「なにこれ!日米地位協定とは」一回目

              講師  稲 正樹さん

                    

はじめに  日米地位協定とは何か

【推薦図書】
・布施祐仁『日米密約 裁かれない米兵犯罪』岩波書店、2010年。 ・吉田敏浩『密約日米地位協定と米兵犯罪』毎日新聞社、2010年。 ・新原昭治『「日米密約」と人民のたたかい―米解禁文書から見る安保体制の裏側』新日本出版社、 2011年。
・前泊博盛(編著)『本当は憲法より大切な日米地位協定入門』創元社、2013年。 ・吉田敏浩『「日米合同員会」の研究』創元社、2016年。 ・明田川融『日米地位協定ーその歴史と現在』みすず書房、2017年。 ・ジョン・ミッチェル著、阿部小涼訳『追跡 日米地位協定と基地公害-「太平洋のゴミ捨て場」と 呼ばれて』岩波書店、2018年。 ・山本章子『日米地位協定ー在日米軍と「同盟」の70年』中公新書、2019年。 ・「しんぶん赤旗」政治部安保・外交班『検証・日米地位協定-主権を取り戻すために』日本共産党 中央委員会出版局、2019年。 ・沖縄県 地位協定ポータルサイト(日米地位協定関係) https://www.pref.okinawa.jp/site/chijiko/ kichitai/sofa/jp-us.html ・機密文書「地位協定の考え方」琉球新報2004年7月~8月 http://eritokyo.jp/independent/nagano- pref/kimitsubunsho-l01.html


〈戦後日本〉のパンドラの箱

「アメリカが占領期(1945.9~1952.4)と同じように日本に軍隊を配備し続けるための取り決め」

日米地位協定(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力および安全保障条約第6条1に基づく施設及 び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定)US-Japan Status of Forces Agreement SOFA 1960.1.19に署名 1960.6.23に発効「日本における米軍の強大な権益についての取り決め」

一般に日米地位協定は、1960年に日本とアメリカという主権国家どうしが結んだ安全保障条約(日米 安保条約)の細則だと考えられているが、そうではない。日米地位協定の本質は、そうした主権国家 どうしが結んだ対等条約の細則という側面にはなく、1945年、アジア・太平洋戦争の勝利によって米 軍が日本国内に獲得した巨大な権益が、戦後75年経ったいまでも維持されている点にある。

日米地位協定は、1952年2月28日に締結され、同年4月28日に旧安保条約と同時に発効した「日米行 政協定」を前身としている。

日米地位協定を結ぶに当たってアメリカが重視した目的

1日本の全土基地化=日本国内のどの場所でも米軍基地にできるということ、日本全土を米軍に とっての「潜在的基地」(potential base)にするということ。

2在日米軍基地の自由使用=占領期と同じように、日本の法律に拘束されず自由に日本国内の基地 を使用できること。

日本の独立(占領終結)に際してアメリカ側が最大の目的としたのは、ジョン・フォスター・ダレス の言葉=「我々が望む数の兵力を、[日本国内の]望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保 すること」だった。1951年1月末~2月中旬にこの条件を日本側に認めさせた。 このとき、日本国民には絶対知られたくない基地や米軍についての具体的な取り決めは、秘密の了 解(private understanding)として合意することも決められた。それこそが、「日米地位協定」の前身 である「日米行政協定」だった。その「日米行政協定」と現在の「日米地位協定」は、本質的には何も変わっていない。

一見条文上は改定時に米軍側が譲歩したようにもみえるが、重要な権利について は付属文書や非公開の密約という形できちんと担保されている。

ウラとオモテののストーリー

オモテ側(建前)のストーリー。ウラ側(真実):日本における米軍と米兵は、かつての占領期と 同じく、日本の法律に拘束されずに自由に行動することができる。 <なぜ戦後75年たっても、米軍はまだ日本にいるのか> 敗戦から6年8ヶ月たった1952年4月に、1951年9月に調印したサンフランシスコ講和条約が発効し、 日本は独立を回復する。このとき国民の目から見えないところで、トリックがしかけられていた。 占領が終わり、講和条約が結ばれると、通常、占領軍は撤退していく。講和条約(=平和条約)と は戦争を正式に終了し、平和が回復されたことを宣言するための条約だからだ。もちろん、サンフラ ンシスコ講和条約にも、ポツダム宣言にもそのことは明記されていた。 ・サンフランシスコ講和条約 第6条(a)前半「連合国のすべての占領軍は、この条約の効力発生 の後なるべくすみやかに、且つ、いかなる場合にもその後90日以内に、日本国から撤退しなければな らない。」 ・ポツダム宣言第12項「前記諸目的カ達成セラレ且日本国国民ノ自由ニ表明セル意思ニ従ヒ平和的 傾向ヲ有シ且責任アル政府カ樹立セラルルニ於テハ聯合国ノ占領軍ハ直ニ日本国ヨリ撤収セラルヘ シ」 占領が終われば占領軍が撤退するのは常識。もし占領終了後に条約や協定を結んで外国軍が駐留す るにしても、一度完全に撤退してから、新たに条約や協定を結ぶのが当然。ところが、日本の場合、占 領終結時に占領軍(=米軍)の基地だったところは、すべてそのまま基地として残されることになっ た。GHQは解散したが、26万人(1952年4月)の米兵もそのまま駐留を続けた。いったいなぜ、そん なことが起こったのか。 サンフランシスコ講和条約第6条(a)後半にこう書かれていた。「但し、この規定は、一又は二以 上の連合国を一方とし、日本国を他方として双方の間に締結された若しくは締結される二国間若しく は多数国間の協定に基く、又はその結果としての外国軍隊の日本国の領域における駐とん又は駐留を 妨げるものではない。」

 

米軍は、日本国内のどんな場所でも基地にする権利がある

全土基地方式(全土基地化)=日本国内のどんな場所でも、もし米軍が必要だと言えば、米軍基地 にすることができるという取り決め。完全な属国か植民地以外、そのような条約が結ばれることはあ りえない。どんな国と国との条約でも、協定を結んで他国に軍隊が駐留するときは、場所や基地の名 をはっきりと明記するのが当然。もちろんアメリカも、日本以外の国と結んだ協定ではそうしている。 米軍が使用できる基地は具体的に付属文書のなかに明記。ところが日本の場合だけは、それが明記 (=限定)されておらず、米軍がどうしても必要だと主張したとき、日本側に拒否する権利はない。そ の法的根拠となっているのが、講和条約と同じ1952年4月に発効した旧安保条約と日米行政協定(のち の日米地位協定)。この旧安保条約と、その第3条に基づいて結ばれた日米行政協定によって、「看 板だけは掛け替えられたが、実質的には軍事占領状態が継続した」。これが1952年の日本独立の正体。

2、いつどのようにして結ばれたのか

日米地位協定が結ばれたのは、1960年1月19日にワシントンで。その前身の日米行政協定(日本国と アメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基づく行政協定)は1952年2月28日、東京の外務省庁舎 の中でひっそりと結ばれた。その半年前の1951年9月8日には、サンフランシスコで、講和条約(平和 条約)がオペラハウスで華々しく、旧安保条約が町外れの米軍施設でこっそりと調印されていた。 日米行政協定は、サンフランシスコ講和条約と日米安保条約とともに1952年4月28日に発効。寺崎太 郎の指摘。

戦後体制<サンフランシスコ体制>の三重構造 講和条約-安保条約-行政協定 行政協定>安保条約>講和条約(寺崎太郎)

 旧安保条約の目的は「日本全土を潜在的基地とすること」 

旧安保条約の最大の問題は、米軍の日本駐留のあり方について規定がないこと。アメリカが日米安保条約で実現したかった目的は、日本全土を米軍の「潜在的基地」とすることだった。ダレスの 1951.1.26の発言(get the right to station as many troops in Japan as we want where we want and for as long as we want)通り、アメリカ側は「望む数の兵力を、[日本国内の]望む場所に、望む期間だけ 駐留させる権利」を計画通り獲得。 旧安保条約前文「日本国は、本日連合国との平和条約に署名した。日本国は、武装を解除されてい るので、平和条約の効力発生の時において固有の自衛権を行使する有効な手段をもたない。/無責任な 軍国主義がまだ世界から駆逐されていないので、前記の状態にある日本国には危険がある。よつて、 日本国は平和条約が日本国とアメリカ合衆国の間に効力を生ずるのと同時に効力を生ずべきアメリカ合 衆国との安全保障条約を希望する。(略) これらの権利の行使として、日本国は、その防衛のための暫定措置として、日本国に対する武力攻撃 を阻止するため日本国内及びその附近にアメリカ合衆国がその軍隊を維持することを希望する。 (略)」 旧安保条約第1条「平和条約〔サンフランシスコ講和条約〕及びこの条約〔旧安保条約〕の効力発生 と同時に、アメリカ合衆国の陸軍、空軍及び海軍を日本国内及びその附近に配備する権利を、日本国 は、許与し、アメリカ合衆国は、これを受諾する。この軍隊は、極東における国際の平和と安全の維 持に寄与し、並びに(略)外部からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄与するために使用すること ができる。」 =敗戦後、日本は連合国軍(その実態は米軍)によって占領されていた。しかし平和条約(講和条 約)が結ばれたので、そうした占領状態は終わることになった。ところが日本には自分で国を守る能 力がないので、平和条約が有効になるのと同時に、米軍を日本に配備する権利を、日本側は許可し、 アメリア側はそれを受け入れる。
そのため、具体的なレベルで次のような協定が結ばれた。 日米行政協定 第2条1項「日本国は合衆国に対し、安全保障条約第1条に掲げる目的の遂行に必要な 施設及び区域(=基地、以下基地と言う)の使用を許すことに同意する。」 第3条1項「合衆国は、基地内において、それらの設定、使用、運営、防衛又は管理のため必要な又 は適当な権利、権力及び権能を有する。」
つまり、すべて米軍の思い通りに運用できる。 寛大な講和条約(平和条約)の代償として結ばされた「日本全土の基地化条約」と「在日米軍基地 の自由使用条約」、これが1951年に調印された旧安保条約の正体。

3、日米地位協定の概要

1960年の安保改訂時、関心はもっぱら安保条約の是非に集中し、地位協定の具体的内容については ほとんど検討・審議が行われず、行政協定の不平等・不合理な内容がそのまま現行の地位協定に引き継 がれてしまった。/古い時代の法思想が「化石化」されるという異常な状態が続いてきたのは、政府の 地位協定改定に関する消極的姿勢に起因。

地位協定自体は短い条文だが、ものすごく大きな「治外法権」が米軍に保障されている。このた め、国民の生命、財産、権利が侵害されている。 ○米兵たちは罪を犯しても、ほとんど裁かれることがない。 ○日本の航空法で禁止されている市街地上空での超低空飛行訓練を行っている。 ○日本の領土内にあるにもかかわらず、米軍基地内は環境保護の規定もなく汚し放題。 ○米兵でも当然払わなければならない税金や公共料金を払っていない。 ○「思いやり予算」のように日米地位協定に決められていないことまで、「思いやり」という名で 超法規的なお金が流れる。 多くの密約の存在。密約の裏にさらに裏密約。非占領国でも植民地でもない日本に外国軍(米軍) が駐留する根拠は、「日米安保条約」と「日米地位協定」にある。在日米軍の駐留のあり方を定めた 日米地位協定の特徴は、「いかなる場合にも米軍の権利が優先する、治外法権に基づく不平等協定」 という点にある。

その問題点:
1米軍や米兵が優位に扱われる「法の下の不平等」:1953.10.28に日米合同員会の非公開議事録で、 日本側は事実上、米軍関係者についての裁判権を放棄するという密約が結ばれていた。
2環境保護規定がなく、いくら有害物質を垂れ流しても罰せられない協定の不備など「法の空白」
3米軍の勝手な運用を可能にする「恣意的な適用」
4協定で決められていることも守られない「免法特権」


4、地位協定の内容と問題点・改定提言

☆米同盟国でも例のない全土基地方式(第2条 基地の提供)
第2条のポイント 1)米国は安保条約第6条に基づき、「日本国内の施設・区域」の使用を許される。個々の施設・区 域に関する日米協定を交わす。

2新たな基地を提供、必要ない基地を返還する。 3米側が管理している施設・区域を日本側が一時的に使用できる(二4a)/米側が自衛隊基地や民 間施設などを一時的に使用できる(二4b)。 基地を置く根拠になっているのが日米安保条約第6条と地位協定第2条。2条は日米地位協定の最も 本質的な条文。

地理的制限なし

NATO(北大西洋条約機構)軍地位協定など米国が同盟国とかわしている地位協定の多くは、施 設・区域の提供について規定がない。これに対して日米地位協定は、冒頭から基地の提供(2条)・管 理(3条)・返還(4条)などの基地関連の条文が並んでいる。 しかも、条文には「日本国内の施設・区域」としか書いておらず、地理的な制約を設けていない。こ の点について、外務省が1973年4月に作成した機密文書「日米地位協定の考え方」は、「米側は、わが 国の施政下にある領域内であればどこにでも施設・区域の提供を求める権利が認められている」と記し ている。つまり、米側には、日本国内のどこでも望む場所に基地を置く権利がある。 こうした「全土基地方式」は、米国の同盟国でも類例のない異常なもの。例えばドイツでは、米側 が必要な基地や使用目的について定期的にドイツ政府に申告する形になっており(ボン補足協定48 条)、イタリアや英国では具体的な施設・区域名を示して個別に協定を結ぶ形になっている。

民間地まで利用

地位協定2条は、施設・区域の日米共同使用についても、(1)米軍が管理権を有し、自衛隊など日本側 が一時的に使用する(=二4a基地)(2)米軍が「期間を限って」使用する(=二4b基地)と定義してい る。なお、米軍が排他的に使用する基地は条文に照らして「二1a基地」と呼ばれている。 防衛省の資料によれば、(1)に該当する基地が29存在。空自航空総隊司令部が移転した横田基地な ど、日米の軍事一体化を加速させる要因になっている。 一方、(2)は63基地が該当し、いずれも自衛隊基地の看板がかかっている。日本本土では1973年の大 規模な整理・統合などで米軍専用基地が大きく減る一方、80年代から自衛隊基地の共同使用が急増。 さらに在沖縄海兵隊の県道104号越え実弾射撃訓練や米軍機の訓練移転に伴い、多くの自衛隊基地内に 米軍専用施設が建設されるようになった。現在、自衛隊管理下にあって米軍との共同使用が行われて いる基地は、陸上自衛隊が80箇所、海上自衛隊が14箇所、航空自衛隊が25箇所、計119箇所存在。 築城(福岡県)、新田原(宮崎県)両基地では、米軍普天間基地の「緊急時」の「能力代替」のた めとして、米軍用の弾薬庫や滑走路延長まで狙われている。 日本政府は、第3条第1項の第2文に基づいて、自衛隊基地であっても米軍には完全な使用権が認めら れると解釈している。日本政府のこのような解釈によって、たとえば、自衛隊機の飛行には航空法を準 用した最低安全高度制限がかけられているが、自衛隊基地を出入りする米軍機の飛行には航空法が適 用されず低空飛行が行われるなどの状態が生まれる。そのため、米軍から自衛隊に移管された厚木基 地は、引き続き米軍が使用しているため、実態として基地の運用のあり方は何も変わらなかった。 米軍は「二4b」に基づいて民間の土地も使用できる。2018年10月、種子島空港跡地(鹿児島県)で 初めて、民間地を使用しての日米共同訓練が強行された。日米地位協定を根拠として、文字通り日本全 土が基地になりうる。

民安保村の狙いは二4bを使った「全自衛隊基地の共同使用

「米軍基地返還」➡「全自衛隊基地の共同使用」➡「米軍の永久駐留と駐留経費の大幅削減」 これによって進行するのは、いわゆる「本土の沖縄化」

*沖縄県「日米地位協定の見直しに関する要請」(2017年9月11日) 第2条関係(施設及び区域の許与、決定、返還、特殊使用)
(1) 日本国政府及び合衆国政府は、施設及び区域の提供又は用途の変更、施設及び区域内における埋 立て、大規模な土地の形状の変更、 大規模な工作物の新設又は修繕等を行う計画がある場合は、関係 地方公共団体と協議し、その意向を尊重する旨を明記すること。
(2) 日本国政府及び合衆国政府は、日米合同委員会を通じて締結される個々の施設及び区域に関する 協定の内容について、関係地方公共団体から、住民生活の安全確保及び福祉の向上を図るため要請が あった場合は、これを検討する旨を明記すること。
(3) 日本国政府及び合衆国政府は、前記の検討に際しては、関係地方公共団体の意見を聴取し、その 意向を尊重する旨を明記すること。 また、施設及び区域の返還についての検討に際しても、関係地方 公共団体の意見を聴取し、その意向を尊重する旨を明記すること。
(4) 日米合同委員会を通じて締結される個々の施設及び区域に関する協定には、施設及び区域の使用 範囲、使用目的、使用条件等を詳細に記載するとともに、その内容を日本国政府が定期的に審査する 旨を明記すること。

*沖縄県「日米地位協定の見直しに関する要請」(2017年9月11日) 第2条関係(施設及び区域の許与、決定、返還、特殊使用)

(1) 日本国政府及び合衆国政府は、施設及び区域の提供又は用途の変更、施設及び区域内における埋 立て、大規模な土地の形状の変更、 大規模な工作物の新設又は修繕等を行う計画がある場合は、関係 地方公共団体と協議し、その意向を尊重する旨を明記すること。
(2) 日本国政府及び合衆国政府は、日米合同委員会を通じて締結される個々の施設及び区域に関する 協定の内容について、関係地方公共団体から、住民生活の安全確保及び福祉の向上を図るため要請が あった場合は、これを検討する旨を明記すること。
(3) 日本国政府及び合衆国政府は、前記の検討に際しては、関係地方公共団体の意見を聴取し、その 意向を尊重する旨を明記すること。 また、施設及び区域の返還についての検討に際しても、関係地方 公共団体の意見を聴取し、その意向を尊重する旨を明記すること。
(4) 日米合同委員会を通じて締結される個々の施設及び区域に関する協定には、施設及び区域の使用 範囲、使用目的、使用条件等を詳細に記載するとともに、その内容を日本国政府が定期的に審査する 旨を明記すること。

*日弁連が2014年10月に発表した「日米地位協定の改定を求めて」

第2条「施設・区域の提供と返還」に関する改正提言。
1 施設・区域の提供協定には、その範囲、使用目的、使用期間、使用条件等の提供条件を具体的に 明記すること。そして、その使用期間ごとにこれら提供条件を記載した使用計画書を米国から提出さ せて、関係自治体・住民等の意見を聴取・尊重し、提供の可否・条件を決定すること。また、提供協 定及び使用計画書は公表すること。
2 施設・区域は、使用期間の満了、使用目的の終了等により速やかに返還されなければならず、 ま た、日本側の利益や必要のためにも返還請求をできるものとすること。

【問題の所在】

1 施設・区域(基地)提供手続の住民無視 現在、沖縄県では、普天間基地の代替施設を名護市辺野古地区に建設する手続が、県内自治体や住 民等の強い反対にもかかわらず、国によって進められようとしています。その沿岸域に基地が建設され れば、豊かな珊瑚礁やジュゴンの生息域などが永久に失われるおそれも大きいのです。 現在の地位協 定では、米国と日本国が合意すれば、国内のどこでも、地元住民・地方自治体の意向にかかわらず、基 地として提供するのに制限はありませ ん。そして最終的には民有地の強制使用も可能です。
2 米軍による基地使用の条件規制もない 現行地位協定には、どのような具体的条件で基地を提供するかについて、何の規定もありません。 基地の範囲、使用目的、使用期間、使用条件、使用方法、米軍の配置・装備、公共の安全確保等、そ の提供条件は、基地周辺住民や地方自治体の利害に直接影響しますが、それら条件が提供協定等に明 記され公表されないと、住民・自治体は、基地によってどんな影響を受けるのか、いつ返還されるの か等、全く分からないままです。
3 提供協定は公表すらされない 提供協定の内容は、基地周辺住民・自治体にとって重大な利害関係を持つものですが、日米合同委 員会合意は原則非公表とされているため、公表もされず、住民・自治体は蚊帳の外に置かれているので す。
4 基地の返還に関する問題 基地が必要でなくなった場合の米国の返還義務は、現行規定にもありますが、実際には遊休化して いてもなかなか返還されず、例えば池子弾薬庫が米軍住宅用地にされたように、別の目的に転用されて しまうこともあります。また現行協定上、日本側がどんなにその場所を必要とし、あるいはどんなに基 地被害を受けていても、これを理由に返還請求ができるとする根拠規定はありません。

【改正提言の理由

1 基地の提供について

基地の提供については、2条4項(a)(b)の区域を含めて、その提供協定に具体的な提供条件を定めるべ きです。そして、10 年を超えない使用期間を定めて、その使用期間ごとに使用計画書の作成・提出を 米国に義務付けた上、提供の条件や可否について、 地元住民・自治体等の意見聴取と意見尊重を明記 すべきです。また、提供協定・使用計画書の公表は必要不可欠です。

2 基地の返還について 上記使用期間ごとに、住民・自治体を含めて、使用継続の要否をチェックすべきです。また、住民・ 自治体を含む日本側の使用の必要性、被害解消の必要性などに基づく、返還請求権を認めるべきです。

☆ 国内法除外の排他的管轄権(第3条 基地管理権) 第3条のポイント:米軍は日本国内の施設・区域内で、それらの設定、運営、警護・管理のため必 要なすべての措置を執ることができる。
治外法権引き継ぐ 基地を自由勝手に使用し、事故や騒音、環境汚染など、日本の法令に反した被害をもたらしても米側 は警察や政府・自治体職員の立ち入りを拒むことができる。第3条は米軍による基地の「排他的管理 権」を規定し、日本の国内法を除外する特権を与えている。これが、米軍基地が日本国内にありなが ら、日本の国内法が適用されない、事実上アメリカの領土であるという最大の原因になっている。米軍 基地は「日本国内」にあり、本来は日本の国内法が提要されるはずなのだが、外務省の機密文書「日 米地位協定の考え方」は、「施設・区域に対してわが国の法令が属地的に適用があっても、法令の執行 のために施設・区域内の米軍の活動が結果的に諸種の規制を受けることとなったのでは、軍隊として の機能を維持できず、任務を有効に遂行しえないこととなるので、その限りにおいては協定上明文の規 定がある場合を除きわが国の法令の適用は、排除されることとなると考えられる。」として、事実 上、米軍基地への国内法適用を免除してしまっている。

権利・権力・権能

3条の、米軍がとりうる「必要なすべての措置」に関して、地位協定合意議事録は、基地の構築や 施設建設、維持・管理、警備、港湾の浚渫、通信網の整備など6項目を列挙。しかし、「日米地位協 定の考え方」は「米側が施設・区域で執りうる措置については、第三条に関する合意議事録に具体的 事項が列挙されている・・・が、これも例示的なものであることは・・・明らかであって、米側のと りうる措置はこれら事項に限られる訳ではない」と述べ、無制限に拡大する可能性に言及している。 さらに日米地位協定の前身である行政協定に、「(基地)管理のため必要な又は適当な権利、権力 及び権能を有する」と規定されていた点に言及。このような表現は、米軍基地が「あたかも治外法権 的な性格を有しているかの如き印象を与え兼ねない」ので、単に「必要なすべての措置を執ることが できる」としたものであるが、「管理権」の実体的内容については新旧協定上差異はない」としてい る。

運用の自由認め

その結果、基地周辺住民は深刻な被害を受けている。ex. 米軍機の騒音被害や事故の危険。地位協定 3条に伴う1996年3月の日米合同員会合意:米軍普天間基地の上空の場周経路は「できる限り学校、病 院を含む人口稠密地域上空を避けるように設定する」。しかし普天間第二小学校の上空付近を、連日 米軍機が飛び続けている。2017年末の米軍ヘリ窓枠落下後も飛行は止まっていない。地位協定3条で米 軍の運用の自由が認められており、学校上空の回避は「できる限り」でしかない。 また、全国各地の爆音訴訟では、損害賠償は認められても、飛行差し止めは認められていない。米 軍が基地管理権を有していることが理由として挙げられている。

○ 「普天間爆音訴訟判決」の根本問題は何か(2016.11.21) https://blog.goo.ne.jp/satoru-kihara/e/ adf2f7e3cba6a49ec07286ba985f1732

命を縮める騒音をまき散らす米軍機の飛行差し止めと損害賠償を求め、住民3417人が提訴した「第2 次普天間爆音訴訟」の判決(17日、那覇地裁・藤倉徹也裁判長)は、騒音や低周波音が「日常生活の 妨害」や「健康上の悪影響」をもたらすことを認め、被告の国に総額24億5826万円の損害賠償を命じ ました。しかし、肝心の「飛行差し止め請求」は却下しました。

 この判決から私たちは何をくみとるべきでしょうか		

判決が「飛行差し止め請求」を却下した根拠は、「1993年、厚木・横田基地訴訟で最高裁が提示した 『第三者行為論』。訴訟の当事者は国と国民であり、第三者である米軍の行為を国は止める権限を有 しないという論理」(18日付沖縄タイムス社説)でした。

では「第三者行為論」の根源は何でしょうか。それは判決文自体に明記されています。 「日米安保条約及び日米地位協定によれば、本件飛行場の管理運営の権限は、全てアメリカ合衆国に

委ねられており、被告(国)は、本件飛行場における合衆国軍隊の航空機の運航等を規制し制限する ことのできる立場にはないと評価せざるを得ない。よって、本件差止請求は、被告に対してその支配の 及ばない第三者の行為の差止めを請求するものであるから...判断するまでもなく(却下)」

ここに米軍基地をめぐるアメリカと日本政府と日本国民の関係がはっきり表れています。憲法が保障 する国民の基本的人権が米軍基地によって侵害されても、日本政府は米軍基地になんの権限もないか ら、裁判で政府を訴えても無駄、というわけです。「日本は米国の属国である」(島田善次原告団長、 17日付琉球新報)とはこういうことです。

重要なのは、このように日本をアメリカの属国にしている法的根拠が、「日米安保条約及び日米地位 協定」であることを判決自体が誇示していることです。

 判決に対し弁護団(新垣勉弁護団長)は、「民主主義国家としてあるまじき事態で、司法の自己否 定である」とし、「日米両国政府に対し...『静かな夜』を実現させるよう強く求める」という「弁護 団
声明」を出しました。それは当然の主張ですが、ただ司法を批判したり日米政府に要求しているだ けではいつまでたっても事態は変わりません。 

今回の判決は、米軍基地被害をなくするには、「第三者行為論」の根拠であり、そもそも米軍基地 が存在する根拠であり、日本を属国にしている日米安保条約(地位協定の法的根拠も安保条約)自体 を廃棄する以外にないことを、改めて示したのではないでしょうか。 しかし、「本土」の新聞やテレビは、相変わらず「日米安保条約」については口をつぐんでいます。 全国紙は判決に対する社説すらありませんでした。 一方、沖縄タイムスの社説にも「日米安保条約」の文字はありませんでした。琉球新報の社説(18 日付)は「本判決は結果的に日米安保条約を上位に、基本的人権を保障する憲法を下位に置いた」と 正当に指摘しながら、そこまで言いながら、日米安保条約を「廃棄すべきだ」という主張は見られま せんでした。 日米安保条約がどんなに住民・市民のいのちと暮らしを侵害し、平和と基本的人権の憲法に反してい るか。今回の判決のように身近で具体的な問題に即して明らかにしていく必要があります。そうでなけ れば、いつまでたっても「日米安保支持8割」という「世論調査」の虚構は崩せないでしょう。

立ち入り拒否も

米軍は3条を根拠に日本政府や自治体職員などの立ち入りを拒むことがきる。沖縄県内で米軍機の事 故が相次いだことを受け、防衛省は自衛官を普天間基地に派遣して検証する方針だったが、今なお、 立ち入りは実現していない。日米合同委員会は政府・自治体や国会・地方議員の基地内立ち入り手続 きを定めているが、許認可権は米軍が有している。許可なしに立ち入れば、地位協定に基づく刑事特 別法によって処罰される。同法は、基地に対する抗議行動を萎縮させる効果をもつ。

立国内法は適用せず

外務省は、米軍には国内法が適用されないとの立場。 政府 説明から「国際法」消す 米軍に「国内法不適用」https://www.jcp.or.jp/akahata/ aik18/2019-01-20/2019012002_01_1.html 在日米軍の特権的地位を定めた日米地位協定をめぐり、「国際法」を根拠として日本の国内法を適 用しないとの政府の説明が修正されていたことが分かりました。ドイツやイタリアなどと同じよう に、米軍への国内法の適用を求める声が全国で広がる中、批判の声をかわす狙いがあるとみられます が、主権を放棄する「国内法不適用」の原則は変わっていません。

外務省ホームページに記載されている「日米地位協定Q&A」ではこれまで、「一般国際法上、駐 留を認められた外国軍隊には特別の取決めがない限り接受国の法令は適用されない」と説明してきま した。しかし、この点については批判が相次いでいました。 日本弁護士連合会の「日米地位協定に関する意見書」(2014年)は「外国軍隊を受入国の国内法令 の適用から免除する一般国際法の規則は存在しない」と指摘。ウィーン条約(69年)に基づく「領域 主権の原則」が米軍にも該当すると指摘しています。さらに米国務省の国際安全保障諮問委員会が公表 した地位協定に関する報告書(15年)も「当該国の法令が適用されるのが一般原則だ」と明記してお り、外務省の説明と真っ向から反しています。

「国際法」を根拠にした説明が破綻に追い込まれるもとで、外務省は11日、ホームページでの説明を 「一般に...当該外国軍隊及びその構成員等の公務執行中の行為には、派遣国と受入国の間で個別の取 決めがない限り、受入国の法令は適用されません」と変更。「国際法」という言葉を削除しました。

この変更について外務省は「国民の皆様に対しできる限り分かりやすく説明するために行ったもの だ」と回答しています。しかし、国内法不適用の理由を「一般」論にしたことで、いっそう曖昧な説明 になっています。同省は「改訂の前後で趣旨が異なるものではない」と強調。国内法適用の原則は変 わっていないとの見解を示しています。

ドイツやイタリアでは、文字通り「個別の取り決め」として地位協定に国内法の適用を随所に明記している。その代表的なものが、自治体職員や軍当局が米軍の許可なしに基地内に立ち入ることができ る権限や、野外演習に対する規制。 NATO地位協定に関するボン補足協定のうち、国内法適用に関する主な条文=

・ドイツ警察は基地内で任務を遂行する権限を有する(28条)。
・機動演習にはドイツの法規が適用される(46条)。
・施設・区域の使用については ドイツの法令が適用される(53条)。
・ドイツ当局は施設」・区域内に立ち入りできる。緊急の場合ドイツ当局は事前通告なしに直ちに立ち入ることができる(53条に関する署名議定書)



※日本及びNZTO加盟各国の協定等の違いについて
1、日米地位協定

(1) 日米安全保障条約第6条の規定に基づき、日米地位協定を締結。環境、軍属の2つの補足協定の他、 合意議事録、日米合同委員会合意等が締結されている。
(2) 日本は、一般国際法上、駐留を認められた外国軍隊には特別の取決めがない限り接受国の法令は 適用されず、このことは、日本に駐留する米軍についても同様であるとの立場を取り、日米地位協定に も一部の法令を除き日本の国内法を適用する条文がないことから、在日米軍には日本の国内法は原則 として適用されていない。
(3) また、地位協定にも、米軍が行う訓練・演習に対する日本側の規制権限等が明記されていないだ けでなく、訓練の時間等を含む詳細な情報が日本側に通報されず、日本政府としては、それを求めるこ ともしないという姿勢を取っている。

2、NATO加盟各国(ドイツ・イタリア・ベルギー・イギリス)

(1) ドイツにおいてはボン補足協定に、イタリアにおいては米伊了解覚書(モデル実務取極)に、それ ぞれ、駐留軍(米軍)に対する受入国の国内法適用が明記されている。
(2) 一方、ベルギー及びイギリスにおいては、NATO軍地位協定を包括的に補足するような協定の存 在は確認できなかったが、両国は、外国軍の駐留や駐留軍に対する国内法の適用に必要な法整備を行 い、自国の法律や規則を駐留軍(米軍)にも適用させている。

(3) これにより、いずれの国においても、自国の国内法の規定等により 駐留軍機(米軍機)の飛行を規 制している状況となっている。 こうしたことを踏まえ、全国知事会は2018年7月の提言で、日米地位協定を抜本的に改定し、1航空 法や環境法令などの国内法を原則として適用する2事件・事故時の自治体職員の迅速・円滑や立ち入り を保障するよう、求めている。

※沖縄県の「日米地位協定の見直しに関する要請」2017年9月11日
第3条関係(施設及び区域内外野管理)

(1) 合衆国軍隊は、施設及び区域が所在する地方公共団体に対し、事前の通知後の施設及び区域への 立入りを含め、公務を遂行する上で 必要かつ適切なあらゆる援助を与えることや、緊急の場合は、事 前 通知なしに即座の立入りを可能にする旨を明記すること。
(2) 航空機事故、山火事、燃料流出等合衆国軍隊の活動に起因して発生する公共の安全又は環境に影 響を及ぼす可能性がある事件・事故については、速やかに関連する情報を関係地方公共団体に提供す るとともに、地域住民にも速やかに情報提供を行うことや、災害の拡大防止のため、適切な措置を執る 旨を明記すること。
(3) 合衆国軍隊の演習、訓練、施設整備等の諸活動の実施に対して、 航空法等の日本国内法を適用 する旨を明記すること。
(4) 合衆国軍隊が行う訓練・演習については、その内容が把握できる具体的かつ詳細な情報を関係地 方公共団体に事前に通知するとともに、地域住民にも速やかに情報提供を行う旨を明記すること。
(5) 下記の内容の環境条項を新設する旨を明記すること。
ア 合衆国は、合衆国軍隊の活動に伴って発生するばい煙、汚水、 赤土、PCBを含む廃棄物等の処理 その他の公害を防止し、又は自然環境を適正に保全するために必要な措置を講ずる責務を有するもの とする。 また、日本国における合衆国軍隊の活動に対しては、環境保全に関する日本国内法を適用す るものとする。
イ 合衆国軍隊は、施設及び区域における全ての計画の策定に当た っては、人、動植物、土壌、水、 大気、文化財等に及ぼす影響を最小限にするものとする。また、当該計画に基づく事業の実施前に、 及び実施後においては定期的に、当該事業が与える影響を調査し、予測又は測定し、評価するととも に、調査結果を公表するものとする。さらに、日米両政府間で、当該調査結果を踏まえ、 環境保全上 の措置について協議するものとする。
ウ 合衆国軍隊の活動に起因して発生する環境汚染については、合衆国の責任において適切な回復措 置を執るものとする。そのための費用負担については、日米両政府間で協議するものとする。
(6) 日米両政府間で締結された環境補足協定については、同協定が実効性のあるものとなるよう努め るとともに、次の内容に配慮すること。
ア 事故や環境汚染が確認された場合には、関係する地方公共団 体の速やかな現場立入りや試料採 取を含む合同調査が可能となるよう環境補足協定の運用に努めること。また、日本国政府または合衆 国政府が行う環境調査や汚染除去の過程を、事前に関係する地方公共団体に説明すること。さらに、 関係する地方公 共団体が必要と認める場合は、汚染除去後、確認調査及び一定 期間のモニタリング調 査を可能とすること。
イ 返還前の土地の立入りについては、返還後の跡地利用が円滑に推進されるよう、日米安全保障協 議委員会又は日米合同委員会の返還合意後、極力早期に、少なくとも返還の3年以上前からの立入調 査を可能とすること。また、これまで行われていた 文化財調査が、環境補足協定に基づく手続による こととなったことにより中断していることから、関係地方公共団体による文 化財調査等が円滑に実施 できるよう、環境補足協定による立入りの手続きを明確に定めること。

ウ 文化財の発掘調査に伴い、環境汚染や遺棄物等が発見された場合、上記アに基づき調査等を実施 すること。また、発掘調査 の安全性を確認するための調査を実施すること。

*日弁連の第3条に関する改正提言「米軍等への日本法令の適用と基地管理権」 1 米軍及び米軍人・軍属・家族に対し、その内部事項及び条約・日本法令に定めがある場合以外 は、施設・区域の内外を問わず、日本法令が適用されることを明確にすべきこと。 2 日本国・地方自治体の当局は、日本法令の適用の確保等、その公務の遂行に必要な場合、事前 に通知し、緊急な場合には事後の通知により、施設・区域内に立ち入り、調査し、必要な措置を執る ことができるものとすること。

【現行規定】

現行地位協定上、米軍や米軍基地に対して日本の法令が適用されるか否かについて直接の規定はあ りませんが、3条1項に、合衆国は、施設・区域内で、 その「設定、運営、警護及び管理のため必要な すべての措置を執ることができる」との定めがあります。 また同項は、米軍の施設・区域への出入の便を図るため、日本政府は隣接・近傍において必要な措 置を執るべきことも定めていますが、この措置は「関係法令の範囲内で」とされています。 なお同条3項は、米軍の施設・区域における作業、施設・区域外を含めて「公共の安全に妥当な考慮 を払って行なわなければならない」としています。 また、地位協定16条は、軍人・軍属・家族の日本法令尊重義務等を定めていますが、米軍自体は対 象としていません。

【問題の所在】

1 日本法令の適用なしとする政府の見解 日本政府は、駐留外国軍隊である米軍には、国際法上原則として日本の法令の適用はないとし、ま た、 上記3条1項により施設・区域内について米軍の排他的管理権というものを認めています。そのた め、政府見解によれば、特段の規定がない限り、基地内の米軍の活動等は日本法令に反していても規 制できず、基地の外での違法行為も放置されることになるのです。
2 具体的な問題状況 日本法令の規制が及ばないために、米軍基地周辺住民の被害やその危険が継続・拡大し、地方自治 体も対策がとれない、という問題が非常にたくさんあります。いわゆる基地被害のほとんどは、この問 題が関連します。 いくつか例を挙げると、米軍飛行場周辺では、航空機騒音被害が極めて大きく、裁判所も繰り返し 受忍限度を超える騒音の違法性を認めて、日本国に損害賠償を命じていますが、その違法な飛行を米 軍にやめさせることができないでいます。 また、米軍基地内は日本の法令の適用がないとされるため、水質、土壌等の汚染が進み、有害な廃 棄物が放置され、自然が破壊されても、これらを規制し、是正を求めることができません。 横須賀に 配備された原子力空母その他の原子力艦船の原発設備の安全性も、日本は全くチェックすることがで きません。

【改定提言の理由】

1 領域主権の原則と日本法令の適用 しかし、米軍や米軍基地に日本法令の適用がないという理解は、決して当たり前のものではありま せん。国際法の領域主権の原則は、国家はその領域内にある全ての人と物に対して、原則として排他的 に規制する管轄権を有し、その制約は、当該国家自身が他国に条約・法令等で認めた場合にのみ存在 するとし、また、その制約はできるだけ限定的に解されなければならないとしています。 ですから、現行地位協定の解釈としても、特段の規定がない限り、原則として米軍や米軍基地内にも 日本法令が適用されると解すべきなのです。
2 日本法令の適用と立入権の明記を 地位協定に、領域主権の原則に従い、日本法令が原則として適用されることと、その適用確保等の ための日本側当局の基地内立入権を、明文で規定すべきです。そのことにより、日本政府も米国に対 し、 航空機騒音規制など、日本の法令の遵守を堂々と求めることができることになります。

☆基地返還 米軍に汚染除去義務なし(第4条 基地返還)
第4条のポイント ○米国は在日米軍基地を返還する際に、米側の活動に起因する水質汚濁、大気汚染、土壌汚染等の 環境汚染が発生しても原状回復、補償の義務はない。

○日本側は米側に補償の請求を行わない。 第4条により、米軍は基地の返還時に原状回復する義務を免除されている。日本の環境法を順守する 義務もないため、基地が返還されても日本政府や自治体には汚染除去など重い負担が課せられてい る。
立ち入り米次第
現状回復義務を

日弁連の「環境問題に関する提言」

【現行規定】

新しく以下の環境条項が定められるべきです。
1 日本又は米国のいずれかの環境法規の厳しい基準に従うこと
2 環境汚染が発生した場合の米軍の原状回復義務
3 環境に影響を及ぼす事件・事故等が発生した場合、米軍の日本側への即時の通報義務と日本側の 立入り調査権
4 米軍が新施設を作る場合、事前の環境影響調査義務とその結果の公表
5 環境調査のための地方公共団体、専門家等を含めた「環境委員会」の設置と同委員会による定期 的環境影響調査の実施

【問題の所在】

環境保全・回復について定めた規定はなく、地位協定4条は、米軍が施設・区域を返還する際に米国 は原状回復義務や回復に代わる補償義務を負わない内容となっています。

【問題の所在】

地位協定に環境保全・回復の規定がなく、しかも返還した施設・区域が有害物質で汚染されていて も米国が原状回復義務や補償義務を負っていないため、米軍の運用による環境破壊が多発しています。 航空機による爆音被害が代表的なものですが、赤土流出、PCB、 油状物質、六価クロム、鉛、洗浄剤、 化学薬品、核物質などの汚染が多岐かつ広範囲にわたっています。 爆音、土壌・海洋汚染などによる環境破壊を防止し、 回復するためには、地位協定に環境保全や回 復のための規定を定める必要があります。

【改定提言の理由】

1 地位協定には、人間が生存可能な自然環境を保全するためなど、ドイツ補足協定54A条及びB条の ような環境保護法理の発展(「未然予防原則」、「汚染者負担の原則」など)を反映した環境条項が 定められるべきであり、環境保全・回復に関する日本国内環境法規か米国内の環境法規のいずれか厳 しい基準に従うべきです。
2 施設・区域の使用に伴う汚染が発生した場合、 「汚染者負担の原則」の下、米軍が原状回復義務 を負うことが定められるべきです。
3 施設・区域内で環境に対し悪影響を与える事件・ 事故等の事態が発生し、あるいはそのおそれが ある場合、米軍による日本及び関係地方公共団体への即時の通報義務を定め、かつ、日本側当局の施 設・区域内への立入り調査を認めるべきです。日本側としても汚染(そのおそれ)の実態を把握するこ とは、 その後の対策を立てるにも不可欠です。
4 施設・区域内に米軍が新たな施設を建設する場合には、環境破壊を未然に防止するため、事前に 環境影響調査を行い、これを公表するべきです。
5 施設・区域内の環境調査のため、環境保全対策を米軍にいわば白紙委任するのではなく、個別基 地ごとに、地方公共団体、専門家等を含めた「環境委員会」を設置し、基地への立入り調査の上で、 定期的に環境影響調査を行うべきです。

☆受け入れ国内における移動の自由、公の船舶・航空機の出入国、基地への出入権 第5条のポイント:米軍機・艦船は着陸料・入港料を課されないで日本の民間港湾・空港を利用でき る。/米軍機・艦船や米軍人・軍属・家族は基地に出入りし、基地間や日本の空港・港湾の間を移動で きる。これに関する道路料金は免除される。

政府が代わりに負担】

日米地位協定では、米軍の「移動の自由」を保障する目的から、日本の空港・港湾、さらに有料道 路の利用料が免除されるという特権が与えられ、日本政府が代わりに負担している。

低空飛行  根拠なく容認

5条2項は、米軍機や船舶、車両などが「合衆国軍隊が使用している施設及び区域に出入し、こ れらのものの間を移動し、及びこれらのものと日本国の港又は飛行場との間を移動することができる」と 規定。米軍が使用している施設や区域だけでなく、日本の飛行場や港を移動できる旨を記載している。 日本政府はこの5条2項を根拠に、「移動」と称して提供区域外での米軍機の飛行訓練を容認してい る。しかし、日本の上空に米軍が勝手にルートを設定している低空飛行訓練は「移動」とは言えな い。 5条に関する低空飛行訓練に関する日米合意(1999年)では、低空飛行訓練は「日米安全保障条約の 目的を支える」として正当化している。つまり、「安保の目的」にかなっていれば、地位協定上の明確 な根拠を示すことができなくても容認するという考えである。 日米合意は、米軍は低空飛行訓練で日本の航空法で制定される「最低高度基準」を用いるとしてい る。ところが、日米地位協定に基づく航空法特例法により「最低安全高度」を定めた航空法81条が米 軍には適用されない。

*オスプレイはどこを飛ぶのか? なぜ日本政府は危険な軍用機の飛行を拒否できないのか? ま た、どうして住宅地で危険な低空飛行訓練ができるのか?自分の国でさえできない危険な訓練を、どう してよその国でやることができるのか?

航空法 81条(最低安全高度)

「航空機は、離陸又は着陸を行う場合を除いて、地上又は水

上の人又は物件の安全及び航空機の安全を考慮して国土交通 省令で定める高度以下の高度で飛行してはならない。但し、 国土交通大臣の許可を受けた場合は、この限りでない。」 航空法施行規則 174条(最低安全高度)

「法第81条の規定による航空機の最低安全高度は、次のとお りとする。

一 有視界飛行方式により飛行する航空機にあつては、飛 行中動力装置のみが停止した場合に地上又は水上の人又は物 件に危険を及ぼすことなく着陸できる高度及び次の高度のう ちいずれか高いもの
イ 人又は家屋の密集している地域の上空にあっては、当 該航空機を中心として水平距離600メートルの範囲内の最も高 い障害物の上端から300メートルの高度

ロ 人又は家屋のない地域及び広い水面の上空にあっては、地上又は水上の人又は物件から150メー トル以上の距離を保つて飛行することのできる高度」適用除外

日米地位協定と国連軍地位協定の実施にともなう航空法の特例に関する法律(1952年7月15日施行) 「3項 前項の航空機〔米軍機と国連軍機〕及びその航空機に乗り組んでその運航に従事する者に ついては、航空法第6章の規定は、政令で定めるものを除き、適用しない。」→米軍機はもともと、 高度も安全も、なにも守らなくてもよい 。

※日弁連の「船舶・航空機等の出入異動」に関する改正提言

1 米軍等による民間の港湾・空港の使用が、緊急時における一時的・例外的なものであることを明示 すること。
2 米軍等による民間の港湾、空港、道路等の使用にあたっては、原則として日本の法令が適用される ことを明示すること。
3 米軍による演習、訓練は原則として施設・区域外では禁じられる旨を明記し、施設・区域外での飛 行訓練については、その場所的範囲や飛行条件等について日米合同委員会の合意によって明確な使用 条件を設定すること。

【現行規定】

地位協定第5条は、米軍の船舶・航空機は無償で日本の港湾、空港に出入りできること、米軍の船舶・ 航空機・車両並びに軍人や家族等は、施設・区域への出入、施設・区域間の移動、施設・区域と日本 の港・飛行場間の移動ができること、軍用車両の移動には、道路使用料等の課徴金を課さないこと、 港湾を利用する場合の通告義務や強制水先の免除等を定めています。

【問題の所在】

1 無制限な民間の港湾・空港使用権 米軍による港湾・空港の使用は、「公の目的」で運航される場合に限定されていますが、具体的な 使用目的や手続は定められていません。このため、民間港湾への出入港件数は、年平均20件前後 (2009年は22回)と多数回に及び、民間空港でも、 佐世保基地へのアクセスのため長崎空港が年間約 300回使用されるなど、恒常的な使用実態がみられます。
2 民間港湾等の使用と日本法令の適用 地位協定は米軍の移動について国内法令の適用を明記してなく、民間港湾への出入りなどについて 施設管理者の同意は不要とされています。
また、ベトナム戦争時には、相模原補給廠から港 に向かう戦車積載のトレーラーが道路法に違反し ていたことが明らかになったこともありましたが、全体として国内法適用が曖昧にされています。
3 提供施設・区域外での軍事訓練 提供施設・区域外での演習・訓練については定めがなく、施設間移動の名目で公道等で行軍訓練が なされたことがありました。上空では、広大な訓練空域が設定され、さらに訓練空域以外でも米軍が 独自に国内8カ所の低空飛行訓練ルートを設定していますが、これらに地位協定上の根拠はありませ ん。低空飛行訓練では、ケーブル切断やダムへの墜落などの危険な事故が発生しています。普天間基地 へ配備されたオスプレイも同様に低空飛行訓練を行うとされています。

【改正提言の理由

1 民間港湾・空港の使用目的の制限 もともと提供施設・区域には米軍専用の空港や港湾が含まれていることから、米軍が無制限に民間 の港湾や空港を使用できるとするのは、施設・区域の提供の趣旨に反し、それら民間施設の運用に支 障ももたらします。よって、米軍等による民間の港湾・ 空港の使用は緊急時に限定し、一時的・例外 的なものであることを明示すべきです(ドイツ補足協定57条6項には、同旨の定めがあります)。
2 日本の法令の適用 港湾や空港の管理運用や、道路交通の安全確保のため、提供施設以外の港湾、空港、道路等の米軍使 用にあたっては原則として日本の法令が適用されるとすべきです。

3 施設・区域外での演習・訓練の原則禁止 施設・区域の提供は、その範囲での演習・訓練を行うことを前提としており、施設・区域外での演 習 ・訓練による事故等で国民に被害が生じるおそれがあります。よって、施設・区域外での演習・訓 練は原則として禁止し、飛行訓練については、その範囲 や飛行条件等を日米合同委員会で特定・明示 することを地位協定に盛り込むべきです。

 

 

 

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今年ネットで最も検索された言葉

  「忖度」です。「忖度」は流行語大賞にも選ばれました。最近はコンビニなどでも「忖度御前」というものが売られてようです。大阪には「忖度まんじゅう」、それから「のり弁」ですね。
 実は私がいたNHKで10年前に「忖度」という言葉が流行ったのです。2001年に、私が編集長をしていたETV2001で、「問われる日本軍性暴力」という日本軍の慰安婦として連れて行かれた女性たちを扱った番組に対して、番組改変が行われました。放送の前日でしたけれども、安倍さんと面会をしたNHKのナンバー3が安倍さんに言われたことを持ち帰ってきて、あれを直せ、これを直せという指示を出して番組をぐちゃぐちゃにしてしまったのです。この時に番組に協力してくれた人達が、NHKを「約束違反だ。不法行為だ」として訴えました。この裁判過程の中で、一審の東東京地裁ではNHKが勝ち、二審は東京高裁ですが、我々が証言したことによってNHKが負け、最後の最高裁でNHKが勝ちました。この二審の時に「忖度」という言葉が使われたのです。「NHKの予算の国会審議に当たって、NHKの幹部が予算説明のために接触した政治家の発言を必要以上に重く受け止め、その意図を忖度して、できるだけ当たりさわりのない番組にするために修正を繰り返した」と事実認定をしました。私は100歩譲って、東京高裁がそういう言葉を選んだに過ぎないと思っているのです。本当はいろいろな圧力があった、弾圧があったのだが、それに対して口を割らないから、「言ってもいないのに、おもんばかって忖度した」ということにして、事実認定をしたということなのだと思うのです。


「三ない答弁}

 「目を背けることはできません」「はっきりと申し上げておきたい」「明確にしておきたい」。全部これ違うということです。「認めない」「調べない」「謝らない」。マクベスに「きれいは汚い」「汚いはきれい」という言葉が出てきますが、それと同じです。彼が「謙虚と丁寧」と言うときは「傲慢とぞんざい」と転換して聞かなければいけないと言うことです。彼一人だけならまだいいのですが、援軍が現れるからやっかいなのです。今国会で言えば、足立康史という大阪出身の維新の会選出の議員がこう言いましたね。「朝日新聞 死ね」と。彼は朝日新聞のニュースは「ねつ造・誤報・偏向報道」と批判し続けています。真実を伝えることが政権にとって都合の悪い時に、フェイクニュースという言葉で攻撃します。これはアメリカの大統領も同じですよね。


望月衣塑子記者

 菅官房長官は加計学園の一連の文科省の文書が出てきた時、「怪文書みたいなものではないでしょうか」と言いましたね。彼は獣医学部新設の過程に「一点の曇りもない」と記者会見で話していました。その菅さんを追い詰めて、彼の「ボロ」が出てくることになるきっかけをつくったのは、望月衣塑子さんです。東京新聞社会部記者です。練馬の方です。お父さんは業界紙の新聞記者で白子川の源流の保存の運動をされていました。お母さんは亡くなりましたが、黒テントの女優さんだったと思いますが、朝霞のキャンプなどの反戦・反基地運動をされていた方で、練馬では望月記者のファンがとても多いと聞いています。最近「新聞記者」という本を出されましたね。『週間読書人』という新聞に、望月さんと私の対談をさせていただいたのですが、「誰も聞かないなら私一人でも聞く」と彼女は言っています。
 首相官邸、総理大臣や官房長官が隠していたことはいろいろあるのですが、そういうものに対して「記者は質問をぶつけていく」という当たり前のことを当たり前としてやった人です。
 こんなことがありました。1972年、沖縄返還の記者会見で、安倍さんの大叔父に当たる佐藤栄作が、新聞から厳しい批判を受けて、「新聞記者は出ていけ!私は直接国民に語りかけたいのだ」と言いました。この時、新聞記者やテレビの放送記者は、罵倒され侮蔑されたわけですから全員出て行ったのです。こういう異常な中で記者会見が行われたのです。当時、70年代の記者たちはこれくらいの気骨はあったのですね。


前川喜平氏の反乱

 この間、読売新聞に「加計学園半世紀ぶりに獣医学部新設」という全面広告が載りました。この加計ありきという不透明な動きに対して、一人で告発した人がいます。ご存じのように前川喜平前文科省事務次官です。私は夜間中学校の取材をしていましたので、前川さんがどれほど夜間中学あるいは自主夜間中学の応援団であったかということは聞いていましたが、こんなにすごい人だったのだということをはじめて知りました。今年の5月ですが、これは朝日新聞だと思いますが、「新学部
総理の意向」という文字が紙面を飾ります。つまり「総理の意向を忖度して」ということです。これも本当に忖度かどうかはわからないのです。総理が言ってもいないのに忖度したのか、あるいは裏でもう決まっていたのではないかということは次の国会でも追及されるべきでしょう。前川さんは、官僚のトップの矜持をもって一人でも戦うということをやるわけです。この前川さんの反乱を止めさせようとするメディアがあります。読売新聞です。安倍政権を追及する新聞は、朝日・東京・毎日、テレビではTBS・テレビ朝日。安倍政権にすり寄る新聞は、読売・産経、テレビではNHK・フジテレビです。どちらにも転ぶのが週刊文春・週刊新潮というところです。すり寄る側というのは政権への忖度をする、あるいは政権が政治を私物化することを許す側に立っているということでしょうか。
 実は前川さんがこの一連の告発に動くに当たって、一緒にメディアとして食い込んでいたのは朝日新聞ではありませんでした。NHKなのです。ある社会部の10年に満たない記者が、最初に前川さんのインタビューを撮りました。それだけではなく、現役の文部官僚からの「裏取り」も複数していたのです。で、いざ放送というときに、政治部の局長の意向でそのニュースは「お蔵入り」ということになったのです。同じ時期、読売新聞は前川さんが出会い系バーに通っている怪しい官僚なのだということをことさら強調する記事を載せました。全国紙ですからどの地方版もみんな同じ扱いで、そこの場所だけ空けて置いて同じものを差し込むということをしています。トップが強引に押しこんで、無理やり記事にさせたということが推測できます。


「官邸の意向」文書

 私のところにも加計学園の関連の文章が回ってきました。読んでみるといろいろなことがわかるのですが、「最短スケジュールでやることは、官邸の最高レベルが言っている」とはっきり書いてあるのです。一つわかったことはヤンキー先生と呼ばれていた義家弘介さん(文部科学副大臣)が、実は理解力が足りなかったのです。そこで彼にわかるように文書として書いたものが残ったのです。もし義家さんがもっと頭が良かったら、「総理の意向」みたいな感じに書いたらそれで足が付くということは想定できますから、そこまで書かなくても良かったのだけれども、彼にわからせるために書いたのだと私は思います。「どう言えばいいかシナリオをくれ」と彼は言っていたのです。だから「こうしなさいよ」と指南してあげたものなのです。
 財務省は反対していましたから、結局獣医学部を一校だけ認めるというのは政治的判断ということになっていくのです。このNHKがお蔵入りにしたとか、不透明な部分について聞こえてきた後、私は「ひどいことが今起きているよ」ということを世の中に伝えようと思ってフェイスブックを使って発信をしました。結果的には毎日新聞と東京新聞が書いてくれて、日刊現代という過激な新聞にも載りました。「NHKよ!国民の方を向いてくれ」という一連の大きな記事です。
 今回加計学園問題ではいろいろな人の名前が挙がっていますが、この人の名前だけは覚えておかなければいけないと思います。萩生田孝一という人です。丁度今から三年前のことです。TBSに安倍総理が生出演して、当時まだ元気だった岸井成格さんが「街頭インタビューで安倍のミックスは全然効果が上がっていない」という町の声を紹介したのですけれど、安倍さんが切れて「意図的に安倍政権に批判的なものばかりを集めているのではないですか」というようなことを言ったことがありました。この騒ぎの後、萩生田はテレビ各局のデスクに、直に「公正な報道をしてくれ」という要請書を渡すのです。そのことでそれぞれのニュースデスクは安倍政権が不利になるような厳しい報道はしないというふうに舵を切っていくようになります。今回はさすがに加計学園問題で萩生田さん自身の名前が出ていましたから、これ以上弾圧すると損だというので彼は暗躍しなかったのです。ただ選挙が終わった後、野党と与党の質問時間の配分を巡って実際に汚れ仕事をしたのは彼です。


政権の私物化の中での警察とメディア

 もう一つ汚れ仕事で言えばこの人の名前を忘れてはいけないと思うのです。山口敬之さんというTBSの元ワシントン支局長です。彼は『総理』という本を出しました。幻冬舎というところから出したのです。この山口さんは今国会でいろいろ追及されたり、院内集会で話題になったりしたことをみなさんご存じだと思いますが、伊藤詩織さんへのレイプ事件です。伊藤さんはワシントンのTBSの仕事をするなどいろいろある中で、山口さんとお酒を飲んだのですが、なぜかお酒の強い伊藤さんがその日に限って泥酔をすることになったのです。そして気がついたらレイプをされていたというのです。この準強姦事件ですが、準というのはつまり意識がないとかもうろうとしていたということです。強姦よりレベルが下であるということではないのです。この事件は高輪警察がきちんと動いて、山口さんが日本に帰ってくる空港で待っていたのです。その時に高輪警察の携帯電話が鳴るのです。「逮捕中止」の指示です。この指示を出したのは中村格、当時は警視庁の刑事部長です。刑事部長が一事件の逮捕中止指令を直接出しているのです。ちなみに中村さんはテレビ朝日の報道ステーションの古賀重明さんの生のスタジオの発言の後、いじめた人でもあります。
 もう一つ私が許せないと思っているのは、クローズアップ現代の国谷キャスターが集団的自衛権の閣議決定の後、生のスタジオで菅官房長官に「海外の戦争に日本が巻き込まれる危険性はないのでしょうか?」と何度も聞いたにもかかわらずのらりくらりときちんと答えなかった。生のスタジオですから時間切れになって見苦しい形になってその放送は終わってしまうのですが、その後国谷さんやスタッフをいじめたのがこの中村格という人です。

11月3日に、国会前で5分だけお話をさせていただきました。4万人集会です。この時に山口さんに対して中村さんが逮捕しない指示をしたのは何故なのかといことを申し上げました。つまり、メディアは警察のお仲間なんだということです。私が事件をもみ消してあげようということです、つまりメディイアは悪の側にいて、安倍政権の私物化の中で、同類として扱われたということです。伊藤詩織さんの人権や尊厳が失われたことは、これが一番ひどいことではありますが、もう一つひどいのは、メディアは政権の側にそのように認識されている。それは何とも情けないことだと私は思います。


国連人権理事会のデビッド・ケイの報告書

 今年の春ですが、国連の人権理事会のデビッド・ケイさんという人が日本にやって来ました。彼は一昨年の11月に来日するはずでした。しかし高市早苗法務大臣がドタキャンをしてしまったとかいろいろあって、なかなか事実調査が進まず、去年ようやく来れたわけです。国連の人権理事会は、拉致問題については日本は解決の舞台として頼りにしているのです。しかし、こと言論の自由や代用監獄とかさまざまなことで日本は人権後進国であるのです。にもかかわらず、「私たちは先進国です」というので、その指摘を冷笑し無視するということを続けてきました。最近で言えば「朝鮮学校差別」ですよね。これは3回も指摘されているのです。ずーっと無視するどころか、ますますひどくなってきていると思います。
 デビッド・ケイさんの最終報告の中には、「メディアの関係者がバラバラになって孤立をしている。メディアの人間こそが言論の自由を持つべきだ。籠の鳥にされていて、自分の肉声を届けることができないのではないか。そういうメディアで良いのか」。もう一つは、放送法というのがテレビの世界にあり、その中に第四条「政治的公平」というものがあります。「政治的公平」という言葉が悪用されて降板などに繋がっている。だから「政治的公平という文言をなくしまったらどうか」とデビッド・ケイさんは指摘しています。もう一つ、放送局には5年に一遍免許更新という制度があるのです。つまり総務省の管理の下で放送はなされているのです。「これでは国に対して厳しい意見などできるはずはないではないか。総務省の管理を止めて電波管理委員会という戦後すぐにあった第三者委員会を復活させたらどうか」とケイさんは言っています。


歴史を振り返る

 安倍さんが国政に躍り出たのは1993年。宮沢内閣が選挙に負けて、細川政権ができたとき、野党の議員としてスタートしました。日本の戦争犯罪や慰安婦問題は認めたくないという立場を堅持していますけれども、そのことについてちょっとだけ整理をしておきます。1991年にキム・ハクスンさんという人が「慰安婦だった」と名乗り出ました。これを受けて日本政府は調査をして、河野官房長官談話を出します。談話といっても国際公約です。慰安婦問題について、「子どもたちも含めて教育の場などで学び、二度と同じようなことが起きないようにする」ということを言うわけです。こういうことは許せないと思ったのが安倍さんたちで、「歴史教育を考える若手議員の会」というものが誕生し、教科書攻撃が始まります。
 次に標的になったのがテレビです。私が編集長をしていたETV2001の時にNHKの幹部と安倍さんがやりとりをして、その時「お前、勘ぐれ」と言ったのです。「忖度しろ」という意味です。この発言の結果番組が変わってしまいます。2005年に番組再編の舞台裏で何があったのかということを、「朝日」が取材をして大スクープを出すことになります。2006年、私を含めて東京高裁で真実を公表し、いろいろなことが展開していくわけです。最高裁でNHKは勝ちましたけれども、BPO(番組放送機構)が、放送現場でいかに異常なことがあったのかということをもう一度検証して、NHKでもきちんと議論をしなさい、検証してできれば番組としてそれを放送しなさいという意見書を出します。2009年のことです。しかし、今2017年、その意見書は一顧だにされていないということでしょうか。その後、自民党がテレビ局にいろいろな圧力をかけることが続いていって、さっきのデビット・ケイさんの報告書に繋がる。こういう流れになっています。


なぜフェイクニュースの時代に?

 今年フェイクニュースという言葉がいろいろ言われるようになりました。フェイクとは偽りの意味です。これは取材をしていても間違う「誤報」から、「でっち上げ」とか「誇張」とか「捏造」とか「飛ばし記事」とかは今までもありました。一方で政治家が自分の気に入らないニュースをフェイクだと烙印を押す、トランプさんもそうですし、安倍さんもそうですね。もっとひどいのは選挙に勝つために、嘘なのにプロパガンダとしてそのニュースを流してしまうということでしょう。
 世界を見てみると、イギリスのEU離脱がありましたが、あの時は大衆紙などデタラメなものが飛びかいました。「エリザベス女王は離脱を支持している」などというのが飛びかうのです。嘘です。アメリカで言えばクリントン候補に対しての誹謗中傷もそうです。日本も同様でしょう。「エリザベス女王離脱賛成」などは週刊誌のトップに大きく出るわけです。最近で言えばこんなものも飛び交いました。日本の公務員バッシングです。「日本の公務員給与の平均は年収898万、ドイツは194万」というのです。いくら何でもこれはひどい。ここまでドイツは安くないし、カナダ・イタリア・フランスだって同じです。これは公務員の給与が高すぎるということをことさら言うためのフェイクニュースです。フェイクニュースが何故このように広がるのかというと、ネットを見る人は自分の好みの情報しか見ない、しっかり新聞を読まない中でのメディア不信が背景にあるからだと思います。
 和歌山の新聞が、「福島の浪江町で山火事が起き、放射性物質が拡散している」ということを大事件として取り上げました。デタラメでした。いろいろなデタラメがあるわけですけれど、有名なのは少し前ですけれど、「イラクの大量破壊兵器」です。今でもアメリカの10人の内4人は、イラクに大量破壊兵器があったと信じているのです。そんな中で、市民が、何が本当で何が嘘かをチェックする動きが始まっています。


NHKにもよい番組がある

 NHKのニュースはひどいです。でもNHK全体を見てみると、「731部隊」や「インパール作戦の悲劇」や「長崎の原爆が投下された被差別部落のキリスト教徒の物語」など良い番組がたくさんあります。しっかりと調査がなされ、資料が発掘され、現場の取材が行き届いた良い番組が出ました。これはかつて呪縛として存在していた戦友会がもはや機能しなくなって、元兵士たちが話すことができるようになったということも大きいのです。けれども相変わらずタブーがあり、慰安婦問題については語ることが中々難しい。公共財としてのメディアというものをもっと有効に使えないだろうかとつくづく思うわけです。メディアは声を上げられない人、困っている人のためにあるべきものなのです。憲法13条には「幸福追求権」があります。つまり収入や住まいが保障され、心と体が脅かされることなく、人々が繋がって安心して生きていける社会のために放送はなければいけないのです。人々と寄り添って、調べて、伝えるということにつきると思います。

したたかな運動を

 今から60年以上前の話ですけれど、杉並では公民館の館長室が事務局となって原水爆禁止運動の署名が集められたのです。このとき、共産党や社会党の人達が頑張リましたが、表に出でたのは自民党だったのです。何故か、自民党の人達が呼びかけた方がたくさんの署名が集まるからです。非常にしたたかな戦略がそこにはありました。目標は短期に設定したのです。すごいのは杉並だけでどれだけ署名を集めるかという目標の設定ですが、20万枚の署名用紙をまず印刷したのです。これが目標だということで頑張るのです。とにかくメディアも使ったり、いろいろなことをやって最終的には日本全体で3259万907筆となりました。今日の表題の3000万署名とほぼ同じくらいの目標が達成されたということです。 
 この一連の歴史について掘り起こしたのは私と一緒にやっていた丸浜江里子さんという方ですが、一昨日残念ながら亡くなりました。彼女たちと立ち上げたのが「フォーラム杉並」です。秘密保護法が上程されたときにもいっしょに戦いました。秘密保護法のお葬式をやろうということで、喪服で参列をしてみたりということをやりました。

まっとうなメディアを育てる

 私たちは何をすれば良いかということですが、メディアリテラシー、つまりメディアが何を言っているかを読み解くことが大事です。「嘘」が何なのかを検証することは簡単なことではありません。大事なことは無関心な人に何を伝えるかということです。メディアと市民が共同して戦う、心あるメディアは政治家の標的になりますから、どうやって政治家の攻撃からメディアを守るかが大事なことです。公共空間、つまりこのことはみんな知っているよというベースになる知識を、ベースになる情報をみんながもっている社会でなければいけないと思うのです。この人は知っているけれどこの人は知らないという世の中は不健全だし、力を持てないと思うのです。二日前、NHKの受信料を巡っての最高裁判決がありました。「公共放送重い責任」という表題で朝日新聞や毎日新聞の取材を受けたのですが、私はこう言いました。「戦前のNHKに戻るのか」つまり、受信料を実体化して義務的に徴収できるという判決でした。それには前提があるのです。払うにたる公共放送であることです。つまり公共放送としての資格がなければ、お金だけ取りますというシステムはおかしい。そもそも放送法第一条は「健全な民主主義に資すること」と書いてあります。健全な民主主義、つまり少数の意見も尊重してさまざまな人達が尊重される社会をつくるために放送はお役に立ちなさいということです。
 ここ数日の私の最大の心配は、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都にすることを認めたことです。これはEUのほとんど全部の国と、ほとんど世界中の国が「バカなことを言うな」と言っています。唯一いさめない国があります。日本です。これは中東の今後を左右する大変なことです。考えて見れば沖縄もそうですし、朝鮮半島の今の緊張もそうですけれども、どうやってアメリカが軍事大国として悪さをするのを防ぐことができるかということ抜きには世界の平和は考えられないわけです。軍事的にさまざまな戦争を引き起こしてきているのはどの国か。アメリカに追随して世界規模の平和が成り立つということはありません。世界規模の不寛容というものが今情報の世界を覆っています。安倍さんがそういう世界に異常に追随し、併走することを私はとても心配だと思っています。みなさん方と一緒に手を携えて頑張りたいと思います。

※「メディアに対して私たちに何ができるか」という会場からの質問に対し、永田さんは「褒めることと𠮟ること。100人の声で番組は変わる」とお答になりました。100人で変えることができるなら、私たちにもメディアを健全なものにしていく可能姓があるということですから、心あるメディアを政治家の攻撃から守るために、いいものは「良かった」と褒め、問題を感じたら𠮟りましょう。


 

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