永田町に渦巻く改憲の企て

            講師 高田健さん

         2012年12月9日 練馬区職員研修所にて                           

はじめに

私は憲法学者ではなくて運動家としてさまざまな運動に関わってきましたので、これからの運動をどう構築していくのか、どう前進させていくかということを常に考えている人間の一人です。しかし、今は総選挙のさなかで結論が見えていないという前提での話になります。


一.長期見通しを持って改憲派議席の確保をめざす安倍自民党
1)自民党が「改憲」を公約に選挙を戦うわけは…

 今年の4月28日は、サンフランシスコ講和条約の発効から60周年に当たります。それは同時に日米安保条約の60周年にもなります。自由民主党は、このサンフランシスコ講和条約の発効が日本の独立記念日だと言っていて、日本が完全に独立してから60年だというのです。同時に、沖縄が日本から切り離されて異民族の統治下におかれてから60年なのです。お祝いなどできる気分になれるわけないじゃないですか。今日なお沖縄はオスプレイの問題、あるいは普天間の問題、そういった問題で米軍基地の下で苦しんでいます。自由民主党はこの60周年をお祝いして憲法改正草案をつくったわけです。7月27日に発表しました。
 自民党というのはもともと改憲をめざした政党です。しかし、改憲草案を自民党が持ったのは2回目です。1度目は2005年に、自民党の結成50周年を祝ってつくりました。それをつくり直して今回の「自民党憲法改正草案」がつくられたわけです。この草案はとんでもない内容で、「我が国は天皇を元首にいただく国家である」とか「自衛隊を国防軍にする」とか、これは昔の大日本帝国憲法の復活ではないかと思わせるようなものです。
 このとんでもない時代錯誤の憲法改正草案を掲げて、自民党は今回の選挙を戦っているのです。自民党は今度の衆議院選挙では、この改憲草案を彼らの憲法政策の基本にしています。ですから、もし自民党が勝利するようなことがあると、彼らは当然国民に信任されたと居直るに違いありません。国民が信任してくれた、憲法草案を多くの国民が信任してくれたのだと居直って、これに向かって突き進むでしょう。


2)右翼団体と化した自民党

 このひどい憲法改悪案を出したときに、一つのエピソードがあります。3月の自民党本部での議論のときに、引退した福田康夫さんが「自由民主党は保守政党ではあるけれども右翼ではない筈だ」と怒ったのです。2005年の草案で九条の部分を担当した福田康夫さんがです。彼も右派です。その福田さんから見て、今日の自民党の改憲草案は、右翼団体の改憲草案ではないかと怒ったのです。この党はひどい党になってしまった。私が思っている自由民主党ではなくなってしまったと彼は思ったのだと思います。
 自民党の総裁選挙には候補者が5人立ちましたが、5人が5人、みんな憲法改正、集団的自衛権の行使です。中には「自衛隊は海兵隊を持つべきだ」と言った安倍さんや石破さんのような人もいました。沖縄でさまざまな強姦事件や暴行事件を起こしている犯罪者たちの大半が海兵隊のメンバーです。海兵隊というのは陸海空三軍の先陣を切って突撃をする切り込み部隊です。だから命令が出ればいつ死ぬかわからない。沖縄にいる部隊もいつ本国から命令が出て突撃させられるかわからない。そういうところからやけになって犯罪を犯していると思います。「日本の自衛隊にも海兵隊が必要だ」と、自民党の総裁選の中で候補者が言う時代になったということです。自衛隊というのは彼らの理屈から言っても、日本の領土や領海を防衛する軍隊でしょう。攻められたら守るという建前でつくられた軍隊ですよ。海兵隊はいりますか?


3)自民党変貌の理由は民主党の自民党化

 かつて自由民主党というのは懐の深い政党でした。宇都宮德馬さんのような人もいました。日中国交回復をした松村謙三や、古井喜実などを含めて鳩派がいました。あるいは明らかに鷹派とは違った流れが自由民主党の中にはあったのです。1960年の安保闘争のときに、岸伸介は国会を取り巻いたデモ隊に自衛隊を出して弾圧しようとしたのですが、赤城防衛庁長官がそれに同意しなかったために弾圧はかろうじて避けられました。その後出てきた池田勇人は低姿勢を売り物にしていました。鷹が倒れた後は鳩らしき池田が出てくる。これが自民党の懐の深さだし、自民党流の55年体制の政治だったのです。自民党の中で鷹派と鳩派を交替させながら政権を維持してきたのです。こういう政党だったから長期独裁をやれたのです。今度の5人のようにみんな真っ黒なんてことは近代まれなことなのです。 
 昔、自民党の党員は500万人いました。今は80万人です。数百万もいればその中からさまざまなリーダーが生まれてきますが、今は違います。
 政権交代の後、民主党が限りなく自民党になっていきました。そのため自民党は自分の位置がなくなってしまった。そこで、「自民党は自民党らしく」「自民党の特徴を表すことで総選挙を戦う」これがこの三年間の自民党の課題だったのです。それが今出ているんです。だからみんな鷹になったのです。かつての池田さんの役割を民主党がやっている、民主党と自民党を合わせると昔の自民党になる。そういう構図なのです。
 この前の安倍さんのときも、改憲を公約の第一番目に掲げましたが、実際の選挙戦では、ほとんど改憲問題は言いませんでした。ですから06年の総選挙のときには、改憲問題はこれほどの争点にはなりませんでした。マスコミもほとんど書きませんでした。今回は結構憲法問題が取り上げられています。この日本国憲法下での総選挙で、これだけ本格的に改憲問題が焦点になって、いくつかの政党が露骨に改憲を訴え、護憲派の政党が反撃しているという構図は初めてではないかと思います。


二、震災、領土問題などでの世論操作

1)九条の会が変えた世論(2006年)

 改憲論は2001年に総理に就任した小泉純一郎の時代に出されました。そこで、2004年に私たちはみなさんといっしょに九条の会をつくりました。九条の会だけではありません。さまざまな会があります。「憲法行脚の会」とか、私が所属する「許すな!憲法改悪市民連絡会」など、たくさんの市民団体ができて、小泉さんから安倍さんに移っていく時期に、全国的に大きな運動を起こしました。九条の会も毎年1000ぐらいの会が次々とできていきました。その結果世論が変わりました。読売新聞の世論調査でも、08年には「九条を変える」と「変えない」がダブルスコアになったのです。「変える」が30%弱、「変えない」が60%になるまで変わりました。それまでは同じぐらいだったのです。ですから強引な政治家が出てきて憲法を変えると言ったら変えられかねない状況だったのです。2006年に総理になった安倍晋三は、「自分の任期中に憲法改正をする、日本国憲法の中で一番悪いのは第九条だ」そして「任期6年中に憲法改正をする」と言いましたが、一年後に彼は「お腹が痛くなって退陣」しました。私はお腹が痛くなったという言葉は信じません。私は安倍晋三が退陣した大きな原因は憲法問題だったと思うのです。6年の間に九条を変えると豪語した安倍さんが、世論の動きを見て「これはどうにも変えられそうもない、国民投票をやっても絶対に勝てない」と思って神経が参ってしまったと思うのです。もちろんその他に、対アジア関係、対米関係などでの失敗があります。そういう中で彼は政権を投げ出したのです。それは全国の市民が作り出した〝たたかい〟だったのです。
 それで私は、その大きな意義について全国でお話をして歩きました。「永田町では私たちの力は弱くても世論が大きな力を持ったときには、私たちは改憲という企てを阻止したではないか、民主主義の力、市民の平和の力はここにある。60年安保闘争に次ぐ大きな〝たたかい〟を私たちはやった。60年安保は労働組合や若者たちが中心になった〝たたかい〟だったけれども、九条改憲阻止の〝たたかい〟も中高年者が頑張った〝たたかい〟だった。これは戦後の運動の中でも大きな特徴のある重要な〝たたかい〟であり、歴史に残る〝たたかい〟だった」と、私も渡辺治もそう評価して全国に言って歩きました。それが良かったのか悪かったのか、何となく私たちはちょっと安心をしてしまっています。全国であれだけの広がりを見せた〝たたかい〟のエネルギーが少しそがれてきたことは間違いのない事実だと思うのです。その間に九条の問題が再度前面に出たときに、私たちが即座にそれに立ち向かう体制にあるかというと、今はそうなっていません。ここを何としても取り戻さなければいけない。九条の会をつくってから7~8年になりますから、お互いに年を取ります。エネルギーも多少はそがれるところがあります。ですから「7~8年前と同じように頑張れと言うのは無理だよ」と言われるかもしれない。しかし、そういう時期がまた来てしまった今、私たちはどうするのかというのが今日のテーマの一つでもあると思うのです。

 

2)改憲賛成の世論が増加(2012年)

■毎日新聞(9月15日)改憲賛成65%、反対27%  九条改正賛成56%、反対37%
           集団的自衛権 現状のまま51%、必要なし52%。行使する43%

■朝日新聞(5月)  改憲賛成51%、反対29%、   九条を変える30%、変えない55%
■東京新聞(11月) 九条改憲賛成  46.2%、反対35.1%、(20代、30代で反対が多数、
              40代以上は容認派が多い)
■東京新聞(11月末) 九条改憲賛成  40.9%、反対41.1%(20代、30代で反対派が多数)
  明らかに毎日新聞の調査では、改憲に賛成、九条改正に賛成の人が多くなっています。08年の調査とは明らかに違った数字が出ているのです。でも私はこの時はタカをくくっていました。2月の読売新聞の調査があったからです。ところが東京新聞の11月の新聞を見て本当に驚きました。賛成が反対を上回っていたからです。救われるのは若い人に反対派が多かったことです。若い人が九条を守るべきだと答えていたのです。東京新聞は11月末にもう一度調査を行っていますが、それは少し変わっていました。反対の方がいくらか多くなっていました。ここでも20代、30代では九条改憲反対派が多数だという話がでています。
 新聞の世論調査に一喜一憂をすることはないと私は思うのですが、傾向としては明らかに08年当時の世論と変わってきているということは見て取れると思うのです。傾向としては九条改正に賛成したり、改憲に賛成したりする人が世論の中では増えていること、かなり危ないところに来ていることは見ておくべきだと思うのです。朝日が自民党の国防軍の問題で調査をしたところでは、国防軍に賛成が26%、反対が51%です。国防軍とまで言えばやはり反対するのでしょう。しかし、全体として憲法改正には賛成、自衛隊も認めた方がいいのではないかという声が強くなっていることは間違いありません。


3)改憲世論の背中を押した3・11と領土問題

何が作用したかは、言うまでもありません。3・11と尖閣諸島などの領土問題だと思います。3・11を契機にして、10万からの自衛隊が投入された。あるいは米軍が〝トモダチ作戦〟ということで投入された。私は東北の出身ですから東北の多くの人たち、被災地に来てくれた自衛隊や米軍に感謝した気持ちをよくわかります。ありがたかったと思います。自衛隊や米軍は東北の人たちの感謝の気持ちを見て、自衛隊が信任されたと思ったに違いありません。そして「日米同盟」という、彼らが言う「日米安保体制」が多くの支持を得られ始めたと思ったことは間違いないのです。彼らはそういうところから憲法改正を声高に叫ぶようになって来たのだと思います。そして多くの人から見ても、自衛隊があって大震災のときには役立つと思う人がいたのは間違いないのです。あれだけ頑張っている自衛隊を憲法に明記しないのはおかしいのじゃないかと自民党が言うと、「それもそうだ」と思う人がそれなりに増えてきた。「日米安保が悪い悪いと一部の人は言うけれども、安保があったから米軍が来てくれたんじゃないか」と思う人も増えてきたのです。
 国会では大震災から2ヵ月も経たないうちに憲法改正の議論を始めて、憲法審査会を国会に設け、その規約をつくったのです。明らかに3・11を契機にして改憲の空気が強まってきました。「3・11に菅内閣がうまく対応できなかったのは日本国憲法のせいだ。日本国憲法に緊急事態法がない。こういう緊急事態が起きたときの対応が憲法にはない。憲法が悪いからうまくいかなかったのだ」と自民党の人たちは主張しだしました。そして憲法に緊急事態条項を入れるべきだと主張します。こういう議論が3・11のあと強まってきました。
 合わせてこの間の尖閣諸島の問題、これに火をつけたのは石原慎太郎が、尖閣諸島を買うと言い出したことですね。石原慎太郎は、尖閣諸島は沖縄に属すると言うのですが、「沖縄県に属するといわれる尖閣諸島をなぜ東京都が買うのか」という批判を浴びると思ったから、彼は都の税金は使わないで、カンパを集めました。政府は慌てて国有化をしましたが、そのことで中国はカンカンに怒りました。すると、中国が攻めてきて、尖閣諸島が占領されるかもしれないという風潮が一気に広がりました。週刊誌は「日中もし戦わば」というようなものをバンバン出します。そして「戦ったら日本軍の方が強いのだ。空軍力も海軍力もこちらの方が強い」そういう議論が週刊誌の中にいっぱいあるのをご存じですか。そして「中国から領土を防衛するか、しないか。」そういう議論が街で起きるようになります。酒場で酒の肴にされるような事態になりました。こういう中で、「自衛隊が大事だ」「軍事力を強化するべきだ」「日米同盟を強化するべきだ」という議論が出てきます。「九条がなかったら中国が尖閣諸島を占領しても戦えないよな」という話になってくるのです。さまざまなメディアで憲法に対する攻撃が一気に行われるようになりました。

 

三、集団的自衛権の行使に向けた動き

1)「アメリカのご機嫌を損ねないために」という改憲派

 それやこれやで憲法に関する世論がここまで変わってきたのだと思うのです。私たちは、もっと真剣に「これにどう反撃するべきか」を考えるべきでした。それはこれからの課題でもあります。放って置くわけにはいきません。自民党が憲法問題を掲げて総選挙をやるというのは、これをやるとうまくいくと思っているからです。彼らは総選挙で憲法改正が支持されると思うから言うのです。そういう空気があるのを知っているのです。「自衛隊を国防軍にする」と自民党が言うのは、それが支持されると思うからです。その中でも一番言われているのが、集団的自衛権の問題です。「集団的自衛権が行使できる日本にする」と、いくつかの政党が声高に叫んでいます。自民党は勿論ですが、石原、橋本の日本維新の会も言います。国民新党という今民主党と連立を組んでいる政党も言います。
 明確に言うのは主にこの三つの政党ですが、憲法を変えることと集団的自衛権が行使できるようにする問題とは違うのです。今の憲法九条のままでも集団的自衛権が行使できるようにする、その上で憲法九条も変えるという考えです。5人の総裁選候補者は全部、集団的自衛権を行使すると言っています。彼らは、今日米関係は危機にあると言います。「尖閣諸島が中国に奪われようとしているときに、日米関係がガタガタしている。これではやられてしまうではないか。日米同盟をしっかりすることが中国の尖閣列島防衛に役立つ、もし占領されてもそれを奪い返すことができる」と言うのです。そして「日米関係がガタガタになった責任は鳩山にある。鳩山は日米中の関係をめざした。東アジア共同体などと言って日米関係を軽視して、アメリカを怒らせた。アメリカは日本に不信感を持った。そういうことから日米関係はうまくいかなくなった。一刻も早くアメリカの信頼を取り戻さなければならない」と言うのです。自民党は朝まで生テレビでそう言うのです。その特効薬は「アメリカが今まで一貫して要求してきた集団的自衛権を受け入れること」だと。


2)冷戦終結後のアメリカの要望

 アーミテージレポートは、アメリカの政策を考える上で一つの参考になります。2000年10月に第一次アーミテージレポートが出て、2007年に第二次、第三次が今年の8月15日に出ました。
 2000年の第一次のときには「日本国憲法を変えるか変えないかについては、アメリカが口出しをすることではない。それは日本国民の責任である。しかし、集団的自衛権の行使できる日本になってほしい」と言っています。1981年に鈴木善幸内閣が日本政府が集団的自衛権に対して取るべき態度を明確に取りました。「我が国が主権国家である以上、集団的自衛権を有しているが、憲法九条で許容される必要最小限の範囲を超え、行使は許されない」集団的自衛権は国連で認めているから日本にもある。しかし、憲法九条があるので使えませんというのが公式見解なのです。それ以後、歴代の自民党政府はこの見解を踏襲してきました。だから憲法九条の下では集団的自衛権は行使できません。アメリカにとっては不愉快なことです。
 2007年2月の第二次で安倍総理は「日本政府は良くやっている。その調子で実現しなさい」と褒められたが、進展はしなかった。
 2012年の第三次では、「日米両国は中国の台頭と、核武装化した北朝鮮の脅威に直面しており、特に日本はこの地域で二流国家に没落する危機にある。」と脅し、「これに対して集団的自衛権を念頭に、米軍のエアーシーバトル(統合空海戦闘)と自衛隊の動的防衛力構想の連携で、米軍と自衛隊の相互運用能力を高めるべきだ」また、「東日本震災後の〝トモダチ作戦〟では共同作戦が奏功したが、日本は依然として有事に集団的自衛権を行使できず、共同対処の大きな障害となっている」と言ってきました。〝トモダチ作戦〟は、日本が集団的自衛権を行使できる土台とするためにやっていたのだ。にもかかわらず、集団的自衛権の行使が出来ないのはなにごとかと、軍人上がりのアーミテージは露骨に脅すのです。


3){集団的自衛権」の大合唱

 これに応えて、今の日米同盟を強固にして、尖閣諸島の防衛を果たすことが大事だと自民党はいうわけです。あの橋下徹までがそうです。彼は有名な維新八策を出しました。二月に出した最初の維新八策には憲法問題はありません。三月に憲法問題に対する立場がはっきりしないと産経新聞から叩かれると、憲法九条を変えると言い出します。「日本人が世界の困難に対してあらゆる犠牲を払ってでも、それに貢献しようとする姿勢がなくなったのは憲法九条のせいだ」とツイッターで書きました。このように露骨に九条批判をやり出しました。しかし彼は、しばらくは九条を変えるとは言わずに、「国民投票をやります」とだけを言っていたのです。ところが石原さんと合併したら、一気に自主憲法をつくるというところに行ってしまいました。そして集団的自衛権の行使を言うようになりました。野田さんの政権も「国家戦力フロンティア分科会」の報告書の中で、「集団的自衛権の行使ができる日本になるべきだ」と発言、永田町では、一気に集団的自衛権の行使が大きな問題になってきました。
 前の安倍政権の時代に、今の九条の下で集団的自衛権が行使できるかどうかについて、安倍さんは、自分の信頼する学者知識人ばかりを集めて諮問委員会をつくりました。つくった時点から結論は明確でした。予想通り「集団的自衛権は一部行使できる」という答申を出しますがその時には安倍さんは辞めていました。福田さんはこの問題をお蔵入りにしていたのですが、安倍さんはもう一度これをやろうとしているのです。


4)そもそも集団的自衛権とは

 自衛隊はもともと日本の領土・領海を守るため「専守防衛」ということでつくられた実力部隊ということになっていますから、自衛隊が戦うときは攻めてこられたときです。ところが集団的自衛権の行使はそれではないのです。同盟関係にあるアメリカがどこかから攻められた、あるいはどこかを攻めた場合には、アメリカと一緒に戦うということです。世界最大の強国であるアメリカを攻める国はありません。あり得るのはアメリカがどこかを攻めた場合です。そこが日本の敵でも何でもなくても日本の自衛隊が一緒に戦うという関係です。
 イランという国があります。アメリカとイランの関係は今緊張しています。イランは伝統的に日本に対しては好意的な国でした。最近はアメリカべったりだということがバレて、冷たくなってきていますが親日的な国でした。もしもイランをアメリカが攻めたときに、日本の自衛隊はこの親日的なイランと戦わなければならないのです。日本はイランからは石油を買ってきたところです。この国と日本は戦わなければならない、集団的自衛権というのはそういう関係なのです。みなさんこれを許しますか?
 イラク戦争を思いだして下さい。イラクは大量破壊兵器を隠し持っているに違いないということで、アメリカはイラクから攻撃されたわけでもないのに、先制攻撃をして、50万から100万といわれる人々を殺してしまった。殺してしまった後で、持っていなかったことがわかる。その後も、まじめに謝罪せずに、「あ、間違った」と、その程度のことを言うわけです。この時に真っ先の駆けつけたのはイギリス軍です。ハルージャという街にテロリストがいるとうことで、ネズミ一匹通れないようにこの町を包囲して市民を虐殺をしました。大虐殺です。イギリス軍はこの虐殺に荷担をしました。今イギリスではその責任が問われています。日本の自衛隊は幸い虐殺に手を染めていません。アメリカは日本もイギリスのように戦えと言ったのですが、憲法九条があるからそれはできませんということで、サモアにお城を作って、そこから水道工事をしたり、学校をつくったり、道路を作ったりという後方援助に行っていたのです。幸いなことに自衛隊は弾を一発も撃ちませんでした。自衛隊員も事故では死にましたが戦争で怪我をすることなく帰って来ました。これは憲法九条があって、集団的自衛権が行使できないという立場を日本政府が取ったからなのです。そこがイギリス軍と日本の自衛隊の違いですよね。しかし、これからはイギリス軍のようになれと言われているのです。そうなれば、必ず殺します。必ず殺されます。憲法九条があってもこれでは役に立ちません。今アメリカさんのご機嫌が悪いからと言って、自民党はこれをやりましょうと今回の選挙でも訴えているのです。絶対これは許してはいけません。自衛隊にこんなことをさせてはいけません。
 自衛隊が海外で戦争をするようになったら、九条の会にとっても大問題です。九条の会の中には自衛隊の存在を認めているところもあります。全国の九条の会は、保守も革新も一緒に連帯していこうという大きな運動です。ですから、今九条の会にとっては、集団的自衛権の行使を認めるか認めないかというのは、私たちの会の存立そのものに関わる問題なのです。多少難しかろうが何だろうが私たちは、街頭でも職場でも家庭でも、人々に訴えなければいけない。これを何としても阻止しなければいけない状況に私たちは置かれているのだと思います。


5)「国家安全基本法案」は要注意です!

 もし、安倍さんを中心とした政権ができたとして、突然、集団的自衛権の行使をするという具合にはいきません。1981年からずっと、公式見解として「行使できない」と言ってきたからです。そのために彼は「国家安全保障基本法」という法案をつくると言っているのです。自衛隊法の上にある基本法をつくると言っています。この基本法は憲法と違って国会の過半数で決められます。この中に、「日本は集団的自衛権を行使しても憲法九条に違反しない」ということを書き込むとしているのです。これをつくれば1981年からずっとやってきた政府見解をヒックリ返せると彼らは思ってますから、もしかすると来年の通常国会で国家安全保障基本法の審議が始まるかもしれません。私たちはこの〝たたかい〟をしなければいけなくなるかもしれません。こうやって集団的自衛権の行使が出来るようにしようというのが安倍さんたちの計画です。


6)尖閣諸島をめぐって、今や一触即発の危機に!

 まだ法律が成立していないから安心かというと、そうではありません。今年の春から日米両軍の間で、合同演習がひんぱんに行われています。例えば大分県の日出生台という大きな演習場では、島嶼(しょ)奪還作戦が行われています。日米両軍がどう連携して島を奪い返すかという訓練です。今年の夏からはテニヤンやグァムで日米両軍の島嶼奪還作戦を想定した軍事演習がひんぱんに行われています。11月はじめには、尖閣諸島の目の前の沖縄の無人島で、島嶼奪還のための大規模な演習をやろうということになりました。自衛隊3万数千人、米兵一万数千人、五万近い軍隊の共同演習です。しかしこれは、太平洋戦争では激戦地になり、今もまた米兵の暴行と戦っている沖縄の人が、沖縄の中でそんな訓練をするのは許さないだろう、また、いくらなんでも中国を刺激しすぎるだろうということがあって、島に上陸することだけは止めましたが、島のまわりの演習はやりました。この演習は非公開でした。今まで演習は記者を入れてデモンストレーションも兼ねていましたが、今度の演習は明らかに実利を狙った演習です。こういう大規模な演習がやられていたのです。
 中国も東シナ海や黄海などで島嶼上陸作戦をやっています。東シナ海周辺で日米両軍と中国軍がお互いに大規模な軍事演習をくり返しているのです、今年の後半は。こういうことに私たちは結構鈍感にされてきたのです。一触即発なんです。こういうことの積み重ねがかつてんぽ15年戦争に進んで行ったと言ったら言いすぎでしょうか。
 私は今、日中全面戦争が起こるなどとは思っていません。しかし、部分における戦争はいくらもあり得るのです。現実に尖閣諸島の周辺では、例えば台湾の漁船が来たら日本の海上保安庁が消防のホースで水を掛けて追い飛ばしています。すると台湾の海上保安庁の船が来て、日本の海上保安庁の船をめがけて放水しています。あの放水は結構威力があるのです。船から跳ね飛ばされて死人が出ることもあり得ます。そういうことを時々やるようになっているのです。それが銃に変わることがないと誰が保障できますか。そこで台湾の漁民が殺されたときに台湾の海上保安庁が反撃しないという保障を誰ができますか。やられたからやり返すと日本の海上保安庁が言わない保障がありますか。たくさんの漁民が来て、海上保安庁では手に負えないから自衛隊きてくださいと言わない保障がありますか。こういうことが2012年の後半にひんぱんに行われていることに対して、無自覚になるわけにはいかないのではないでしょうか。
 現実には日本の自衛隊はそういうところまで進んでいるのです。このことも私たちは法律上の問題だけではなく、見逃すわけにはいかないと思うのです。


四、今後の運動の展望を考える

1)アジアの人々と連携して運動を展開しよう!

 尖閣諸島の問題で、私たちは9月の末に、大江さんなど日本の2000人ぐらいの市民で「市民の声明」というアピールを出しました。「領土問題の悪循環をやめよう。そして平和的にこの問題を解決しよう」という声明です。記者会見をやりましたら、台湾、中国、タイ、韓国など各社のメディアがテレビ局の車を5台ぐらいずつ連れて来ました。私などがやる記者会見には珍しくテレビカメラがズラーッと並んでいるのです。新聞社の方もたくさん見えました。しかし、日本の新聞社はほとんどいません、琉球新報社ともうひとつぐらいでした。翌日韓国の主要な新聞がみな社説で取り上げていました。中国と台湾ではテレビでもバンバン出ました。日本では残念ながらほとんど報道されませんでした。
 すると、台湾の市民たちが、「日本の大江健三郎たちのアピールを支持する。領土問題は平和的に解決されなければいけない。東アジアを平和的な東アジアにしなければいけない」と直ちにシンポジウムをしてくれました、一週間後ぐらいのことです。私はその日に講演が入っていていけなかったので、友人がスカイプでテレビ電話を通じて参加しました。
 中国では言論の問題は厳しい国ですが、700人もの知識人たちが、「大江健三郎たちの声明を支持し、私たちも領土問題は平和的に解決するよう要求する」というアピールを出してくれました。すごく嬉しかったです。韓国でもそのようなアピールが知識人の間で起こりました。
中国のアピールはちょうどデモ騒ぎの直後でしたから、勇気がいったと思うのです。実際に売国奴とも言われたそうです。私も日本の右翼に売国奴とずいぶん言われました。彼女らのアピールは「この領土問題はデモで日本の商店を焼き討ちしたりすることでは一切解決しない。そういうことはやるべきではない。日本の市民たちにもこういう風に叫んでいる人たちがいる。この人たちといっしょに話し合いながら平和的に解決しようじゃないか」という勇気のあるアピールでした。党大会という時期だったこともあるでしょうし、中国政府系の人もアピールに参加していたということもあって、幸いなことに弾圧はされませんでした。
 先日もこれからどうしようかという相談のメールが来ました。来週13日には中国方代表が来て今後の相談をします。そのアピールが出て初めて、外国で話題になっているというので産経新聞が大きく取り上げました。それから毎日新聞、東京新聞などが書きました。逆輸入です。
 そのアピールが出たときに八重山の女性が「アピールを出してくれてありがとう。私のところから朝起きると、天気のいい日は台湾の山々が見えます。あそことまた戦火を交えるような時期が近づいているのでしょうか。心配でたまりません」というメッセージをくれました。沖縄の人たちは本当に心配しているのです。あの太平洋戦争の末期、日本で唯一地上戦をやった沖縄が、もう一回東京都知事のお遊びのような挑発の下で、もう一度戦場にされるのかと心配している人たちがたくさんいるということです。
 しかし、そうさせないというアジアの市民もたくさんいるということを今度でわかりました。そしてこれからもこの運動を続けようと、そのアピールを出した人たちは思っています。アジア全体の市民が共同して、この問題を平和的に解決するという世論をつくっていこう。お互いに罵倒し合い、攻撃し合うのではなくて、まさに九条の精神だと私は確信しているのだけれど、そういう風に問題を解決していこう。かつての15年戦争のときには、市民の間にこういう連帯の力強い大きな運動をつくりあげることはなかった。時代が違っていました。今の時代はそういうことをつくれる時代なんだということを、このアピールの中で痛感をして確信を持ちました。
 憲法九条の問題、領土問題で、私たちの運動を支持しているアジアの人たちがたくさんいる。こういう人たちと文字通り連携をした日本の運動を、私たちはつくりあげていく必要があるのではないでしょうか。そこに私たちの希望の一つがないだろうかと思っています。


2)主権者としての権利を自覚した市民が育っている

 金曜日の行動に象徴される「脱原発」の全国的な運動があります。あの夏の暑い日に代々木公園には16~7万の人たちが集まってくれました。60年安保以来最大といわれる運動です。そして金曜日には今も、労働組合から言われたのでもない、政党から言われたのでもない市民たちが金曜日には、あそこに行ったら仲間がいるのではないか、自分も脱原発と叫びたいと思って国会前に集まって来る人たちがこの寒い中でも未だに続いています。そして東京の国会前まで行くのは大変だと、全国でやっています。こんなに市民が自発的に全国一斉にやる運動がつくられたというのは本当に珍しいと思うのです。労働組合が全国の執行委員会に指令を出してやる運動も素晴らしい運動だと思います。しかし、そういうものがない中で、自分は主権者として黙っていられない、抗議をしたい、そのことですぐに解決するとは思わないけれども言い続ことが、私たちの責任でもあり権利だと、そう自覚した市民たちがたくさん出てきたのです。私はこれは素晴らしいと思うのです。まさに日本国憲法の精神をあの人々が表しているのだと思うのです。主権者として自分の権利を民主主義として行使するという、そういう運動です。私たちはこれに確信を持つ必要があると思うのです。
「3.11の前はデモに行く人は良くない人だと思っていました」とインタビューに答えている人がいました。「世の中にいたずらに対立を巻き起こして、一方的に人を批判する人たちだから良くないと思っていました。でも3.11が起きても日本の政府が何にもしない。これだけ市民が怒っているのに対応しない。だからデモをやるしかないと思いました」と官邸前で答えている人がいました。あるいは「ここに来てわかりました。3.11のずっと前から「原発は危ない。原発はやめるべきだと言っていた人たちがたくさんいたことを知りました。その人たちに私たちは冷たかったです。申し訳ない思いがします」こういうのを聞くと、私は涙がこぼれます。本当に嬉しいです。そういう人たちが、決して若者ばかりではないのです。中高年者も含めていろいろな層の人たちがいます。そういう人たちが今行動しているのです。
 その人たちと一緒に、今大変な集団的自衛権、改憲の動きと対抗する動きを作れるとすれば、あの06年、07年の当時に盛りあげた、あの運動を再現することも不可能ではないと思うのです。教え込む必要はありません。あの人たちは今自ら民主主義を体現しています。憲法九条の説教をする必用はありません。私たちは憲法九条の精神であの人たちの脇に立っていればいいのです。一緒に行動すればいいのだと思います。そういう中で大きな運動がつくられるに違いないと思っています。
 沖縄でオスプレイに反対する大きな集会が行われています。県民の一割以上も参加する集会です。全国の各地でもオスプレイに反対する運動が起きています。あるいはTPPでも、さまさまな課題で、今市民が自分で立ち上がっています。そういう風潮が久々にこの社会に現れていると私は思います。憲法九条を守り活かしていく運動が、こういう流れの人たちといっしょになって、そしてアジアの人たちといっしょになって運動を起こしていくことができれば、自由民主党をはじめとする改憲派の人たちがやろうとしていることには、私たちは抵抗し、打ち破って行くことが可能なんじゃないかと思っています。


3)今後の私たちの課題

 「私たちは今度の総選挙で改憲に必要な3分の1を改憲派が確保する。そして半年後の参議院選挙で改憲派が3分の2を確保する」という計画を安倍さんは立てています。「その上で憲法第96条を変え、国民投票をやる。そしてその上で第九条の改正だ」と言っているのです。前回失敗しましたから必死でやってくるでしょう。これに石原さんと橋下さんが呼応すると思います。集団的自衛権に関して言うと結構賛成する党が多い可能性があります。「国家安全保障基本法」で集団的自衛権を行使できるようにするのが自民党の狙いだと言いましたが、嘉田さんの党も「安全保障基本法」をつくると言っています。そして自衛隊の国連派遣ができるようにすると言っています。今は脱原発で一緒にやっている仲間ですが、そして宇都宮さんを当選させるために手を結んでいますが、残念なことに安保問題ではそういう政策を掲げているということを報告しないわけにはいきません。
 しかし、そういうところを乗り切って、憲法は「憲法のネットワーク」をつくって、これから運動をやっていく必要があるのだと思います。批判してやっつけるのは簡単ですけれども、どうやって仲間を増やすかということもまた、市民運動にとっては大切なことです。九条の会はそうやってつくられてきましたから、そこは大事にしたいと思います。
 そういうことが、今日のみなさんの総会以降、大きな課題として登場してきているように思います。