか。かつてユーゴスラビアやソ連、中国、イラン、今はEUだ。あらゆるモデルを外国に求めてまいりました。今東欧諸国ははげしいインフレと国際収支を短期資本でまかなう状態で薄氷を踏むような状態であります。韓国もベトナムも今資本が大量に流失して、通貨が下落を始めております。バルト3国はロシアから独立しましたが、おそらく経済が崩壊するに違いない状況にあります。グルジュアも例外ではありません。実は世界的な危機はインターネットの届かない、メディアも届かないところで、食料平等や民族の紛争やさまざまな事態を起こしています。多くの国々で豊かになって、かつてのように飢えてしまう人が多くはでないだろう。大恐慌の時は30%の失業率になった。確かにそうだ。食っていけるかもしれないけれども、生きる希望が与えられない人たちを大量につくり出している。しかしそれよりも悲惨なのは、発展途上国その他で、温暖化でまず食料が2020年までに50%も落ちるのはアフリカであります。食料が生産できる土地を求めて民族が移動するために、そこでは血みどろの戦いが行われます。、ロケット砲を飛ばし、銃を撃ちあうような野蛮な戦争がインターネットも届かない地の果てで何度も繰り返される時代になります。世界のあらゆるところでそういう矛盾が爆発する時代がこれからの10年を彩ると私は思っています。1999年、『セイフティネットの政治経済学』と『反グローバリズム』という本を上梓いたしました。グローバリズムは反転、逆回転を始めて行きます。オイルの値段は世界の貿易を縮小させます。そして金融のルールはやがて信用収縮で、互いを互いの国に閉じこめて行こうとします。資源を巡る争いは国家原理の衝突をもたらします。今そういう時代に入りつつあるという時代認識に立ち返り、偏狭なナショナリズムに陥ることはこの国の未来を喪失させることになります。私たちに求められるのは、一国の社会の格差をなくす内向きになりがちな自社会中心主義のエネルギーを、それを新自由主義を批判する新しいオルターナティヴ(代案。既存の支配的なものに対するもう一つの考え方、思想)で吸収しながら、新しい世界の連帯をつくり出すような人たちと交流していく。私たちにとって必要なのは新しい金融ルールだけではありません。マルクスは「万国の労働者団結せよ」と言いましたが、私はその言葉は信じていません。万国の資本かは団結するが、万国の労働者は団結しない。これが真実であります。残念ながら民族の対立と激しい部族間の紛争はそれを証明しています。しかしながらあえて言えば、我々は夢かも知れないけれども、ILOの条約を批准していない一番目の国がアメリカであり、それに近い日本という国が存在している。(ILOのような)国際的なルールの連帯こそが、私たちにとって新しい意味でのグローバルな国際連帯の論理になるのだ。なぜ金融や国際会計のルールだけが国際的に共有されなければならないのか、人間が生きていくためのルールを最低限共有するということが、まずは私たちにとって国際連帯の出発点になる、そういう時代に入ったんだろうということを、雨宮さんのお話の中にでてくる、一つ一つの動きの中から読み取ることができる筈です。それは確かにささやかな試みに過ぎないかも知れません。しかし、自分の国の自分の貧困、自分たちの国の格差社会の現実はまた、世界でも同じように拡がっています。UNDP(国連開発計画)の1999年の『グローバリゼーションと人間開発』という年次報告の中には、世界のGDPの84%を人口20%の国が占め、ITは99%が人口20%の国が占め、わずか下から数えて20%の国々は世界のGDPの1%しか持たず、そしてインターネットも0.5〜6パーセントしか占めていないという現実であります。私たちはそういう意味で、きれい事では生きていけませんが、長い意味でそういう新しい論理を、どこかに秘めた行動原理を打ち立てるということが求められているのだろうと思います。

 

夢を持って新しいオルターナティウ゛(代案)を生み出そう
 これから長く苦しいプロセスが始まります。しかし、あえて言えば、そのプロセスは私たち自身にとっては、楽しいプロセスでもあります。新しいものを生み出すという意欲を持った者にとっては苦しさが半分、楽しさが半分のプロセスであります。あるとき、私たちは特に三宅さんと私は、実は同じ頃にバカな学生運動をして、その時に実は出会ったことがあります。1971年、ジョンレノンが死んだ年であります。私たちはベトナム戦争と共に青春を迎えています。今もって普遍的だと思うのは、中学校の英語の教科書にも載っている。キング牧師の演説であります。「I HAVE A DREAM この灼熱のミシシッピーの地で、かつての奴隷主の息子と奴隷の息子が、同じテーブルにつく日を」こういう演説であります。いくつもの夢が語られています。なぜ、キング牧師は「夢」という言葉を選んだのか。それは実現しないかもしれないと思っているからです。自分が生きている間に実現できるような夢は夢ではありません。でも、にもかかわらず、キング牧師は、なぜそのために殉死したのか。警察官ではありませんよ。つまり、自分のミッションに殉じる、そのためには実現しないかも知れないけれども、未来の世代にどういう社会を残すのかというそういうミッションを彼は表明したのであります。だから「夢」という言葉を選んだのだと思います。私たちはいろいろなオルターナティヴを出していますが、多分自分が死ぬまでに実現できないとどこかで半分あきらめております。しかし、学生諸君には言います。「生まれた時に、どういう時代に生まれたか。それはほとんど運だ」人生の半分以上は運だ。フリーターになって、ロストジェネレーションとなった世代に、なんの必然性もない、運、ほとんど運。だけど、我々はその運命が半分、その運命の半分を変えようとする意思が半分であります。私はあえてそういう意味で、私が語ったオルターナティヴ(代案)はもしかしたら、10年かかるかもしれない。ひょっとしたら20年かかるプロセスかもしれないけれども、そこへ向かって一歩一歩近づいていくという努力を惜しんではいけないと考えています。それは私自身が中学校、高校時代に聞いたあの20万人の聴衆の前で拳を振り上げて「「I HAVE A DREAM」という演説をしたキング牧師の精神を少しでも学びたいと思っているからであります。
 でも私は基本的に質問にあった中南米諸国、ラテンに学ぶとすれば、私が好きな言葉は一つあります。「人生努力すれば、必ず報われることもあれば、報われないこともある」そう考えると非常に楽天的に生きて行くことができます。おそらくゴールできなくても、ペースメーカーは、どんなマラソンレースにも必要であります。私たちは他のランナーが、次の世代のランナーが世界記録を出すために、ペースメーカーであっても構わないじゃありませんか。そういう気持ちでみなさんがオルターナティヴを考えてほしいと思っています。充分な答えとなったかどうかは分かりませんが私の答えとさせていただきます。
再び雨宮さんへの質問
三宅 連帯ということに絡んで、アジアの人たちと連帯していくことについて伺いたいのが一つと、もう一つ、コールセンターが中国へ移ることで、そこに働きに行く彼なり彼女にとっては、中国の人たちとの間の問題があると思うんです。それから確か雨宮さんの本の中に、初期の頃に右翼団体にいたこと、日本の国内にアジアからやって来ている人たちがいて、そことの間でいろいろ軋轢みたいなものがあったということが出ていたと思うのですが、その辺のことを含めて、生きる場所での連帯というか、人とのつながりを運動との関係でどう考えて折られるかを伺いたいのですが。

雨宮 海外との連帯も勿論ですが、私の関わっている労働生存運動とかプレカリアート運動というのは、若者の非正規の運動と取られがちですけど、実際にデモや集会やそれに関わっている人たちは決して若者だけではなくて、高齢者もいれば、障害を持つ人もたくさん参加して、野宿者の人も参加しているという、そういう感じなので、すごくいろんなところに拡がって、いろんなジャンルの人がいる。お金持ち以外の全人種がいる。まあそういう感じの連帯にもなって拡がっています。海外だと、韓国やアジアは勿論ですけど、やっぱりアメリカの貧困層の若い人の話なんかを聞くと、私も最近イラク帰還兵の、元米軍の人に話を聞いたことがあったのですけれども、やっぱりお金がないので、大学に行く奨学金とか、医療保険とか、そういうことで戦場に刈り出されているわけですよね。それと自衛隊が今、ネットカフェ難民を支援しているNPOにものすごく、熱烈なアプローチをしているんです。そういうNPOには20代、30代のお金のない、ネットカフェに泊まっている、家もなく仕事もない、学歴もやっぱり中卒の人がたくさんいるわけですけれども、そういうところに自衛隊が積極的に勧誘をしている。本当にアメリカとそっくりなんです。そういう中で、貧困と戦争というものが、もともと同世代のワーキングプアーかホームレスのことを調べて行くと、結局は戦争に辿り着いてしまうのです。今日多分、日テレで「ゼロゼロ物件」についての報道があると思うんですけれども、「ゼロゼロ物件」というのは敷金ゼロ、礼金ゼロ、仲介手数料不要とかで、いい物件に思えるんですけれども、実は賃貸契約ではなくて、施設管理契約とかそういう契約で、家賃一日滞納で鍵を変えられてしまうんです。鍵の利用券しかないので、フリーターや派遣の人たちは労働が不安定で、貯金もなかなか貯められなくて普通の物件に入れないので、そういう「ゼロゼロ物件」に入りがちです。でも家賃一日滞納で、鍵を変えられて荷物が中にあるままに路上に出されるので、着の身着のままホームレスになってしまうんですね。そういう貧困をターゲットとしたビジネスが貧困ビジネスなんです。先程も中国派遣の話をしましたけれども、そういうふうに日本の貧しい人たちが、いろんな国で働いている。派遣社員としてイラクで働いているジャーナリストの方もいますよね。イラク軍の料理人として派遣会社経由で、最近までイラクで働いていた人もいます。そういう形で派遣社員として戦場で働くということもありうるのです。そういう民営化された戦争ビジネスなんかを考えて行くと、本当に戦争こそが究極の貧困ビジネスだなというところに突き当たる。生存権と貧困と戦争の関係かなという感じがします。そういうことは自分たちにとっては近い問題なので、そういうことを問題として、できればアメリカの貧困層の若者といっしょに何かやりたいねと、堤未果さんと話していたりしています。いろんな国の、アジアの国にいながら米軍にリクルートされてしまう高校生たちなんかとも意見交換をして、自分たちの状況がすごく近いということを知り合いたいなと思います。

外国人労働者とフリーターの関係 
 私は10年ぐらい前に右翼団体に2年ほどいたことがあるのですけれども、当時は右傾化第一世代みたいなものだと思っています。90年代中ごろから、日本のフリーターが外国人労働者の仕事の現場に逆流し出したと思うのですけれども、やっぱりその頃から、雇用不安からのナショナリズムみたいな問題が、やっと最近でこそ分析されるようになってきたと思うんです。けれどもその当時からそういうことはありました。今、日雇い派遣の現場の話を聞いても、日本の若者と日本の高齢者、お金のない高齢者と外国人労働者が本当に国際的な最低賃金競争をしているという状況だというふうに、日雇い派遣で働く人は言っていますね。そういうことが右傾化と言われる背景にあったのかもしれないのですけれども、最近はそういうことがみんなの間で共有されるようになってきたので、逆に右傾化ではなくて、反対、左傾化しているんじゃないかというような、そういうことが私の周りでは言われています。

三宅 貧困の問題と戦争の問題、9条と25条の問題が底流でつながっているということを改めて議論できたのではないかと思います。これからどういうふうにしていくかという場合に、先程お二人からあったように我々が個人として、それから集団として、どういう代案(オルターナティヴ)をつくりあげていくかということがすごく重要で、それをつくり上げつつ、実際にそれぞれの生きている場所で、どういうふうに状況を変えていくかということ、これが必要なんだろうと思います。おそらくそういう社会的なつながりの中に九条の会の持っている意味というものが確実にあるのではないかというふうに思います。

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