23号 2009年6月発行

 

練馬区の医療状況と憲法運動

                            大泉生協病院院長 一志 毅(いっし つよし)

  二一世紀初頭より続く医療構造改革は社会保障費の抑制を中心としてすすめられ、医療制度への影響もかつてなく大きなものとなっています。「医療崩壊」とも言われる状況が全国に蔓延するとともに、練馬区においても深刻な医療過疎状況を引き起こしています。救急医療体制の充実が求められるところ、昨年は三つの医療機関が救急体制から離脱し、練馬区の医療過疎状況が拡大しました。二四時間、三六五日にわたり求められる小児科や産婦人科においても深刻です。救急受け入れ医療機関を探し、一〇か所目に当院に来院したという緊急状況も稀ではありません。これは、都内他区の三分の一という病床数をはじめ、区民一〇万人当たり病院数は二、三か所、救急病院数は一、一か所、医師数は一二七人という貧困な現状です。また、練馬区民の国保料滞納者も約三万世帯、資格証の発行も五千世帯を超えています。さらに昨年四月から始まった後期高齢者医療制度の運用にあたっても、練馬区は厚労省の施策を前進させる姿勢は皆無という対応で、高齢者からの保険料の強制徴収や医療内容の制限など弱者切り捨て行政が拡大しています。
 私たち医療生協運動は、「平和をまもる、健康をつくる」をスローガンに地域の生協組合員と医療専門家である職員との協同で「地域まるごと健康づくり」を日常的にすすめています。組合員六〇〇人でスタートした練馬の医療生協運動も六年前の大泉生協病院開設時には六〇〇〇人、現在は一万三〇〇〇人を超える発展をしてきました。その理念の根源は、憲法九条の平和主義、一三条の個人の尊厳、二五条の生存権に根差した暮らしや生活者の追及・実現にあります。
 健康に暮らし続けたいという生活者としての普遍的な願いは、昨年、練馬区が実施した区民の医療要求アンケートでも、夜間・休日の救急対応を含め、「いざという時の医療体制の充実」を求める声が上位にあるように、多くの区民、諸団体と協力し実現すべき緊急の課題と考えています。
   (ねりま九条の会呼びかけ人)

     「派遣切り」「非正規切り」からみえてくるもの いま、貧困と平和を考える

                                                          添 誠さん(首都圏青年ユニオン書記長・反貧困たすけあいネットワーク事務局長) 

 

派遣労働者の生活
派遣村にきている人たちはみんな数百円しかお金を持っていない。50円しかない人もいた。しかしそれは、彼らが怠け者で貯金をしていなかったわけではない。ある程度のお金は持っていたが、家を失った状態で仕事を探そうと放浪しているうちにお金がなくなってしまったのだ。最後の最後まで自分で何とかしようと頑張った結果、もうネットカフェにも泊まれない状態になってしまった人たちなのだ。
 派遣会社はお金がない人を大量に集めるために寮を持っている。派遣労働者は、初期費用がかからずすぐに住むことができ、すぐに働くことができるので寮に入り、そこから工場に働きに行く。夏は40度にもなる劣悪な労働条件のもとで一日中働いて、月収は15〜6万円程度。寮にはさまざまな電気製品がついている。入居してすぐに住むことができるように布団もあるがそれらは全てレンタルで、給料から天引きされる。社会保険料や所得税も天引きされるから手取りは10万円を切ってしまう。

使い勝手のいい派遣労働者
 日本の製造業は、在庫が貯まらないように、毎月の生産目標を立てて、生産量を調整している。生産量を増やすときには大量に人を雇う。生産量を落とすときには、労働者の首を切るか休ませることになるが、これには法的な制約もあり、企業にとってはリスクやロスを抱えることになる。リスクやロスを抱え込まない方法として派遣がある。
 派遣会社は、企業から「来月から人員を減らしてください」と言われると、派遣労働者を生産量をアップしている別の工場に回す。そうやって静岡で切られた人が栃木に飛ばされ、栃木で切られた人が大分へというように、日本中をぐるぐる回されていたのが派遣社員の実情なのだ。生産を落としている企業もあれば、生産量を伸ばしていて人員を必要としている企業もあるので、そうやって回して行く。
 労働者派遣法ができたのは1985年。その後、1999年に大幅な規制緩和があり、2003年の法改正により2004年からは製造業部門にも派遣という働き方が解禁された。政府のお墨付きを得た大企業は、賃金も安く使い勝手のいい便利な存在である派遣社員を大量に増やしていった。

企業には充分な内部留保がある!
 去年の11月以降に起った派遣切りは、金融危機の影響もあって、企業が一斉に生産をダウンした結果によるもので、回される先がなくなって職を失い、住居も失ってホームレス化した人が大量につくられてしまった。しかし、さまざまなところが報道しているように、日本の大企業はその雇用を維持できる充分な内部留保を抱えており、このような大量な派遣切りを行う必要はなかったのである。企業の責任は非常に大きい。

手持ち金10万円では職も探せない
 派遣の人は、好んで派遣を選んでいるわけではない。お金がなくなってくると仕事は選べないのだ。アパートを借りるには礼金・敷金が必要となり、それを払うと次の月までの生活費がなくなる。したがって月給制の仕事はできない。
 ネットカフェ難民と言われる人々がいる。さまざまな事情でお金がなくなって、部屋代が払えなくなり、ネットカフェに寝泊まりしている人たちがいる。彼らの多くが日雇いの仕事についている。日雇いの仕事は、月収12〜3万円にしかならない。なぜなら毎日仕事を見つけられるとは限らないからだ。他の仕事に就きたくても、彼らには住所もお金もないから転職はできない。手持ちのお金が1000円以下になると、日払いの仕事に就くしかなくなる。お金がなくなるともっとも労働条件が悪くて、もっとも賃金が安くて、もっとも人権が守られない労働現場に入らざるを得ない構造になっている。
 貧困は拡大している。ワーキングプアの問題は単に賃金が低いだけではなく、労働者としての権利や人間としての権利が奪われていくところにある。
 それが今起こっている貧困の実態でなのである。

反貧困運動を!
 今日本では、非正規だけでなく、正社員の間にも労働基準法以下の無法な労働環境が拡がっている。首都圏青年ユニオンはそういう企業と団体交渉をして、組合員の利益を守りながら正していく運動をしている。
 私たちは新しく組合に入ってきた人に、自分は何の権利を会社に対して主張しているのかを自覚して、他人にも権利を伝えられるようになってもらうために、団体交渉の申し入れ書は自分で書いてもらっている。団体交渉はメーリングリストで350人の組合員に参加を呼びかけてみんなで行く。経済的な負担を減らすために集合やミーティングは路上で行い、交通費は必ず全額参加者に支払うようにしている。こうしていくつもの問題を解決してきているし、今もたたかっている。
 労働者派遣法の抜本改正を求める超党派のネットワークも拡がって来ている。みなさんもぜひ、違法な働かせ方とたたかう青年を支援してほしい。

貧困の拡がりは民主主義の危機
 今日本では約10%が貧困層だといわれている。彼らは貧しいのは自分のせいであると自分を責め、将来に絶望し、生きる力を失っている。貧困はすべてをあきらめる人間をつくりだし、社会や政治への関心を失わせる。このような貧困の拡がりは権力へのチェック機能の低下につながり、民主政治を危うくする。それこそが平和の危機ではないだろうか。
 「自己責任論」は弱い者いじめでしかない。将来に対する絶望と社会に対する不信の拡大ではなく、安心して頼れる社会をつくって行こうではないか!


現場からの報告

「名ばかり店長」  清水 文美さん(ショップ99の名ばかり店長)

入社4ヶ月で店長になり、全ての管理を任されるようになった。コンビニは24時間開店しているので、店長は徹夜作業の連続。4日間で80時間も働くような日々が続いたが、残業代はなく、給料はそれ以前より8万円も減った。ショップ99の離職率は95%に及ぶが、会社は一向に改善しようとせず「人間の自転車操業」を繰り返している。その中で鬱病にかかり、ユニオンに入ってたたかっている。                      

官制ワーキングプアの増大   三澤 昌樹さん(練馬区職労副委員長)

練馬区職員の構造は、正規職員が4700人、非常勤職員が1719人、臨時(アルバイト)が500人ぐらい。区職員の半分近くが非常勤で、1年雇用で昇給はなく何年働いても同じ給料。しかも低賃金。にもかかわらず、図書館を例に取ると、正職員が司書の資格を持つ非常勤に仕事を教わる状況がある。区の民間委託化が進む中、指定管理業者は、3年ごとの入札で安い金額を提示しないと指定が取れない恐れがあり、労働者の賃金の更なる低下が心配されている。

増える高校中退者   片山 むぎほさん(元都立定時制高校教師)

いま、定時制高校の担任教師は授業料の取り立て業の感がある。親達は仕事に次ぐ仕事で、授業料免除の手続きさえできない状況にあり、退学者が後を絶たない。アリとキリギリスに例えられるような「自己責任論」が当たり前になっている中で、子どもたちが切り捨てられている。
 国家のための教育という考え方が普通になり、子どものための学校という考えは薄れ、邪魔な子どもは切り捨てられていく。世論の力で、教育格差や学校格差を解消していけないだろうか。

 

 

活動の報告

笑い、泣き、どきどきした、松谷みよ子「私の憲法9条への思い」のつどい

 

ねりま九条の会呼びかけ人であり、児童文学・民話作家の松谷みよ子さんの戦争体験と九条への思いを、松谷作品のお話、朗読、民話の語り、筝と笙の演奏で聞く集いを、5月30日、関区民ホールで開催しました。定員を超え230人、特に若いお母さんたちの参加が目立ちました。「ぼうさまになったからす」の話を聴きカラスを見直した。松谷さんから直接聞けて、戦争はかっこよいものではない。松谷さんの楽しく愉快な人柄に親しみを感じた。朗読は心にしみ、山形弁の民話は楽しく、筝と笙の演奏は初めてで、平和や命の大切さが伝わった、九条の会はもっと大きな会場でこうした文化的な催しを行ったら良いなど、27通の感想が寄せられました。この会はねりま九条の会と、武蔵関九条の会、下石神井九条の会、石神井台九条の会、上石神井九条の会準備会、桜の辻九条の会が共同で準備し、5回に及ぶ実行委員会、上井草、上石神井、武蔵関駅頭宣伝を始め、武蔵関公園、保育園、児童館、図書館、福祉園での宣伝、申し入れなど、特に若いお母さんを対象に宣伝してきました。地域文庫、土建練馬、練馬区職労も積極的に取り組まれ、チケットの前売りを2週間前に抑制する盛況でした。
 しかし前売り券を購入された方が、事務局のミスで入場できない事態が生じご迷惑をおかけしましたことに、心からお詫び申し上げます。原因を究明し二度とこのようなことが起きぬようにしてまいります。


                

書籍の紹介

「派遣切り」や貧困の問題、ユニオンの活動などをもっと詳しく知りたい方のためにお勧めします。 

                ○『労働、社会保障政策の転換を  反貧困への提言』岩波ブックレット 2009年
                ○ 湯浅誠・河添誠編書『「生きづらさ」の臨界 溜めのある社会へ』旬報社 2008年
                ○ 年越し派遣村実行委員会編『派遣村 国を動かした6日間』毎日新聞社 2009年
                ○『経済』09年3月号「貧困化する若者とユニオンの力「派遣切り」と立ち向かうために」
                ○ 阿部 彩 『子どもの貧困』岩波書店2009年

 

7月12日は投票日!

  河添さんの講演の感想に、「青年層の深刻な状況がよくわかった。」「絶望と不信の拡大を許しては大変なことになる。」「社会に目を向けるエネルギーを失う人たちを大量に生み出していることに危機感を持った。」「この社会を変えるために私にできることをしていきたい。」という感想が何通も寄せられました。
 それは、参加された方の共通の思いだったのではないでしょうか。では、あなたは何をしますか?
ユニオンの協力員になるのも素晴らしいですね。
でも、まずは、目の前の選挙で意思表示をするところから始めませんか。7月12日には、憲法9条や25条を守る人に投票しましょう。

 

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