平和安全法」と日本国憲法

 

    

講師  大内 要三さん


いわゆる「統幕内部文書」の問題からお話を始めます。

8 月 11 日に国会で暴露された統幕内部文書は、「平和安全法」=戦争法が国会に上程された ばかりの 5 月 24 日、全国の自衛隊幹部約 350 人を対象に行われたテレビ会議で、「日米防衛協 力の指針(ガイドライン)」と戦争法「を受けた今後の方向性」について説明するものでした。 文書の末尾に付いている「今後の進め方」という日程表には、4 月から来年 10 月までの予定 が書かれています。

もうひとつ、9 月 2 日に国会で暴露された統幕内部文書は、昨年 12 月 17、18 日の両日、統 幕長が米軍幹部と会談をしたことの報告書でした。8 月までに戦争法を成立させる、と統幕長 は米軍に報告しました。翌 19 日にガイドライン締結延期が発表されましたから、統幕長訪米 はガイドライン締結・戦争法国会上程よりもずっと以前のことです。

「統幕」とは正確には「統合幕僚監部」といいます。陸・海・空の 3 自衛隊を束ねる自衛隊 制服組の最高幹部です。「統幕長」はその長、統合幕僚長のことです。

この 2 つの文書がたいへん問題になったのは、戦争法の国会審議が始まる以前から、戦争法 の成立を見越して、戦争法の内容を実施する計画を自衛隊・米軍の協議で、日程表まで作って すでに進めている事実が明らかになったからでした。自衛隊幹部が内閣も国会もさしおいて、 日本という国の在り方を大きく変える「解釈改憲」の先まで協議していたことになります。北 朝鮮の場合とは異なりますけれども、「先軍政治」と表現してもいいようなことだと思います。

これらの文書が暴露されたことによって、公式発表では分からなかったガイドラインの内容、 戦争法実施に当たっての自衛隊・米軍の協力関係がかなり明らかになりました。戦争法の成立 によって自衛隊は何をさせられることになるのかが分かってきたということです。そのあたり を今日はお話しします。

なお、これらの内部文書が暴露されたことを、防衛秘密が漏れたと問題にする人もあります が、文書の右肩には「取扱厳重注意」とあるだけで、いわゆる「マル秘」の印もなく通し番号 も打たれていませんから、ほんらい秘密文書ではないはずです。「暴露」されたあと、国会で 請求しても公表されず、統幕長本人が国民に対してきちんと説明しないことのほうが問題です。


■日米共同演習の実態    

8 月 31 日から 9 月 9 日まで、米国カリフォルニアで「ドーン・ブリッツ 15」という日米共 同演習が行われました。陸海空自衛隊と米国の海軍・海兵隊が参加しました。

公表された写真を見ますと、海上自衛隊の揚陸艇(ホバークラフト)から一緒に海岸に上陸 した部隊を先導しているのは陸上自衛隊員です。後に米海兵隊員が従っています。また別の写 真では、米海兵隊のオスプレイが海上自衛隊の護衛艦に着艦しています。2 年前に同様に行わ

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れた「ドーン・ブリッツ 13」の写真では、横たわ った複数の自衛隊員の姿 が見えます。つまりこれ は戦死者が出ることも想 定した、自衛隊・米軍が 文字通り「肩を並べて」 戦う演習です。

この演習を、日本の防 衛省は「島嶼防衛作戦」 と説明しました。日本の 離島が占領されたとき、 敵が占拠する島に上陸し て島を取り返す、という

想定だそうです。しかし同じ演習を、米軍側では「政情不安などで助力を求める友好国を、有 志連合が軍事的に救援する想定」だと説明しました(朝日新聞報道)。島を取られてから取り 返すという想定自体が不自然で、取られないようにするのが先でしょう。これは日本を守る演 習ではありません。中東テロ対策の多国籍軍を想定したと受け取るのが自然ではないでしょう か。

なぜ自衛隊は中東での戦争を日米共同で行う演習をしたのか。ひとつ。先ほど述べた統幕内 部文書を見ますと、自衛隊統幕長は米軍統合参謀本部議長(要するに米軍トップ)に対して、 米太平洋軍、米アフリカ軍、米中央軍「との連携を強化」すると約束しました。米軍は世界を 6 つの地域に分けて担当していますけれども、日本にも駐在している米太平洋軍は、東シナ海も 南シナ海もインド洋の東半分もオーストラリアも担当しています。米中央軍は中東地域を担当 します。南北アメリカとヨーロッパはさすがに別として、世界中で自衛隊は米軍に協力します、 と約束した。だから中東テロ対策で米軍の手助けをするのも当然なのです。

なぜ自衛隊は中東まで出かけることになるのか。2 つ目の理由は、ガイドライン文書(とは 何かは後ほどまた説明します)に書いてあるからです。ガイドライン文書の冒頭に、日米防衛 協力の目的について、「日本の平和及び安全を確保するため、またアジア太平洋地域及びこれ を越えた地域が安定し、平和で繁栄したものとなるよう」と書いてあります。こういう約束の 文書を 4 月に日米間で取り交わしている。自衛隊と米軍が協力するのは「アジア太平洋及びこ れを越えた地域」であって、どこまでという限定がありませんから、世界中、ということにな ります。

なぜ自衛隊は中東まで出かけることになるのか。3 つ目の理由は、成立してしまった戦争法 です。いろいろな「事態」があって複雑ですが、「重要影響事態」でも「存立危機事態」でも 「国際平和共同事態」でも、自衛隊を海外に派遣することができます。地域の限定はしていま せん。自衛隊幹部が米国に約束して、ガイドラインで米国に約束したことが、日本の国会でも 認められました。

このようなことを見越して、戦争法成立以前から、自衛隊は米軍とともに海外で戦争をする 演習をしていました。まず中東想定の直近の例を挙げましたが、他の地域に対してはどうか。

 

■アフリカで存在感を増す自衛隊

アフリカ東北部に「ジブチ共和国」という国があります。神奈川県より少し小さい面積に約 80 万人が住んでいる、イスラム教国です。2009 年成立の「海賊対処法」で「ソマリア沖・アデ ン湾海賊対処」に出かけている自衛隊が、2011 年ここに「活動拠点」を建設しました。ソマ リアは内戦が収まらず経済も崩壊しているので、隣国のジブチに自衛隊基地を建設することに したのです。派遣されているのは、航空隊・水上部隊・支援隊ですから、要するに陸海空全部、 計約 580 名になります。

ジブチ自衛隊派遣について、まず気になるのはその基地の場所です。自衛隊基地はジブチ国 際空港ターミナルの隣なのですが、ターミナルをはさんでフランス軍基地があり、滑走路をは さんで米軍基地があります。つまり攻撃を受けることがあれば日米仏同時で、共同対処しなけ ればならないでしょう。

そしてジブチ駐在の自衛隊は、治外法権を持ちます。2009 年に日本・ジブチ間に地位協定 が結ばれました。自衛隊員が現地でトラブルを起こしたらどうなるか。地位協定第 8 項に日本 側が刑事裁判権を持つことが、第 9 項に民事で当事者間解決に至らない場合には政府間交渉と なることが決められています。在日米軍が日米地位協定に守られて、犯罪を犯した米兵が日本 で裁かれることが希なのと同じです。

ジブチの自衛隊は存在感を増しています。2013 年からは現地の国際部隊 CFT151(連合任務 部隊)に参加し、今年はその司令官も海上自衛隊幹部が務めました。

では肝心の海賊はどうなったのか。IMB(国際商業会議所の国際海事局)による統計を見ま すと、2013 年から海賊発生は限りなくゼロになり、15 年前半は完全にゼロでした。にもかか わらず自衛隊がジブチに居座り続け、今年の防衛予算にも「ジブチ拠点活用に向けた検討」 費が計上されています。つまりジブチ基地を海賊対処以外のことに使うということです。

じつはジブチ基地はすでに南スーダン PKO 部隊への補給基地としても使われています。南 スーダンは 2011 年にスーダンから独立した新しい国で、人口は 1000 万を超えます。自衛隊 は国連の要請に基づき、同年から国際連合南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に司令部 要員を、翌年から陸上自衛隊の施設部隊、約 350 人を送っています。自衛隊の現地での活動は ODA(政府開発援助)や NGO(非政府組織)とも連携、今の防衛省防は「国連平和維持活動ではなく「南スーダン国際平和協力業務(PKO)」と呼んでいます。アルファベット ばかりでい説明たがになりましたが、戦争法と関連する微妙なところです。

南スーダンは内陸国で道路網も整備されていないところです。自衛隊が駐在しているのは首 都ジュバの郊外ですが、当初は物資を南隣の国、ウガンダに民間機で空輸したのち、陸路で運 んでいました。現在は航空自衛隊・海上自衛隊も参加して、ジブチを拠点に物資輸送が行われ ています。

国連 PKO はほんらい紛争の後始末のための「平和維持」部隊であって、戦闘行為に加わる ことなどまったく想定されていませんでした。しかし 20 世紀末から「平和執行」部隊へと変 身を遂げ、「戦死者」が続出するようになりました。南スーダンでも国境紛争・内戦があり、 この 4 月には国連施設が武装グルー、インド兵と、避難していた民間人が殺害 されました
その南スーダン派遣 の自衛隊に戦争法が適 用されると、新しい任 務が加わります。「宿 営地共同防衛」と「駆 け付け警護」です。国 連 PKO に参加してい る他国の軍が攻撃を受 け、助けを求められた ら、自衛隊はともに戦 わなければならない。 国対国の戦争ではあり ませんが、戦闘行為に なることは確かです。

先にお話しした統幕 内部文書では、新しい任務は 11 月に派遣される第 9 次隊から適用されることになっていまし た。戦争法の施行は来年 3 月からですが、当然、現地に派遣される前から新しい任務のための訓練は行われているでしょう。

南シナ海で存在感を増す自衛隊

今年の 6 月 24 日、これも戦争法が成立する 3 ヶ月も前の話ですが、南シナ海で自衛隊とフ ィリピン軍が共同訓練をしました。海上自衛隊の P3C 哨戒機がフィリピン空軍機とともに海 上を飛んで、上空からの見張りをしたのです。当然、南シナ海で中国軍の動きを見張ることを 想定しています。自衛隊は南シナ海で中国軍監視活動を、米軍と共同するだけでなく周辺の他 国との共同でも行うのです。当然、見張られている中国軍との緊張関係が生まれます。

統幕内部文書の「主要検討事項」に挙げられていたひとつが「東シナ海等における共同 ISR のより一層の推進」であり、同時に「南シナ海に対する関与のあり方について検討」とありま す。ISR とは英語の「情報収集・警戒監視・偵察」の頭文字を並べたものです。統幕内部文書 の続く部分は「アセットの防護」です。「武器」と素直に書けばよいのに「アセット」。これは ガイドライン文書に「アセット防護」という言葉が出て来るからです。

ともに行動している他国軍隊の武器を防護する。「武器防護」というと奪われそうになった 銃を取り返す、などということを想像しますが、この場合の「武器」とはあらゆる武器、つま り戦闘機や航空母艦まで含めてすべて守るべき「武器」だと、国会で防衛大臣が答弁しました。 もし米国の航空母艦と自衛隊のイージス艦がともに南シナ海のパトロールをすることになっ て、航空母艦に対してミサイル攻撃がなされたら、イージス艦はそのミサイルを撃ち落とすこ とが任務になります。現実性の薄い事態ですが、そこまでできると今度の戦争法では決めたの です。

共同パトロールをして仮想敵国の妨害に対処するためには、ともに行動する軍との共通 ROE (部隊行動基準が必要です。どのようなケースでどのような反撃をするか、共通ルー

めておかないと、フライイングで発砲したりすれば、すぐに戦闘になってしまうからです。米 軍との共通 ROE は、これまた統幕内部文書では検討課題に挙げられています。

なお、フィリピンに飛んだ海上自衛隊の P3C 哨戒機は、宮崎県の鹿屋航空基地から出発し ました。鹿屋はかつての海軍航空基地であり、アジア太平洋戦争末期には多数の特攻機がここ から飛び立ちました。海上自衛隊機が 70 年前の特攻機と同じ経路を飛んだ。アジアの人々は どのように感じたでしょうか。

次は西太平洋の島、グアムとテニアンの話です。

航空自衛隊は毎年グアム島で「コープノース・グアム」という日米豪共同演習を行っていま す。ここで何をするかというと、F2 戦闘機に 500 ポンド爆弾を積んで投下する。爆撃の練習 ですね。自国領土を爆撃する必要はありませんから、敵基地攻撃の練習と考えたほうがいいの ではないでしょうか。500 ポンドというと 227 キロ、この爆弾ひとつで大きなビルが吹き飛び ます。

グアムには沖縄の海兵隊の一部が移転する、沖縄の負担が軽減する、だから米軍グアム基地 の整備に日本は金を出す、と言われてきました。実際には普天間基地の移転とセットだったた め、日本が支払った経費も長い間凍結されていたのですが。2013 年にこのグアム協定が改定 されて、グアムと「北マリアナ諸島」、具体的にはテニアン島が自衛隊・米軍の共同使用基地 になりました。すでにテニアン基地整備のための予算が組まれています。

グアムもテニアンも、70 年前まで日本の植民地でした。正確に言いますと第 1 次世界大戦 の結果、ドイツ領だった「南洋諸島」が日本の国際連盟信託統治領になったのです。アジア太 平洋戦争中にテニアンを占領した米軍はここを爆撃機の拠点を築き、日本の大都市を次々に攻 撃したわけですが、広島・長崎に落とした原爆も、テニアンで積み込まれました。大きく重い 原爆を爆撃機につり下げる作業のため、滑走一部が下げられましたその掘り下げた た跡が原爆搭載の記念の地としてドームで覆われて残っています。

そういう島に自衛隊が進出するのも、先に述べたようにガイドラインの冒頭に「アジア太平 洋地域及びこれを越えた地域」の平和のため自衛隊と米軍が協力する、と書かれているからで す。グアム、テニアンを拠点に自衛隊は西太平洋を共同防衛します。

 

第三次ガイドラインとは  

4 月 27 日、新しい日米防衛協力ガイドラインが締結されました。私のここまでのお話では これを単に「ガイドライン」と言ってきましたけれども、すでに改定は 2 回目ですから、正確 には「第 3 次ガイドライン」になります。

第 3 次ガイドラインを締結したのは、中谷防衛大臣、岸田外務大臣、ケリー国務長官、カー ター国防長官の日米 2 人ずつの閣僚です。内閣には報告されていますが、条約ではないので国 会で審議して批准する必要はありません。条約だと双方の国語のものが厳密に付き合わされて ともに正文となるのが普通ですが、ガイドラインの正文は英語で、日本語のものは「外務省仮 訳」です。内容の解釈について行き違いがあったときには英語のものをもとに協議されます。

というようにガイドライン文書は単に 4 人の閣僚が合意しただけのもの、という位置付けで すが、実質的には日米安保条約改定と同じ重みを持っています。

振り返ってみますと、1951 年に日米安保条約が結ばれてサンフランシスコ講和条約が

改定されたときには、条約中に日本の防衛力整備が約束されていました。憲法の手前軍事力とは決して言いませんが、自前の「実力」で国を守れるようにせよ、ということです。

10 年間の固定期間を経て、1970 年に安保条約は改定されず、自動延長になりました。「60 年安保闘争」の再現を恐れた政府は、条約改正を提起することができなかったのです。その代 わりにとった方法が、ガイドラインの締結でした。

1978 年の第 1 次ガイドラインは、日本防衛は自前で、と確認しました。すでに自衛隊は誰 が見ても軍隊の規模となり、ただし「専守防衛」で外に出ていくことはしないはずでした。1997 年の第 2 次ガイドラインでは、周辺有事での日米共同作戦を決めました。日本領を越えたとこ ろでも自衛隊・米軍が共同行動をするということで、主要には第 2 次朝鮮戦争を想定していま した。第 2 次ガイドラインに沿って、日本の国内法、周辺事態法と有事法制が整備されました。 そして 2015 年の第 3 次ガイドラインで、日米はグローバルに共同作戦を展開することになり ました。このように見てきますと、ガイドラインは安保条約の枠を大きく超えた日米間の約束 になっており、「安保体制」という表現では古くなったため、「日米同盟」と言われるようにな ったのです。

さて、その第 3 次ガイドライン文書は、全部で 8 章構成になっています。このうち第IV章「日 本の平和及び安全の切れ目のない確保」と、第V章「地域の及びグローバルな平和と安全のた めの協力」の 2 章分が、今回の戦争法のもとになっています。しかしより重要なのは第III章「強 化された同盟内の調整」というところです。「同盟調整メカニズム」と「共同計画策定メカニ ズム」という、2 つの組織を作ることになっています。このあたりをご説明します。

「同盟調整メカニズム」は、平時から緊急事態まで「切れ目なしに」、自衛隊と米軍が協力し あうための常設の協議機関です。日本側では防衛省だけでなく関係各省庁も、事態によっては 地方自治体も民間も含めての協議になります。97 年の第 2 次ガイドラインでは「調整メカニ ズム」と呼ばれていましたが、実際に稼働したことはなく、東北大震災のとき災害対策限定で 稼働しました。

問題なのは、同盟調整メカニズムでは平時から軍事協力の協議をするばかりか、日本に対す る武力攻撃があったときも、日本以外の国に対する武力攻撃があったときも、日本におけ大規模災害の時も、自衛隊が国際的な活動を

するときも、同盟調整メカニズムで協議するとい う決まりです。日本は自国防衛も米国と相談しないとできないことになります。自衛隊が海外 に出て行くときもそうですから、日本に勝手なことはさせない、という米国の強い意志がここ には見えます。

その同盟調整メカニズムの根幹部分が「軍軍間の調整所」です。じつはこのことは第 3 次ガ イドラインの本文には書かれておらず、統幕内部文書が暴露されたことによって明らかになり ました。純粋に自衛隊・米軍の軍人同士の協議だから「軍軍間」です。もちろん自衛隊を「軍」 と呼ぶのは大問題ですが、実態からここでも「軍」と呼んでおきます。

現在すでに米軍横田基地内に「日米共同統合運用調整所」が置かれています。「統合」とは 陸海空の統合です。主にミサイル防衛のための情報共有・共同対処をするところ、と言われて きました。「軍軍間の調整所」はこの組織を拡充する形で置かれることになるのではないでし ょうか。平時には情報共有機関、しかし事態の推移に応じて幹部が集まり、日米共同作戦司令 部になります。

軍人同士の協議で事態対処の基本がまず決められてしまう。「事態」の認定をする国家安全 保障会議で状況説明をするのは統幕監部です。自衛隊派遣を決める国会で説明するのは防衛大 臣ですが、特定秘密保護法により、肝心なことは国会には出て来ないでしょう。国家安全保障 会議も国会も、自衛隊・米軍の協議で決めたことを追認するセレモニーになってしまう危険が あります。それをチェックする軍民統制のシステムが、軍がないことになっている日本ではき ちんと存在しないのです。

第 3 次ガイドラインIII章でできるもうひとつの組織が「共同計画策定メカニズム」です。

共同計画というと漠然としていますが、じつは詳細な共同作戦計画、つまり有事に自衛隊と 米軍がどのように協力しながら戦うかを記したシナリオです。これまでに 78 年の第 1 次ガイ ドラインで日本有事の共同作戦計画 OPLAN5051 が、97 年の第 2 次ガイドラインで朝鮮有事 の共同作戦計画 OPLAN5053 が策定されましたが、後者はその存在さえ日本政府は認めていま せんでした。

そのような共同作戦計画を、これからは「存在を対外的に明示」しつつ策定し、従来のもの も定期的にバージョンアップすると、統幕内部文書は明らかにしました。統幕文書によれば、 これから 2 年計画で新たな共同作戦計画が策定されることになっています。南シナ海有事、中 東有事などで自衛隊・米軍が「ともに戦う」シナリオが作られます。

共同作戦計画は演習で練り上げられ、実戦ではそのまま作戦命令になります。芝居の台本、 稽古、本番の関係と同じです。

ここまで計画され日米政府間で合意しているからこそ、日本の国内法整備=戦争法が必要に なりました。法律を改正しないと自衛隊は海外で戦えないからです。

第 3 次ガイドライン第II章に、ガイドライン文書は日米どちらにも「立法上、予算上、行政 上又はその他の措置をとることを義務付けるものではなく」とありますが、すぐ続けて「各々 の判断に従い......具体的な政策及び措置に適切な形で反映することが期待される」と書かれて います。期待に応えて安倍首相は 4 月 29 日に米国議会で演説し、夏までに戦争法を成立させ る、と約束したのです。


■誰が「違憲」と判断するのか

戦争法がどのように危険なものか、もうみなさんは十分に学習してこられたと思いますので、 ここでは条文に則して説明することはいたしません。

戦争法は違憲の法律だということが常識になりました。6 月 4 日の衆議院憲法審査会で 3 人 の憲法研究者がはっきりと「違憲」だと言ったことで、この常識が広がったと思います。早稲 田の長谷部教授はこの春まで東京大学教授だった人で、特定秘密保護法に賛成した人です。慶 應義塾の小林教授は、改憲論者です。そして早稲田の笹田教授も含めて、みな「違憲」と言い ました。「合憲という憲法学者もたくさんいる」と発言した菅官房長官は、国会で質問される と 3 人しか名前を挙げられず、「数じゃないと思いますよ」と逃げました。

憲法研究者の圧倒的多数が戦争法は違憲だと言っている。日本の弁護士全員が会員になって いる日本弁護士連合会の意見書も違憲と言っている。1 万 4000 人を超える「学者の会」が違 憲と言っている。専門家がそう言うから違憲、なのではありません。

誰が「違憲の法律」と判断するかというと、まず最高裁判所に違憲立法審査権があります。 ただし成立した法律が違憲だと訴えられたときにだけ判断をします。

これまで自衛権に関する判断を最高裁判所が行ったのは、1959 年の砂川事件判決だけでし た。砂川事件は、米軍基地の拡張に反対して基地に「侵入」した人たちが刑事特別法違反で訴 えられ、そもそも米軍駐留が違憲だと主張した裁判です。判決で最高裁判所は被告の行動が違 法かどうかだけを判断すれば良かったはずですが、ついでに「憲法第九条はわが国が主権国と して有する固有の自衛権を何ら否定してはいない」、「自国の平和と安全とを維持しその存立を 全うするために必要な自衛のための措置を執り得ることは、国家固有の権能の行使」、などと いう判決を出しました。これをもって安倍政権は、最高裁が自衛権の存在を認めた、ここでは 個別的自衛権と集団的自衛権の区別をしていない、だから当然、集団的自衛権も入る、と主張 します。無理でしょう。1959 年段階で自衛隊が海外で武力行使をする能あるな考えた人がいたわけがない。

誰が「違憲の法律」と判断するのか。もうひとつ、内閣法制局というところがあります。法 律案を国会に提案するには、衆議院議員 20 人以上で、参議院議員 10 人以上で、内閣が、とい う 3 つの方法があります。法律案がすでにある法律と矛盾することがないか事前審査をするの が、それぞれ衆議院法制局、参議院法制局、内閣法制局です。とりわけ内閣法制は「憲法の番人」と言われ、内閣が提出する法律案が憲法違反にならないか厳しくチェックしてきました。歴代の内閣法制局長官は国会で「集団敵自衛権行使」は「違憲」と何度も答弁してきましたので、これまで集団敵自衛権行使にかかわる法律案が国会に上程されることはなかったのです。

ところが安倍首相は 2013 年に、集団的自衛権行使を認める主張をしていた外交官の小松一

郎氏を内閣法制局長官に登用しました。このときから内閣法制局のチェック機能は著しく低下 したのです。小松氏が亡くなった後も内閣法制局の体質変化はそのままで、今回の戦争法案は 事実上ノーチェックで国会に提出されました。

では、最後に「違憲の法律」だと判断するのは誰か。それは私たち主権者です。集団的自衛 権行使=外国での武力行使を認める法律が、日本国憲法の平和主義に照らして違憲でないはず がない。これが常識です。堂々と憲法改正をして戦争国家をつくるだけの度胸も能力もない政 権党が、小選挙区制のため国民の選択を正確に反映しない議席配分のもとで、国民の多数の納 得が得られていないと安倍首相自身が認めるなかで、数で押し切ったとしても、常識を覆すこ とはできません。

しかも 9 月 17 日の参議院特別委員会の採決は、委員でない与党議員が不法に入室して議長 席周りでスクラムを組む中で、議事録に何も書かれていないような混乱のなかで行われたとさ れる「採決」でした。維新の党が提出した独自案は裁決されたのかどうか不明です。参議院本 会議では地方公聴会の報告もなされないままに「採決」が行われました。自民党・公明党は、 議会制民主主義の基本的ルールも踏みにじって 9 月 19 日未明、戦争法を成立させたのです。


■戦争法廃絶のために

国会で戦争法案を「違憲」と述べた長谷部教授・小林教授らはすでに 6 月 15 日日に記者会 見を行い、「違憲訴訟を準備」と発表していました。小林教授によれば、「『違憲立法で平和に 生きる権利が傷つけられた』という訴訟を準備しています。ただかなり技術的には難しい。そ の次の段階は具体的に海外派兵の命令が下った時、部隊の一員が逃げ出して懲戒処分を受けた とき、その処分は違憲だと訴える。いちばん悲劇的なのは、実際に海外派兵で死んだ人がいた 場合、遺族が『違憲な戦争で家族が殺された』という訴訟。この準備を我々はすでに始めてお ります」ということです。

ただし、裁判は時間と手間がかかります。普通のテンポでは、地方裁判所段階で判決が出る 前に国政選挙があるでしょう。選挙で勝負をするほうが早いので、裁判は良い判決を求めるよ りも国民運動とすることのほうに意義があるのでしょう。そしていちばん危ないのは、不用意 に裁判を提起すると門前払いならともかく、ただちに戦争法合憲、自衛隊合憲の判決が出てし まう可能性があることです。これまで国民運動によって、自衛隊合憲の判決はいちども出てお りません。

成立したことになっている戦争法を誰にも文句を言わせない方法で無効にするには、国会の 議席構成を大きく変えて、「戦争法廃絶法案」を可決させるほかはありません。小選挙区制の もとで国政選挙で野党が勝利することが前提です。困難ですが不可能ではありません。

次の国政選挙は来年 7 月の参議院選挙、半数改選です。 参議院の議員定数は 242、改選は 121 議席です。戦争法に賛成した参議院議員は自民・公明を主に 148、反対した議員は民主・維新 ・共産・社民を主に 90、欠席・退席・議長を合わせて 4 でした。この賛成・反対議席数を逆 転させなければなりません。小会派の動きが微妙ですが、参議院の与野党が逆転してねじれ国 会になれば、戦争法施行が困難になります。1 人区、2 人区で野党が当選するためには、野党結集が必要です。

そして衆議院議員の任期満了は 2018 年 12 月です。待っている必要はないので、早期解散を

求めるべきでしょう。衆参両院で与野党が逆転すれば、戦争法廃絶法が成立します。 落選運動、というものがあります。総務省の選挙法ガイドラインには、次のようにあります。

「ある候補者の落選を目的とする行為であってもそれが他の候補者当戦をはかることを目的とするならば、選挙運動となる」「ただし、何ら当選目的がなく、単に特定の候補者の 落選のみを図る行為である場合には、選挙運動には当たらない」。

要するに、選挙運動にはさまざまな制限がありますが、戦争法に賛成票を投じた議員を落選 させるための運動は自由にできるということです。この手を使わない法はありません。ただし 小選挙区で野党共闘が進んで候補者が一本化されたときには、特定の候補への落選運動は他の 特定の候補の選挙運動とイコールになってしまうので、注意が必要です。今のうちなら自由で すから、戦争法賛成議員の一覧表が活用できます。もちろん、品のない個人攻撃は逆効果です。

*参考:国会全議員いちらん http://democracy.minibird.jp/ 念のため申し上げますと、国会議員にリコール制度はありません。 戦争法反対運動は最終盤で大きな盛り上がりを見せました。9 月 21 日にマスコミ各社が発

表した世論調査を見ますと、戦争法反対:賛成が、朝日新聞で 51:30、讀賣新聞で 58:31、 日経新聞で4:31 です。明らかに戦争法は民意に反しています。戦争法が憲法違反:違反で ないの回答比は、朝日で 51:22、毎日で 60:24。国会審議の進め方が良くない:良かったの 回答比は、朝日 67:16、毎日 65:24、讀賣 60:30 でし
た。これが主権者の意思であり、主権 者の意思を踏みにじった自民党・公明党議員は許されるべきではありません。

このままでは来年 3 月には戦争法が施行され、すぐに南スーダン派遣の自衛隊に新たな危険 な任務が与えられます。そして海外各地に派遣された自衛隊が戦闘に参加する可能性が高まり ます。一刻も早く戦争法を廃絶するために、みなさんとともに努力したいと思います。

(本稿は 2015 年 9 月 10 日から 19 日までの間に行った講演等の記録をまとめたものです)