16号 2008年4月発行

〈1面〉
九条のある「日本ってちょっとかっこいい」 
   

                                大日向 純夫(早稲田大学教授)

先日、高校で日本史を教えている知り合いの教員から、高校生が国家をどうみているのかを考えた論文を送ってもらいました。そのなかで、日中戦争の時の日本軍の加害について討論した際の、生徒の発言が紹介されていました。要約すると、つぎのようなものです。
 日本は戦後六〇年間、戦争をしてこなかった。自衛隊があり、アメリカ軍がいたけれど、日本の軍隊が海外を侵略する戦争はしてこなかった。これを日本が続け、世界に広げていけば、戦争はなくなるんじゃないか。もしかしたら、戦争のない新しい人類の歴史はもう始まっていて、その起点が日本ってことなんじゃないか。「なんか、そう思うと、日本ってちょっとかっこいいって気がしませんか。」
私は、この高校生の「戦争のない新しい人類の歴史」の出発点に日本がいるという発想、「日本ってちょっとかっこいい」という感覚がとても気に入りました。
読売新聞社が三月に実施した世論調査では、15年ぶりに憲法改正反対(43.1%)が改正賛成(42.5%)を上回りました。この調査で改正しない方がよいという人が一番多くあげている理由は、「世界に誇る平和憲法だから」です。
 五月はじめ、幕張メッセで開催される「九条世界会議」のキャッチフレーズは、「世界は九条をえらび始めた」です。
 日本から世界に向けて発信していく。そうしたスケールの大きな取り組みが、アメリカに追随し、右顧左眄をくり返している日本政府の惨めな姿を克服して、世界の信頼と共感を獲得する道だと思わずにはいられません。
 「日本ってかっこいい」−そうした自信のよりどころこそ、憲法9条です。それは、多くの人びと(特に若者たち)の心をとらえていくに違いありません。
  守る九条から、使う九条へ、広げる九条へ。「戦争のない新しい人類の歴史」を切り開こうではありませんか。(ねりま九条の会呼びかけ人)

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         4.13 講演と音楽の夕べ
       あなたは憲法を使っていますか?

          講演 伊藤千尋さん

4月13日(日)光が丘区民センタ-でねりま9条の会主催「講演と音楽の夕べ」が開かれた。呼びかけ人の一人である大日方純夫さん(早大教授)の挨拶で始まり、風弦トリオ空(十弦ギタ- 小川和隆/尺八 戸山藍山/ケ-ナ 八木倫明)のすばらしい演奏で幕を開けました。講演は、伊藤千尋さん(朝日新聞特派員)が、1時間半にわたって、自分の特派員の経験を踏まえながら、憲法の必要性を説き、それに加えて「世界は、いまこそ憲法9条は宝だと求めているのです。あなたは憲法をつかっていますか」と皆に問いかけました。以下、伊藤千尋さんの講演「あなたは憲法を使っていますか」の主旨です。

アフリカ沖の島の「憲法9条の碑」

スペインから何十キロという沖合い、大西洋にぽつんと浮かぶ島。それが、カナリア諸島。飛行機を降りて、まっすぐな道を中心街に入っていくと広場がある。真っ青な光の下、子どもたちが元気よく遊んでいる。そこの広場の名前が「ヒロシマ・ナガサキ広場」。そこの中央に真っ白いタイルに青い絵の具で、スペイン語で「日本の憲法9条」が鮮やかに書かれてある。かって、市長が高速道路の計画があり、そこに空き地ができた。広場にしよう、それならば、平和を考える広場にしようと、すぐ議会に提案、すると「平和なら、ヒロシマ・ナガサキ」「憲法9条も碑にしよう」という事になり、町のシンボルとなった。
 こうした話は、世界を取材しているとあちこちで見受けられる。ボリビアのモラレス大統領が来日したときに、当時の安部首相に「今、憲法を新しく直そうとしている。その見本は、日本国憲法だ。是非憲法9条を取り入れたい」と語っている。
 ベネズエラでは、若い母親が露店で憲法の本を売っていた。「どうして」と聞くと「憲法を知らないでどうやって生きていくのか」と不思議な顔をされました。憲法は、飾っているわけではない。「使っている」のである。ここが大きな違いではないだろうか。
 かって、南米チリでピノチェト独裁政権が17年間続きました。その取材のとき、売店で禁止本である「軍政打倒」という雑誌を売っていた。通報されたらすぐ引っ込めるのであるが、そこの編集者は「チリの憲法には表現・印刷の自由があると書いてある。だから出版するのだ」と語っていた。それでも、当時の軍事政権は、つぎつぎと出版人を監獄に入れた。 
 また、タクシーに乗っても、露店のおばちゃんもベ-ト-ヴェンの「第9」を口ずさんでいる。クラッシック音楽が好きな国民なのだな、と感心していると、これは、「平和の歌で、抵抗の歌なので、賛成するものは、どこでも、大きくても、小さくても口ずさむのだ」という声が返ってきた。夜、ホテルに帰りのんびりしていると、外出禁止の9時になると、どこからともなく音が聞こえてくる。耳を澄ますと「カンカン、チンチン」といった鍋のふたをたたく音だ。これも、主婦が思いついた行動で、政府に対する抗議を、身近な所から、自分でできる所からあらわそうといった事という。憲法がまさに身近な所にあった。

テロ直後アメリカは変わった

 アメリカ・ロスアンゼルスの特派員になり、赴任したのが02年9月1日。あの「9・11」の直前だった。あたふたしている間に、以前のアメリカが、全く変わってしまって、国旗を出さないのが非国民、「反テロ愛国法」によって市民の電話を盗聴するのは自由と、日本でも考えられない 「アメリカの自由」がまかり通ってしまった。そのなかで、「戦争をする権限を大統領に一任する」という法案が、議会に提出された。しかし、唯一その法案に抵抗した議員がいた。バーバラ・リーさんというごく普通の小さい黒人の民主党議員だった。その日から、アメリカ中から非難の声が殺到して「アメリカから出て行け」「非国民」と集中砲火を浴びたという。でも。バーバラさんは、「自分は何故、反対票を入れたのか」と人びとに訴えた。その根元にあったたのは、ベトナム戦争のときは、どうだったのかとアメリカ憲法を何度も読み直した。憲法を読めば、自分がしていることが、間違っていないと確信した。次の選挙で、バーバラさんは80%の支持を得て当選した。
 息子をイラク戦争で亡くしたシーハンさんは、夏休みでテキサスの牧場で休暇を取っているブッシュ大統領に「わたしの息子は何のために死んだんですか。答える義務がある」と訴えた。そのときは、むなしく答えが無かったが、その声が、その後のワシントンでの10万人の座り込み行動となって花開いた。自分で気がついたこと、自分でできること、それが、「憲法を生かすことであり、世の中を変えていった」ことを実感した。

もうひとつの平和憲法・中米のコスタリカ

 日本の北海道と同じくらいの大きさで、人口400万人の国が中南米にある。日本についで、世界で二番目に平和憲法を持った国で軍隊を持たない国。それが、コスタリカ。そのコスタリカで、大学生が憲法違反だとして大統領を訴えた。その理由は、イラク戦争が勃発したとき、テロには反対だと表明したが、それが、アメリカ政府のホ-ムペ-ジに日本と同列にイラク侵略賛成国家として名前が連ねてあった。それが、コスタリカ憲法に反するということであった。1年後、全面勝利した。判決では、平和憲法を持っている国が、他国を侵略する事を認めるわけにはいかないとして、アメリカ政府にホ-ムペ-ジからの削除を求め、それがなされた。
 大学生だけではない。小学生でも違憲で国を訴えた事がある。小学校二年生の男の子がサッカ-ボ-ルをしていて、校庭の傍の川にボールが落ちて流された。「柵がないからボールが流されたのだ」とその子は訴えた。政府は訴えを聞き入れて柵をつけた。どうしてそういうことができるのかというと、「人は誰でも愛される権利がある」「愛されていないと思ったら何かが悪い」それだけを小学校の授業で習ったのである。では、どうして小学生でも訴えを起こす事ができるのかというと、この国では名前と連絡先と理由を告げれば、どこでも訴えを受けてくれる。もちろん費用は無料。憲法は市民の法律。「憲法を使ってくれ」と政府は進めており、皆で法律を使って、市民が仕組みを作っていく。それが、憲法の精神であると皆は思っている。
 また、1987年、アリアス大統領はノーベル平和賞をもらったが、これは隣国三国の内戦を終わらせた功績による。その元になったのが、コスタリカ憲法。自分の国だけでなく「平和を輸出する。それで初めて平和の国と認められる」という信条があるからである。今では、国連平和大学があり、ニカラグアから来た100万人の難民を受け入れ、子どもの義務教育を無料で受けさせている。年間30%だった軍事費の予算をすべて削って、「戦車の数だけ学校をつくろう」「兵士の数だけ教師を作ろう」といって教育費に回し、識字率99.9%にまで引き上げてきた歴史を持っているからだ。民主主義を生かし、自分で物事を考えさせる。こうした基本的なことを教育の柱にしており、それが、憲法を生かすことにつながっている。

“活憲法“ 憲法を活かし、広めよう

 こうして各国を回っていると、憲法が、市民の中に根付いていることに気がつく。モノを言わない、行動しない、あきらめる、といったことが、いかに社会を、自分を悪くしてきたかわかる。憲法に依拠し、確信を持ったときに周りを変える事ができる。200年前、哲学者カントが「永遠なる平和のために」という著書の中で、四つの事をあげている。ひとつは、すべての国の政府は、憲法に軍隊を廃止すると入れる。ひとつは侵略戦争の放棄を入れる。ひとつは、民主化を進める。ひとつは、問題が起こったら、話し合う、調停する、の四つである。今でも生きるではないか。世界で、平和憲法を持っているのは、日本とコスタリカの二国だけだ。もっともっと日本人は誇りを持とうではないか。自信を持って主張する。自分ができることからはじめる。一歩から変えていこう。憲法を守るだけでなく、自分たちのものとして「活かし」ていこう。

 

おしらせ             

世界は9条をえらび始めた  

                   2008・5/4・5・6日 
                   幕張メッセ 国際会議場にて開催

9条世界会議に参加しましょう

今、日本の憲法9条が世界から注目を集めています。「武力によらない平和」という9条の考え方を世界共通のものにしたいと、世界の人々が幕張メッセで語り合います。5月4日 全体会 「9条を考える」 マイレッド・マグワイア・雨宮処凛・高遠奈穂子・ベアテ・Sゴードン他  音楽:市民と弁護士が歌う第九交響曲・UA
加藤登紀子 原田真二 FUNKISTなど
5日分科会 「9条を生かす」  シンポジウム1〜6  品川正治・香山リカ・伊藤真他
アジア太平洋フォーラム 韓国・中国・香港・台湾・モンゴル・フィリッピン・太平洋から20名 など

5月3日 憲法記念日練馬行動

ピースウォーク:大泉学園駅から練馬駅南口広場まで、西武池袋線沿いをパレードし、練馬集会に合流しま     す。(大泉9条の会の欄を参照してください)
練馬集会:午前10時30分から11時30分まで、練馬駅南口広場にて3分間リレートークを行います。     太鼓、音楽演奏もあります。
     各自、横断幕、プラカード、ゼッケンなどを持ち寄って盛り上げましょう。
     終了後、日比谷公会堂で行われる憲法記念講演会と銀座パレードに参加します。

5月2日 9条世界会議に呼応して山手線各駅から国会へパレード

    9条世界会議に向けて、広島、青森、秋田からの行進団が4月29日東京に入ります。これに呼応    して、 5月2日池袋駅東口10時30分出発で国会に向けてパレードを行います。

 

         地域九条の会のお知らせ

 下石神井九条の会  6月29日(日)1時半〜3時半 下石神井地区区民館会議室
          下石神井九条の会 総会 平和を育てる大泉九条の会 5月3日(憲法記念日) 
   ピースウォーク  8:55大泉学園南口集合 9:00出発  9:30石神井公園駅南口  
            10:00高野台駅南口 10:25富士見台駅南口 10:35中村橋駅前交番 
   10:55練馬駅南口着  問い合せ:町田(3923)0915  
   第6回ピースシアターin大泉「軍隊をすてた国」上映  早乙女勝元企画・早乙女愛制作 
           5月17日 午後2時上映  勤労福祉会館中会議室  資料代500円 
                       問い合せ:小林(3923)3775 
  武蔵関九条の会  5月17日(土) 午後1時から 関区民センター展示室にて

 武蔵関九条の会  5月17日(土) 午後1時から 関区民センター展示室にて
         「戦争を語る会」 会費なし 自由参加