人質事件の真相を語る 
   
   

                       講師 孫崎享(うける)氏

                     2015年3月3日 ココネリホールにて               
              プロフィール
                 東アジア共同体研究所理事  城西国際大学大学院講師
              経歴
                 ソ連大使館勤務 ウズベキスタン大使 イラン大使
                 外務省情報局長 防衛大学教授等を歴任
                 ※文化放送 毎週木曜日 6:00〜7:00「おはよう寺ちゃん」に出演

 

首相の言動で殺された日本人

 日本人の人質殺害は、安倍首相の発言がきっかけになったのではないかと、多くの人が考えた筈です。しかし、すぐに否定の報道が出ました。安倍さんがやろうとしたのは「人道支援をやろうとしたのだ」というものです。彼はイラクやシリアの難民、レバノンの難民を支援すると言ったのだから、彼の発言がもとで殺されたという人はおかしいと言うものです。けれども彼の発言には次の言葉が入っていたのです。「イスラム国のもたらす脅威を食い止めるため」と、イスラム国を敵視する文言が入ったのです。
注1)安倍首相の演説:「イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISILがも たらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、 総額で2億ドル程度、支援をお約束します。」
 それに対してイスラム国側は「日本政府は邪悪な有志連合に参加した愚かな同盟国と同じように『イスラム国』の力と権威を理解できなかった。安倍総理よ。勝てない戦争に参加した向こう見ずな決断によって、このナイフは後藤を殺すだけでない。今後もあなたの国民はどこにいても殺される。日本の悪夢は始まる」と言っています。殺した本人が安倍さんが言ったから殺すと言っているのです。それを違うとどうして言えるのですか。

〝イスラム国より〟のレッテル
 しかし、今度の殺害が安倍首相の言葉によるものと、どれだけの政治家が言ったでしょう。言った人は少しだけいます。民主党の枝の幹事長「安倍首相の人道支援言及が彼らに口実を与える事態になっていないか検証していきたい」、社民党の吉田党首「首相の中東訪問の時期、演説の英訳が口実を与えることになったのではないか」これも腰が引けてます。安倍さんの発言がおかしかったとなぜ言えないのですか、野党が。頑張った人がいました。池内沙織衆議院議員が1月25日のツイッターで「こんなにもど許せないと心の底から思った政権はない。海外で命を軽んじる続ける安倍政権の言動こそ言語道断。」かっこいいですね。しかし、その日のうちにそのツイッターを消去しました。新聞報道によれば「上の人から消せと言われた」そうです。私は共産党の人から聞いていませんから事実かどうかはわかりません。しかし、自分の政党の人に「こんなにも心から許せないと思った政党はない」と言い切った人がいたら助けるのが普通でしょう。民主党、社民党、そして共産党の一部、みんな腰が引けていました。でも、多分皆さんが好きでない政治家が一人頑張っているのです。小沢一郎です。「日本は敵だと捉えられてもしかたがない。支援表明はイスラム国には宣戦布告となる」一番まっとうなことを言った人が皆さんか一番嫌いな政治家です。「発言が殺害の引き金になったのは明白」とツイッターでも言いました。
 実は2月4日に、産経新聞は「〝イスラム国寄り〟?発言、野党、官僚続々」という見出しで、上記のメンバーや柳沢協二元官房副長官補、古賀茂明元経済産業省課長、そして私の名前を公表しました。正面から「安倍政官の責任を問う」と言った人だけでなく、「口実を与えることになっていないか」と言ったような人にまでも「イスラム国寄り」「テロリスト支持」というレッテルを貼ったのです。日本はそういう国になってしまったのです。ものすごく危険な状況になっていると思います。

人質を見殺しにした政府

 今回、最初に安倍首相は、「人質救出のためにあらゆる手段を取る」と言いました。実際には何をしたでしょう。何もやっていないのです。そればかりか麻生さんは、「要求を呑めばテロに屈するのと同じである。身代金については今テロに屈する予定はないから考えていない」と言いました。多くの人は彼がいい加減な人だからいい加減発言をすると思って、あまり気にしなかったと思います。ところが、官房長官発言なのです。ロイター通信は「官房長官は2日後の記者会見で、日本人二人が殺害された件で身代金を用意せず、犯人側と交渉する用意はなかったことを明らかにした」と書いています。一国の官房長官が「身代金を用意するつもりはなかった、イスラム国と交渉するつもりはなかった」と言われた国民はこれで納得するのでしょうか。普通だったらこれで首が飛びます。
注2)孫崎さんのツイッターより 日本政府は、過去人質事件などでは、人命救助を最優先して対応してきまし た。福田赳夫首相は「人命は地球よりも重い」と述べて交渉にあたり、チリの日本大使館占拠事件に於いても、 人質救出を最優先に実施して、如何に犯人側と妥協点を見出すかに配慮しました。そして、身代金の支払いも 範疇にいれて、敵側、犯人側と交渉してきた。身代金の支払いを行うことは、犯人側の行為を是認してのもの ではないのです。そして、福田首相等が身代金を支払うことで、犯人側と交渉している時に、「貴方は犯人の 主義に協調している」という非難の声はほとんどありませんでした。
 しかし、日本国内は今変わっています。「人質救出を最優先」という考えから「テロとの戦い最優先」の論 調が出て来ていたのです。今はすっかり変わってしまいました。
 このような発言をすることによって日本国民から評価されるだろうと思う人はいないと思います。ではなぜ菅官房長官は、「身代金の用意は100%ない」「イスラム国と交渉する気は全くなかった」と述べたのでしょうか。答えは簡単です。米国務省サキ報道官は会見で「身代金の支払いはかえって人々を危険にさらすというのが米国の考えだ」と述べた上、「我々の立場は非公式に日本政府に伝えてある」と明かにしています。(1月23日朝日新聞)。菅官房長官は日本人向けに述べたのではなく、米国に向け発言したのです。戦後、日本人の命が政府によってこれだけ軽々しく扱われたことはありません。もう彼らの頭の中には日本国民はないのです。アメリカに奉仕すること、アメリカによく思われること、それが日本の政治家なのです。そしてそれをおかしいと思う気持ちはなくってしまった。それくらい今日本の政治家はマヒしているのです。

強める過激派組織との対決姿勢

 そして、今回の事件後にも、安倍首相が「テロリストたちを絶対に許さない。その罪を償わさせるために、国際社会と連携していく」と述べ、イスラム国を中心とした過激派組織との対決姿勢をさらに打ち出しました。しかし、イスラム国には、フランスから約1200人、イギリスとドイツが各約600人、中近東からはモロッコが約1500人、リビアが約600人、エジプトが約360人などといったように、欧州や中近東、北アフリカ、インドなど極めて広範囲な地域からテロリストが参加しています。日本人はこれらの地に観光にでかけ、且つ多くの国民が企業で働いています。そしたらイスラム国が警告をした「今後あなたの国民は何処にいても殺される日本の悪夢は始まっている。」というのは十分にあり得るのです。私は中東に勤務していましたが、アメリカ人が行くようなところには行くなよ、アメリカ人の行くレストランなんかに行ったら爆破されるから」と言われていました。その内に「日本人が行くようなところには行くな」と言われるようになるかもしれません。
 安倍首相は「日本人にはこれから指一本触れさせないという決意と覚悟で事にあたりたい」と発言していますが、勇ましい言葉の他に一体、何をするというのでしょうか。
 また、もし「イスラム国」を消滅させることによって全てが解決できるのならそれでいいのです。しかし、自国に戻った兵士たちはそれぞれの国でテロ活動をするかもしれません。「今後あなたの国民は何処にいても殺される日本の悪夢は始まっている。」が現実のものになる可能性はあるのです。


アメリカはなぜイスラム国を攻撃するのか


 フランスはあのテロ事件の後空爆をしました。アメリカも地上軍を派遣することにしました。みんな一つの契機で動き始めているのです。私は70年闘争に参加した人に「あなたたちは過激になったけれども、仲間の中に公安が入っていると思ったことある?」と聞いたことがあります。すると「多分入っていたと思う」と答えました。運動をつぶそうと企む連中は、運動体を過激な方向に引っ張っていくのです。そうやって組織をつぶすのです。最近ではアメリカで〝1%運動〟というのがありました。これは富が1%に集中していることへの抗議デモで、全米に広がりました。共和党、民主党という枠を越えて大変な政治勢力になるはずだったのです。しかし、今はもう聞かれなくなりました。それはそのグループが過激に走って大勢逮捕されたためです。サンフランシスコかどこかの過激集団を煽っていた中に警察がいたのです。ということを考えてみると、イスラム国の動きも、イスラム国内部だけではなくて外の力も働いているかもしれないのです。
 テロ行為が、ソ連の崩壊の後増えたという言い方をする人たちがいますが嘘です。アフガニスタン戦争、イラク戦争をやったからテロが増えたのです。中東の話で、今回日本人の事件が起こるまでに私がツイッターで言っているのは、「アメリカの中東に於ける政策は二つある。一つはアメリカの軍需産業にプラスになるかどうか。二つ目はイスラエルの安全にプラスになるかどうかである」この二つです。これを見たら基本的にわかります。まずイスラム国の空爆で、どういう利点があるか考えて見ましょう。アメリカの国防費は激減する予定だったのです。そしてイラク戦争とアフガニスタン戦争という特別枠があったのですが、両国から撤退するので激減する予定だったのです。イスラム国の空爆によって株高は史上最高値となりました。戦争がプラスに働いたのです。そしてもう一つ、イスラエルから見ると、イスラム国が自分たちを支援する国になってくれば一番いい。それは望めないから、周辺国が混乱したら良いのです。混乱すればするほど良いのです。ということを考えていけば、今のイスラム国の問題がなぜ起こってきたかがわってくると思います。


集団的自衛権について

日本防衛はしない集団的自衛権

 これから集団的自衛権はどんどん動いていきます。集団的自衛権の骨子は自国防衛とは何の関係もありません。宮崎栄元内閣官房長官はこう言っています「集団的自衛権も自衛権という言葉が使われているから、自衛権の一種であると考えてしまう人がいるが違う。集団的自衛権の本質は他国防衛である。集団的自衛権とは自国が直接攻撃されていないにも拘わらず、自国と密接の関係にある他国に関する武力攻撃がおきた場合にこれを実力で阻止反撃する権利を言う。自国を守る自国的防衛とは定義からしても異質である。」これが需要なのです、集団的自衛権は日本の防衛とは何の関係のないものなのです。ここが曖昧だからそれをごまかすために「切れ目のない防衛」と言っています。集団的自衛権はどこからなのかということは言わない。日本の防衛の中にあるという印象を与えるために、「切れ目のない防衛」と言うのです。
 なぜ集団的自衛権が日本の安全保障と関係がないかというと、それは「日米安保条約」があるということなのです。日米安保条約をどう位置付けるかについてはさまざまな議論があります。私も長期的にはいらないと思っています。ないような国にしなければいけないと思っています。でも今日は存在している。米安保条約があることを前提に話をすると、第5条があります。第5条は「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」となっています。翻訳をします。「アメリカは尖閣諸島に攻撃があった時には、自分の国の平和に影響があるものだと考えて、自分の国の憲法に従って行動を取る」と書いているのです。これ以上のことをアメリカが約束することはありません。
 「中国の脅威が増しているではないか。だから集団的自衛権を結ばなければならない」という議論がありますが全く関係がないのです。私がそれを強く言っているものですから、最近はあまり尖閣は言わなくなって、その代わり南シナ海と言い始めました。

米軍の使命は米国民の救出


 大橋巨泉は次のように言いました。「安倍首相が集団的自衛権について語るのを聞いた。紙芝居のようなパネルや説明を見ていて気持ちが悪くなった。この人は本当に悪い人だと思った。日本の家族らしい人が乗った米国の船を防御できないとしたパネルを見せながら首相は言う。紛争国から逃れようとしているお父さんやお母さん、おじいさんやおばあさん、子どもたちの乗った米国の船を今私たちは守ることができないのです。この論議は国民の皆さま一人一人に関わる現実的な問題であります。この紙見芝居のようなことはまずおこらない。それをじいさんから孫まで登場させて、感情的に訴える首相。その姿勢には一遍の知性も感じられない」と。その通りですね。
 そしてアメリカの国務省のサイトを見ると、「米国市民でない私の家族のや友人は危機の時にどうなるのでしょうか。あなたたちは奪取を助けてくれるのでしょうか。」多分外国人と結婚している人なのでしょう。その人たちは助けて貰えるのでしょうかという質問に対して、「我々の使命は米国市民を助けることである。米国市民でない友人や家族を連れ込むことを期待すべきではない」そして「避難時に米国の軍用手段をなぜ使わないのか」という問いに対しては「ヘリコプターや米国運搬手段や軍事エスコートが着いた米国輸送手段は現実と言うより、ハリウッドの脚本である。」と答えています。大橋巨泉は正しいのです。だけど安倍首相があのパネルを見せたとき、どれだけの新聞やテレビが「あれはおかしい」という声を届けたでしょうか

日本がテロ攻撃の対象になる「集団的自衛権」


 集団的自衛権について、今安倍首相が言っているのは全く違っていると言いました。集団的自衛権は日本の国土の防衛とは関係がない。多くの人はこれが尖閣問題だと思っているけれども、尖閣ではない。安保条約は「日本の管轄地に対して攻撃があった時は日米双方の自分への攻撃と見なして憲法の範囲内で行動を取る」書いてあります。全く関係がないのです。基本は米国の軍隊のために、米国の戦略のために自衛隊が戦うのです。そしてそれは実は2005年「2プラス2」という文書の中で国際的安全保障の改善のために日本は必要な措置をとる。自衛隊が出ていくように必要な措置をとる」という約束をしているのです。米国に言われてやっているのです。ごく最近、公明党の態度が明確でないというのでキャンベルが圧力をかけに来ました。アメリカのために我々は自衛隊を海外に出さなければいけないのか。安倍首相はこれでもって日本国民の安全に添うために、できるだけのことをする事が我々の役目であろうと言っている。全く逆ですよ。イラク戦争に参加したスペインは1994年に10箇所もテロ爆発がおこって190人以上が死に、2000人以上が負傷しました。我々が集団的自衛権で戦えば、殺された人たちがいる、殺されたグループがいる、当然に反撃をする。反撃の対象は日本国内に来るかもしれない。海外にいる日本人かもしれない。しかし、今よりも確実に不安定になる。それを日本国民の安全性のためにやると言うのは、本当に嘘と詭弁だと思います。そしてそれを実施するために意識的に煽っているのが尖閣諸島なのです。


抑止力はない


「国の安全を考えると、やはりアメリカに助けてもらわなければならない。そのためにはアメリカに言われたことはやってあげなければならない」という議論が強くかなりの人がそう考えています。考えて見ると、中国と、ロシアが核爆弾を持っています。では第2次大戦以降なぜ核爆弾は使われなかったのでしょうか。例えば「日本に落としたらアメリカ攻撃するから使わなかった」のでしょうか。そうではない。第2次大戦以降、核爆弾は使わせないという世界の世論がつくられたからです。それを破った政治家は「悪」であるというという認識が定着したから使わないのです。アメリカはベトナム戦争で使えなかったのです。朝鮮戦争で使えなかったのです。キッシンジャーはこう言っています。「よく、核の抑止力ということを言われるけれども、抑止力というのは、例えばロンドンが攻撃されたら、アメリカはロンドンの代わりにモスクワを攻撃するという脅しのことだが、ヨーロッパの都市を守るためにアメリカの都市が攻撃されても良いと言える政治家はいるか。いない。だからヨーロッパの核の傘というのはないのです。ましておや、ヨーロッパ以外の国に核の傘を設けるなどということはあり得ない」ということを書いています。アメリカが核兵器を持つのは、アメリカがよその国を核の傘で守るためではない。多くの人が必ずしも理解していないのです。平和勢力でもそう思っていることがあります。


ODAを他国軍への支援に
 政府は2013年12月に政府開発援助(ODA)のあり方を定めた「開発協力大綱」を見直して、他国軍への支援を対象外としてきた原則を変更して、非軍事目的に限って容認することを閣議決定しました。今まで日本は途上国へのインフラ整備を支援するために経済協力をしてきましたが、軍には、お金を出しませんでした。これからは軍にお金を出しますということです。それについてあるメディアから「災害救助とか人命救助など軍隊にしかできないこともあるから軍にお金を出すのはいいことなのではないでしょうか。それについてコメントして下さい」とい言われたので、「それは違う。軍には仮想敵国がある。軍が動けば敵は反発する。みんながみんな喜ぶわけではないが、日本の経済協力そのものをおかしいと指摘されたことはない。しかし、シリア周辺は今大変なことになっている。難民が溢れている。そこには国連がお金を出して難民支援行っている。軍にお金を出さなくても難民支援はできるのです。」と答えました。
注3)孫崎さんのツイッターより: 安倍政権は元々、「戦後レジームからの脱却」という大きな政策目標の一 環として、国際社会における日本の役割を、これまでの人道的貢献に限定されたものから、より軍事面を含ん だものに転換していく意向を明確に打ち出してきた。そして、昨年来、武器輸出三原則の緩和や集団的自衛権 の行使を可能にする憲法解釈の変更などを着実に実行に移してきている。しかし、そうした一連の動きは、少 なくともこれまでは日本という一国の枠内の域を出ないものだった。ところが今回、安倍首相がISISと戦う国 への2億ドルの支援を約束し、その報復としてISISが日本人の人質の命を奪ったことで、日本は期せずして「テ ロとの戦い」という世界の表舞台に立つことになった。その結果、明確にISISのテロの標的となった日本は今 後、アメリカとの連携を強めながらテロとの戦いの最前線に立ち、より大きな役割を担っていくのか、その路 線を再考した上で、人道面に限定した中立的な役割に戻るのか、今、日本の選択が世界から注目されている。
 安倍首相はこれを積極的平和主義と呼んでいる。英語ではPro-active contribution to peaceと訳されている。 しかし、積極的平和主義の名の下に日本が渡ろうとしている橋の向こうに、何が待ち受けているかを、われわ れは理解できているのだろうか。その覚悟はあるのか。いや、われわれだけではない。安倍首相自身やその路 線を邁進する日本の外交担当者たち自身が、それをはっきりと見極めているのだろうか。
 しかし、より大きな問題は、外務省が日本の国益を最優先で考えて外交を行っているとはとても思えない。 外務省内ではアメリカ一辺倒の路線に対して異論を挟むことが難しくなっている。そしてそれを支えているも のは国益はおろか、外務省という一官庁の省益よりもさらに小さい、私益によるものだ。
 

天皇発言と稲田朋美発言

 私は今、日本の社会は大変危険なところに入ってきていると思っています。今年の新年に、天皇が戦争について言及されました。「本年は終戦から七十年という節目の年に当たります。多くの人々が亡くなった戦争でした。各戦場で亡くなった人々、広島、長崎の原爆、東京を始めとする各都市の爆撃などにより亡くなった人々の数は誠に多いものでした。この機会に、満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています。」昔の話を言っているのではない、今の政治との関係で話されているのです。いま安倍首相が戦後70年の見直しをしようとしていますが、この時に一番大切なことは、「なぜ我々が戦争に至ったのか」ということを検討しなければならないはずなのです。それを天皇は言及しておられるのです
 にもかかわらず、この間驚く発言がありました。政調会長稲田朋美さんです。
注5)BS朝日の番組で、大戦後に東条英機元首相らが裁かれた東京裁判(極東国際軍事裁判)について述べた稲 田朋美の発言:「指導者の個人的な責任は事後法だ。裁判は法律的に問題がある」「判決文に書かれている事 実をすべて争えないとすれば、われわれは反省できない。南京事件などは事実の検証が必要だ」「歴史修正主 義というのは、あったことをなかったと自己正当化することだ。本当にあったことをあったこととして認め、 生かしていくのは決して歴史修正主義ではない」
 稲田さんは小泉首相の郵政民営化選挙の時に、民営化反対派をつぶすために刺客として送り込まれた女性だったのです。今の政治はいろいろな面で続いていますね。


領「崖っぷちの国家日本の決断」

 
私が安倍首相を非難するのは当然でしょうが、最近、世界で少なくとも5紙の中に入るニューヨークタイムズの記者マーティン・ファクラーさんが「崖っぷち国家日本の決断」という本を書いています。この本は私との対談なのですが、いろいろなポイントがあります。
まず、日本のマスコミのひどさを指摘しています。ジャーナリズムの呈をなしていないと言います。ジャーナリズムというのは基本的に政府に対して、政府がおかしいことを行っていないか監視する役目を持っている。これが西側のジャーナリズムの基礎なのです。そしてそれが民主主義の基礎であるのです。もしも新聞が腐敗しきっていたら民主主義はない。だから腐敗しないようにニューヨークタイムズは35ドル以上の食事に対してはお金を払う。権力の人のご馳走にはならない。日本の新聞記者はどうでしょう。どれだけ読売新聞の社長とか政治部長とかが首相に呼ばれたでしょうか。我々には手の出ない食事を。それを少しもおかしいと思わないのです。
 国境なき記者団というものがあります。そこが毎年、それぞれの国の報道の自由度を報告しています。日本は何番目でしょう。今年は61番目でした。ということは民主主義はないということです。日本の大手マスコミは安倍首相の宣伝機関なのです。NHKの朝のテレビは素晴らしいし、他にも素晴らしいものが多いので政治報道も正しいと思いがちです。しかし政治報道は違うのです。私は外務省の分析課長をしていましたが、〝今日の国際情報〟というのを1日に1件出して官邸に送っていました。その時の外務大臣が安倍晋太郎だったのです。安倍晋太郎は私の紙(情報)を評価してくれていました。その時私は人にものを読ませるにはどうするかを考えました。正しいことだけが求められることではないのです。どのように伝えるかを考えなければ情報の専門家ではないと思ったのです。そこでジョークを入れました。チェコのジョークで「サッカーの記事が出たら100%信じてよろしい。天気予報は50%信じてよろしい。政治の話は0%だ。」というものです。安倍晋太郎氏はこれを好んであっちこっちで講演していたようです。日本の政治報道や新聞がいかにひどいかということを、理解することがまずスタートだと思います。

インターネットを通して見える〝情報〟

  私が情報局長をしていたときや分析課長をしていたいときより遙かに情報は取りやすくなりました。アメリカの大統領が演説をすると、その内容は新聞社か外務省が公表しない限りわからなかったのですが、今はどんなものでも手に入ります。英語のできる人なら毎日アメリカ国務省のプレス担当がしゃべることを見れば良いのです。向こうの記者はかなりつっこみますから、本音はかなり出てきます。それをするためにはインターネットが使えなければいけない。ネットが使えればいろいろなものが出てきます。そしてネットを使ってもう一つの武器はツイッターです。ツイッターは気に入ったものを見つけたらそれをリツイートというボタンを押せば良いのです。そうするとお仲間のところに広げられます。自分の考えを145文字で発信するだけでなく素晴らしいと思ったものを広げていけるのです。メールのできる方なら簡単にできます。孫崎享で検索すると、孫崎享ツイッターという文字が出てきますからそれをクリックすれば良いのです。
 ロシアのネムツォフ第一副首相が殺されました。殺された時は23~4歳の女性といっしょに橋を渡っていました。彼女の国籍はどこかわかりますか。ウクライナ人です。何か臭いませんか。実はお母さんが2−3週間前に「もうプーチンを攻撃するのはやめなさい。殺されるよ。」と言っていたのです。わたしはロシア語がわかるものですからそんな情報も入ってきます。
 もっと重要なことがあるのです。彼はパンフレットを発行する予定だったのです。そのパンフレットの中味は「ロシア軍がウクライナ東部で民兵と一緒に攻撃している」というものだったのです。これが命取りになったと思います。では、これを一緒にやろうとした人はどんな人だったのかということですが、ハーバード大学にニーマンクロイシュクというところがあります。そこは世界中から優秀な若手ジャーナリストを探して、見つけるとそこで研修を受けさせ、アメリカびいきにして帰すという仕組みになっています。彼は、その機関で研修を受けてハーバード大学でドクターを取った人と一緒にやろうとしたのです。それだけではなく、アメリカの上院議員軍事委員委員長カール・レヴィン氏が、「私の友達が殺された」と言っています。アメリカとは繋がっているのです。というところから見るといろいろなことが考えられます。そういうものが手に入る時代になったのです。

我々はどうしたらいいのか

 原発で少し言い発言をされているからその分野では評価したいと思うのですが、どういうわけか細川さんから雑誌が届きました。「新潮45」に〝中日本主義をめざせ〟という文章を載せています。素晴らしいことが書いてあります。と言っても当然のことを言っているだけなのですが。彼は、カントリー・ジェントルマン、もうリタイヤした人たちは、ここぞと思うときには発言しなければいけない。その気持ちで今の日本について発言します。ということをおっしゃっています。ぜひ読んで下さい。
 今、日本は本当に崖っぷちに立たされています。原発再稼働ぎりぎりのところに来ています。そして集団的自衛権で自衛隊が海外に行く。それは自衛隊の人が死ぬだけではない。報復として海外にいる日本人、日本の企業、そして日本の国内、これに危険が及んでくるのに、何でこんなバカなことをしなければいけないのか。そして格差社会がどんどん広がって行く。秘密保護法で日本の民主主義はどんどん無くなっていく。世界の61番目の国なんです日本は、その番号は韓国よりも下です。見ていて下さい。原発であるとか、TPPであるとか反対する人はどんどん発言の機会が無くなっています。そんなところに民主主義があるはずがないのです。
 民主主義は与えられるものではありません。民主主義は各国とも自分たちが常に戦って維持していくものです。米軍が来て、「はい日本の憲法です。民主主義をどうぞ」というものではない。民主主義は自分たちで手に入れるものなのです。ネムツォフ第一副首相の殺害のことを言いました。プーチン政権が殺したことは間違いない。しかしあの抑圧されているロシアだって2万人の人が抗議集会に行くのです。浜岡原発は多分動かないと思います。なぜか、電力会社が決めたからか、政府がそう決めたからか、違います。浜岡周辺の住民が反対しているから動かすことができないのです。山梨で上野千鶴子さんの講演会の中止を住民の講義の力で再開させることができた。ひとり一人が動く時代なのです。みんなの力で民主主義は守られるのです。
3年ほど前、普天間問題について明治大学でセミナーがあった時に、沖縄から来ている70歳を越えている人がこうおっしゃったのです。綿足はこれからも辺野古移転に反対する。座り込みもする、そうしたら捕まるでしょ。しかし、私はみんなに言っているのです。「監獄に行ってコレステロールを下げてきます」20歳の人にコレステロールを下げなさいと言うのは酷だけれども、我々60歳以上はいつでもコレステロールを下げる行動を取ってもいいと思います。

質問に答えて

Q 安倍政権の人質対応ですが、どうも最初から利用するつもりでわざとああいう行動を取ったように思うですが
A 捕まっていたことは知っていたはずですから…。話をすれば反応はあるかもしれないのに、無視したのは利用するためだったかもしれない。日本の国民がイスラム国に利用されたのに、それをまた、日本国民が日本政府に利用されてしまうのはあまりにも情けない。

Q 後藤さんが行方不明になって、捕まってしまったことを政府はいつの時点で把握していたのか、またそれに対してなぜ知らないふりをしていたのか、正確なところを教えてほしい。

A 正確にはわかりません。でも人質になったことは十分に知っていた、それが重要だと思います。

Q 911事件について、仕掛けられたのではないかという講演を聞いたことがあるが…。
A 911以後世界が変わった。アメリカでは〝愛国法〟ができて、国民を監視することが許される社会になってしまった。だから〝911とは何だったのか〟を検証する必要がある。逆に言うと、もし仕掛けた人間がいれば絶対に知られたくない問題だ。刑事事件でも目撃者などたくさんの人が死んでいる。この事件があって、民主党の国際局長が建築家を呼んで講演をしたときに、ワシントンポストが、ある日本人の名前を挙げて、そういうことを言う人間がいるのは大変ショックであると言っていた。911を扱うのは相当慎重にする必要があると思う。微妙な問題になればなるほど、絶対に正しいということしか言わないことが必要だと思う。

 ブッシュは2000年に「アメリカ新世紀プロジェクト」というグループを立ち上げていたが、そこには、保守強硬派がほぼ網羅されていた。そのグループは2001年にブッシュ政権が誕生するや、安全保障関係の中核を構成した。そこには「アメリカは世界一の軍事力を持たなければならない。しかし、それをアメリカ国民が支えてくれるのは難しい。しかし、第二の真珠湾が起こったら別だ」と書いている。

 このメンバーにはチェィニー副大統領、ブッシュ弟、国務省の重要人物がほとんど入っている。そこから見ると、次の共和党政権は大変恐ろしいことになると思う。共和党が次にめざすのは〝レーガンではなく、チャーチルだ〟というツイッターが入って来た。チャーチル、つまり「戦争をする大統領」という意味である。
 911の年の8月に、CIAが、ブッシュ大統領に当てて「アメリカ国内にテロの可能性がある。その時にはハイジャックをされる可能性がある。ターゲットは世界貿易センターになる可能性がある。」という報告を出している。それを見てもブッシュは「具体性に欠けている」として動かなかった。その二つを根拠に、私は疑念があると書いている。
 もう一つ、シカゴの証券取引所の所長が次のことを言っている。「数日前からあの事故で株価が下がった。そこでBBCが〝アルカイダは人を殺しているだけでなく株価も殺した〟と放映していたのだが、追究していくと、どうもアルカイダではなかったようなのだ。それでその問題はいつの間にか消えてしまった。」ということで、絶対に確証のある問題に搾って議論したら良いと思う。

Q この事件の本質をどのように見ているか。また、911以降、テロとの戦いということでアフガン戦争や、イラク戦争やってきたけれども、結果的には報復の口実を与えてしまっただけだった。イスラム国は、2万人の外国人兵力や、旧フセイン政権時代の人々を含めてどれだけの兵力を持っているのか。本来ならイラクやシリアの政権が確立されていれば大きな問題にならなかったのではないかと思うが、それらに対して過大な報道がされているのではないか。
A 本質は911である。同時多発テロがどのように起こってきたかを解明していくことが大事だと思う。チェィニー副大統領が、911の10日後か20日後に、インタビューに答えて「オサマ・ビンラディンの首が出てきたらテロとの戦いは終わりますかとの質問に、首が出てきても我々はあと何十年、世界中でテロとの戦いをやる」と答えた。それは何十年もテロとの戦いをやることが利益になるということだ。そして世界中で行動を取るだけでなく、アメリカ国内も変えて行った。民主主義国家が監視社会に入っていく。テロとの戦いなのだから民主主義を抑制する体制を取っても仕方がないという流れに変えてしまった。推理小説家のトム・クランシーが、911の前に「合衆国崩壊」という本を書いているが、これには911のようなことが書かれている。飛行機でつっこむのは日本の自衛隊機なのだが…。その後に監視社会をつくっていくということが書かれている。

Q 中東の諸国は日本に対して友好的な気持ちを持っていると聞いているが、それが今度の事件で一変したと思っているが、9条を持つ日本の外交のあり方についてお聞きしたい。
A「世界の中でもっと発言力を強めてほしい国、最も望ましい国はどこだと思うか」というBBC調査がテヘランで行われた。日本は2006年から2010年までに4回もトップに立っているのだ。国内で「戦後体制を見直すべきだ。軍隊を持つ普通の国になるべきだ」などという議論があるというのに、2006年から2010年の間に、日本は「最も望ましい国」だと4回も言われている。安倍政権になってからは5番目くらいだろう。世界は日本が平和な国であることを求めているのだ。アメリカだけがやれと言っている。それは日本を傭兵として使いたいからだ。それも自分のお金で行ってくれる傭兵に。集団的自衛権を喜んでいるのはアメリカだけ。世界は日本の動きを厳しく見ていると思う。
私は2000年ぐらいに中東、イランに行っていたけれど、「G8の中で最も信頼できる国はどこですか」という世論調査がテヘランであった。日本がトップである。それぐらい信頼されているのだ。その全財産を安倍さんは擦っている。それが安倍外交なのだ。
注6)孫崎さんのツイッターより:列強への道 ─ 日本はいま、重大な局面を迎えています。平和主義を守り続けるのか、米国や英国のように「列強」としての道を歩むのか。その判断を突きつけられたのが、今回の事件だったのです。安倍首相が望んでいるのは後者です。かねて「積極的平和主義」を掲げ、米国の有力な同盟国として、国際社会の一員として、役割を果たすことの必要性を強調してきた。
 今回の中東諸国訪問は、安倍政権の姿勢を世界に示す大きなチャンスと考えていたのでしょう。湯川遥菜さん、後藤さんの殺害が予告された後も、安倍首相は「テロに屈しない」と強硬姿勢を崩さず、最終的に2人は殺害されました。.私には、政府がテロリストとの交渉を拒んだことに何の驚きもありませんでした。安倍首相は今回の事件を「国民が犠牲になったが、テロリストとは交渉しなかった」と米国や英国にアピールする材料にするつもりだろうと思っていました。
 日本はこれまで「八方美人」でした。どこの国とも仲良く、その代わり、どこにも敵をつくらない姿勢を貫いてきた。安倍首相が描く国家像は真逆です。米国との同盟を強化し、国際社会における存在感を強めようとしている。当然、リスクは増え、敵も多くつくることになるでしょう。

Q 優秀な官僚たちは安倍さんが中東に行くことに疑問を持たないのか。集団的自衛権を進めていくと一番危機感を持つのは自衛官ではないのかと思うが。
A 阿南さんをご存じだと思う。在中国大使であった阿南さんは2005年に小泉首相宛に靖国神社への参拝を中止するよう電報を打った。彼の電報は否の打ちようのない素晴らしいものであったのだが、辞めさせられてしまった。少しでも批判的なことを言うと彼のようになるとみんな思っている。
 防衛省は少し違う。今集団的自衛権反対の先頭に立っている一人に柳澤さんがいる。安保法制懇のメンバーなのだが、昔彼は「私は孫崎さんにはならない」と言っていたが、今は私の前を行っている。柳澤さんは防衛庁の官房長官までやった人であるのに、なぜ反対するかというと、犠牲になるのは自衛隊員だからだ。ラジオでいっしょになったとき、彼は「安倍さんは我々の命をへでもないと思っている」と言っていた。
 自衛隊の方から講演の依頼がきた。私は「私は良いけれど、あなたに迷惑がかかるのではないですか。私の著書を読んでみて下さい」と返事をした。すると、「著書を全部読んだ上でお願いしているのです」と言う。自衛隊制服組の中にも疑問を持つ人がいるようだ。

Q イスラム教徒とキリスト教徒とどうすれば仲良くできるのか.
A 皆さんが思っているほど難しい話ではないと思う。女性の宗教家から「イスラム教の良い映画があるから見に行きましょう」と誘われて見に行った。それでわかったことは信じる神はキリスト教と同じだということ。教えでは「相手が攻撃してきたら戦いなさい。しかし相手が逃げたら追うな」というもの。イスラム教徒が今求めているのは「自分たちの社会に手を出すな」ということなのだ。「手を出さなければ我々はそれで良いのです」と言っているのだ。

 

 

ページトップへ