21号 2009年2月発行
〈1面〉
「地方自治の本旨」のこと
小原隆治(成蹊大学法学部教授)
憲法九条の話ではない。それよりだいぶ後ろの九二条の話である。ともに戦後憲法の制定によって、まったく新しく盛り込まれた条文のよしみでもあるのでお許し願いたい。九二条の全文は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」である。そのなかでも「地方自治の本旨」、英語でいうとthe principle of local autonomyというのがどうにもわかりにくい(占領改革当時、法令はすべて日英両語で「官報」に載り公布された)。この一〜二年ほど、関連文献を読んだり論文を書いたりするうちに、おおよそ次のようなところまでは自分なりにわかってきた。㈠九二条は日本側関係者のイニシャチブで誕生したものだが、それもGHQ側関係者の意向を十分斟酌した上でのことだった。㈡英語のlocal autonomyという言葉はいま聞くと奇異に思えるが、当時はそれなりの頻度でアメリカ社会に流通していた。㈢その言葉の意味は、いまも普通に使われるhome ruleとほぼ同じである。ホームルールというのは「住民が他者の干渉を排し、自分たちで決めた政治システムで、自分たちで決めた範囲の仕事を自主的に行うべし」とする自治体政治についての基本的な考え方をあらわしている。九二条は「地方自治の本旨」の意味が曖昧なので書きあらためた方がいいのではないか。その際、住民に身近な仕事は身近な自治体が担うべしとする「近接性の原理」、身近な自治体でできない仕事はより大きな自治体や国が担うべしとする「補完性の原理」などを取り入れてはどうか。そんな議論もある。だが、待てよと思う。
「地方自治の本旨」にホームルールの思想を読み取るなら、それはいまなお、いや分権と自治の時代のいまだからこそ、みずみずしい響きをもっていると言えるのではないか。その理念を生かした法令や条例づくりこそ求められているものなのではないか。九二条をめぐる疑問を解きながら、最近、そうしたことを考えている。 (ねりま九条の会呼びかけ人)
〈2面3面〉
ねりま九条の会学習会報告
はじめに今非常に大きな変化が起きている。100年に一度などといわれる経済危機だが、実はアメリカよりもはるかに日本の方が影響が大きかったということがはっきりした。日本は国民の消費を増やさず、特に自動車や電気製品を中心に輸出することによって景気を支えてきた。この20年間、労働者に支払われる分配率は変わっていない、むしろ下がっている。急速に上がったのは株主の配当とか経営者に対する役員報酬で、20倍30倍に上がっている。労働分配率が下がっている大きな要因は、非正規雇用の増加で、派遣法ができた1980年代の半ば頃からどんどん増えて、今は3人に1人が非正規雇用、若い人の率はもっと多く、女性はさらに多い。
そういう経済のあり方が、今の大破綻の大きな原因だと思う。それに日本の低金利の“円”が世界中に拡がって、それがさまざまなバブルを引き起こしていたという構造もだんだん明らかになってきている。「オバマ・フィーバー」就任式に200万人の人出
昨年11月4日にオバマが新大統領に選ばれ、世界中がオバマを歓迎した。アメリカは今興奮状態になっている。雑誌も「オバマ・オバマ」。日本の本屋さんでも「オバマ本」が棚を占領している。アメリカではCDの演説集が40万部売れたという。これはブッシュ政権8年のさまざまな鬱屈と、それを「大きくチェンジした」というアメリカの幸福感、同時に合衆国建国以来の初めての黒人大統領の誕生で、米国が長年苦しんできた「人種差別」を「乗り越えた」という「幸福感」もあったのではなかろうかと思う。
もう一つオバマ氏のすごいところは「言葉」の力。言葉によって人を励ます、言葉によって人を元気づける、動かす。ある意味で政治家としては当たり前なのだが…。彼は非常にクールで冷静で、攻撃を受けたり、窮地に立たされても興奮して反論したりということはない。常に理性的だ。こういう人を生み出すアメリカの底力をあらためて感じた。
「オバマ就任演説」から
分裂・対立・敵視から多様性・統合・寛容へ
ブッシュ政権は「敵か味方か」と常に二つに分けるという図式で行動した。単独行動主義で、ならずもの国家には先制核攻撃もありうるとして、国際法や国連を軽視、グアンタナモとかイラクのアブグレイルの刑務所に見るように、人権や法の支配も非常に軽視した。また富める者を優遇する経済政策をとり、国民皆保険などは考えもしない。
チェイニィー副大統領の関係している企業には、軍隊の民営化や軍需用品などといったもので大儲けをさせる。そういう政権だった。
オバマ氏の発想はその逆で、「統一しよう。いっしょにやろう」だ。共和党のアメリカでもなく、民主党のアメリカでもない、ユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカである。
白人、黒人、ヒスパニック、エイジアン、ネイティブ・アメリカンからなる国家。キリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒、ヒンズー教徒、そして無宗教着からなる国家。差別や貧富の差のない国家をめざすという。
それらを統合するのは、米国建国の理念(すべての人は平等かつ自由で幸福を最大限に追求する機会に値するという、神から与えられた約束)によると言う。
オバマは国連も人権も大切にしようとしている。彼が最初に取り上げたのはグアンタナモの1年以内の閉鎖である。
アメリカのジャーナリズムは、オバマ出現はブッシュ時代の終焉だけでなく、40年にわたる米国政治における「共和党優位の政治」の転換ではないか、レーガン、あるいはニクソン以来の保守時代からリベラル時代への転換ではないかという表現をしている。
しかし、残念ながらオバマは九条の会のメンバーではない。決して平和主義者ではない。戦争への反省もないようだ。アメリカは世界最大の軍事大国であり、最大の核保有国である。そしてそれがアメリカのアイデンティティなのだ。
「九条を持つ日本」の課題
■ナショナリズムを捨て日中韓の連携を
日本には「冷戦」時代への郷愁があり、中国、北朝鮮、韓国への対抗意織があるが、寺島實郎氏は日本のナショナリズムは、世界に全く通じないことを、安全な便所の中で鳴きたてる「便所コオロギ」に過ぎないと言う。日本はもっと開放的にならなければならない。アジアの国々は戦争を反省しない日本を信用していない。しかし、それはさておき、いったんグローバルな危機が来れば連携せざるをえないということで日中韓会談が行われた。グローバルな危機の中では、どの国も1人では立っていられないのだ。
■思考停止的な日米同盟依存からの脱却
同盟は変質を始めている。ブッシュ時代、イラク侵攻に対してフランス、ドイツはアメリカを批判し離脱した。そのため「有志国連合」を結成したが、これはNATOでも日米同盟でもない。利害連合に過ぎない。 はっきりと「冷戦」は終焉した。したがって同盟も変質したのだ。「もう日米同盟はいらない」という運動があってもいいのではないか。
■日本の中に多様性、開放性を生み出す
日本にいろいろな人に入ってきてもらい、能力を発揮してもらうといい。そのためには、移民も含め、在日や外国人労働者が、日本人と同等な待遇、同等の機会を持てるようにしなければならない。そうしないと日本はほんとうに衰退するだろう。
■日本側から米国に提言をする
アフガン、イラク、あるいは北朝鮮問題などに対しても、日本側から米国に「こうしたい」と提言すべきではないか。常にアメリカが日本に「要請」し、日本政府は国民をごまかしつつ、それを受け入れるというあり方はもう成り立たない。
・核拡散問題、核軍縮問題について日本がイニシャティヴを取り、「東アジアを非核地帯にすることで北朝鮮の核を放棄させよう」と提言する。
・沖縄の基地を縮小、撤去するために、アジア全体を考え、「東アジア安全保障システムの構築」などを考え、提起する。
今、世界は重要な転換点にきている。
我々は1人の市民であって政治家ではないけれど、無力感に陥ることはない。九条の精神に基づいて何ができるかを考え、我々の側から提言していく必要があるのではないか。
〈4面〉
練馬区内九条の会の活動紹介
09年「イマジンコンサート」を開催します
日時 11月7日(土)午後と夜会場 東本願寺「真宗会館」(谷原・目白通りガスタンク裏) 出演者と実行委員を募集します
●音楽を期本にしていますがジャンルは限定しません
●演奏時間1人(1団体)15分
●憲法九条を守ることに賛同
●出演参加費は1人500円
●出演者も実行委員になっていただきます
●申し込み締め切り 3月31日
お問い合わせ 03(3594)1326遠藤光ケ丘さわやか九条の会
①東京大空襲を語る会
日時 3月14日(土)18:00〜21:00
会場 光ケ丘区民センター5F
DVD上映「光ケ丘に飛行場があった」
②生活保護学習会 NO2
日時 3月25日 18:30〜20:30
会場 光ケ丘区民センター5F
連絡先 03(3976)9220小山「9条世界会議」上映会
日時 3月29日(日)1:30 〜 4:30
場所 小竹町集会所 集会室
参加費 無料
主催 新日本婦人の会 練馬支部
協力 東ねりま九条の会
連絡先 03(3955)7526 須田
畑田重男さん(国際政治学者)“憲法と平和への思いを語る”つどい)
軍事力に勝る平和力を!
日時 4月5日(日)13:00 〜 17:00場所 練馬区役所 19階 会議室
参加費 500円(お茶・お菓子付き)
主催 おりづる九条の会
連絡先 03(3999)2407 星 とくえ
映画「いのちの山河〜日本の青空Ⅱ〜」撮影開始
岩手県の沢内村(現西和賀町)の“生命村長”の深澤まさ雄さんが59歳で亡くなられてから40年以上がたちましたが、沢内の生命尊重行政は、ますます輝いています。この実話が「いのちの山河」(監督・大澤豊)として、今製作されています。長谷川初範(村長)、とよた真帆(村長の妻)、加藤剛(村長の父)、小林綾子(フリージャーナリスト)のキャストも決定しました。皆様、乞うご期待。