46号 2013年4月発行

〈1面〉

先人の卓見に学ぶー会員一万めざす壮大な取り組みを
         

                           田場 洋和(ねりま九条の会・ねりま文化の会会員 練馬在住)

 2004年に創立された「九条の会」は、来年、10周年を迎える。練馬・文化の会の会誌「みつがしわ」を読み返すと、九条の会発足四年前の2000年7月の第17号で「憲法九条を日本に、世界に平和カードの波運動を」とインタビューに熱っぽくこたえた先人がいたことに驚かされる。婦人運動の大先輩の櫛田ふきさんである。櫛田さんは1899年生まれなので、三世紀をまたがって生きてきたことになるが、インタビュー記事を読むと、100歳を超えた人の憲法九条への熱い思いがひしひしと伝わってくる。
 朝日新聞記者で練馬でも講演いただいた伊藤千尋は「シネフロント」最新の2月号(385号)で、「世界から基地が消え、原発も消えている」と題して、フィリピンと南米のエクアドルが憲法で戦争放棄を明記した経緯を報告している。フィリピンが総ての米軍基地をなくしたことは広く知られているが、この運動の中で憲法二条で「国策の道具としての戦争を放棄ての戦争を放棄する」と明記したという。
 エクアドルも2009年に米軍基地を撤退させたが、この撤退を実現するために大統領選挙で「エクアドルは平和の領土である。外国の軍事基地の存在は許されない」という条文が提案され、この条文が国民投票にかけられ、圧倒的多数の賛成で憲法に追加されたという。しかもその際「わが国は国際紛争の平和的解決を支持する。その解決の武力による威嚇または武力の行使はこれを認めない」という、日本の憲法の前文が追加された。伊藤はこれを「日本政府が輸出したわけではない」としているが、冒頭に記した櫛田ふきさんたちをはじめとした民衆の運動が影響をもたらしたといえるのではないだろうか。
 練馬・文化の会は40年以上も前の創立時に「平和なくして文化なし」のスローガンをかかげたが、今こそ(残念ながら?)そのスローガンをさらに高く掲げる時代を迎えているといわねばならない。ねりま九条の会も会員一万をめざすような壮大な取り組みを提起するときを迎えているのではないだろうか。


〈2面〜3面〉
憲法が危ない、集団的自衛権とは?
  ─小沢 隆一 さん講演会 質疑応答より─

2月26日(火)18時30分より、石神井庁舎にて練馬九条の会憲法学講座を開催しました。
講師には九条の会事務局次長で慈恵医大憲法学教授の小沢隆一さんをお招きしました。講演会記録は冊子にまとめ、同封していますのでお読みください。本紙面には、当日参加者から出された鋭い質問と、講師の回答を掲載させていただきました。

Q 集団的自衛権を行使するようになると自衛隊が戦場に行くようになるが、就職のために自衛隊に入隊していた若者が国防軍に入りたがらなくなるため、徴兵制ということもあるのだろうか?
A 国防軍ができてしまった時は、国防軍に若者を入れるためにいろいろな研究をしてくると思うが、近年の戦争のやり方を見ていると、かつての大日本帝国軍のような集め方はしないと思う。無人爆撃機を飛ばす戦争をする時代でもあるし、若者をごっそり軍の方に持って行ってしまうやり方は労働力のロスでもあるからだ。アメリカでは食い詰めた若者を兵士にして奨学金を出し、大学に入れるようなことをしているが、日本でもそのような企みをしてくるかもしれないと思う。私たちもそれに応じた取り組みをする必要があるかもしれない。

Q イギリスは小選挙区制を採用しているがうまくいっているのか? また敗戦国だったドイツやイタリアはどのようにして改憲をしたのか?
A 憲法四三条を読むと、「全国民を代表する選挙された議員」が衆参両院の国会議員だと書いてある。全国民を代表する選挙された議員にふさわしい議員を選ぶためには、いろいろな要求を持つ人々の考えが反映される選挙制度でなければいけない。
 イギリスは世界に先駆けて資本主義をつくってきた国で、代々労働者階級、代々貴族、あるいはジェントルマンの家柄という人たちによってつくられてきた。それで、イギリスの場合は二大政党でもはっきりとした緊張感のある政治ができるという環境がもともとあったのだ。ところがそういう関係がない国で二大政党制をやると、アメリカがいい例だが、共和も民主も同じような政策になる。どちらも浮動票を取り合う。浮動票というのは求める政策がはっきりしないわけだから、その人たちを取り込もうとするとどうしても政策は似たようになってくる。結局どちらも同じ財界べったり体質となる。
そういう国の条件では、小選挙区制はいい結果をもたらさない。日本も財界の声、アメリカの声が強烈だから、そこにすり寄る政党が二大政党の中心になってしまう。
 ドイツやイタリアの改憲の動向については、ドイツは日本と同じで最初はドイツ軍は連合国によって解体されて軍隊がなくなった。このドイツがNATOに復帰して再軍備するる時にはやはり憲法改正があった。ドイツの憲法は議会だけで作れるからやりやすかったのだが国民の中には傲然たる反対があった。しかし国民投票がない国だから改憲をされてしまった。

Q 国民主権原理と平和主義の国のあり方を憲法では規定しているが、自民党の改憲草案の前文では、国民主権原理を根本からひっくり返し、絶対王権の体質の憲法に持って行ってしまう意図があると思う。また、経済活動を通じて国家を成長させるとしているが、これは行き詰まった資本主義の延命を目論んでいるのではないか。
A  私は憲法改案前文を読んで、なんて志の低い憲法案だろうと思った。やっぱり憲法前文ぐらい、「私たちが目指すべき社会はこうあるべきだ」という理念を語ってほしい。前文というのはまさにそういう役割を担った条文だと思う。 ところが自民党は、今の日本国憲法前文はユートピア的過ぎると言い、「諸国民の公正と信義に信頼して」などはおめでた過ぎるという解説までつけている。こういう志の低い人たちに憲法をいじくらせてはならない。政治経済の面では左翼ではない、革新ではない人たちにも「この憲法のこの前文は大事だ」と思う人はたくさんいるだろう。そういう人も運動に巻き込んでいきたい。
 経済に関しては、資本主義の延命策と称して、アベノミクスを今出しているところだが、金融緩和と財政出動と成長戦略という三本の矢は、三本とも的には当たらないと仲間の経済学者は指摘している。株価が上がったと浮かれている場合ではない。国民生活に突き刺さる矢なのだ。
 そういう悪あがきではない方向を目指さなくてはいけない。それは憲法二五条の生存権を大切にする政治というふうに、憲法の立場からはなるのではないかと思う。福祉、医療、教育を豊かにする政治の方向を目指すべきだ。

Q 四三%の得票で八〇%の議席を獲得する選挙制度を違憲だという人はいないが、これを法的理論闘争で争うことはできないのか。A 選挙制度は建物に似ていると思う。しっかりした建物には基礎が必要。優れた設計も必要。使い勝手も大切。選挙制度の土台は国民主権と一票の価値の平等。この実現は基本設計で決まる。比例代表制を採用すると一票の価値の実現はやりやすい。ところが小選挙区制では四割が八割になるというおかしなことが起こる。これは基本設計のミスだ。構造的な欠陥住宅だと思う。ただ残念なことに欠陥住宅であっても建てられる。しかも仕上がった制度に対して最高裁はダメだとは言えない。最高裁が文句をつけられるのは造作の部分だけで、政治と司法の役割分担では司法が口出しできるのはその範囲なのだ。私たち国民は、基本設計からつくり直さなければいけないという議論を、最高裁に頼らないで、国会といっしょにやらなければいけないと思う。

Q これからの九条の会の運動は、どこを中心にしてやっていったらいいだろうか。A 九条の運動は、やればやるほど、課題が見えてくる。本当に九条を守る、九条が生かせるようとに考えると、原発の問題も、TPPや、税と社会保障の一体化の問題なども見えてくる。 怖いのは教育。国防軍を堂々とつくって、非常事態条項をつくって、ということになると、国民の意識が変わってくると思う。若者の中に国防意識が入り込んでくると怖い。
 安倍さんは教育を先に出そうとしている。まず、受けのいいアベノミクス、次はいじめ問題などを手がかりに教育に取り組むという順序で来ると思う。その動きも、私たちはしっかりと見据えて行く必要がある。
九条の会は、九条改憲に反対という一点で集まっているので、あらゆる課題を全部自分たちの課題として正面きって取り組むのは大変だし、そうすることで離れて行ってしまう人も出てくると思うので、そこは注意が必要だが、学習のテーマとしての取り組みは必要ではないだろうか。

Q アーミテージレポートなど、アメリカから○○レポートが出る度に、動的防衛力や武器輸出三原則の廃止といった圧力がかかってくる。それに対して日本はどう立ち向かうべきだろうか?
A 私たちは立ち上がりの時からアメリカに首根っこを押さえつけられているので、これを変えていくのは大変なことで、その結果沖縄の人たちがひどい目にあっている。
 軍事同盟でも、NATOを結んでいるヨーロッパと私たちの違いは明らかだ。NATOにはかつてアメリカとともに戦った連合国が含まれるし、多国間同盟だから、アメリカの要求に対してヨーロッパ全体で対抗できる。日本の場合は一対一の同盟だから、そういう力関係の下での軍事同盟になってしまっている。そこを変えていく必要があるだろう。アジアだけで軍事同盟をつくるというのではなく、アジアの国々もアメリカもいっしょに巻き込んだ平和な東アジアをつくっていくという多国間の関係に持って行かないと勝負にはならないと思う。

〈4面〉

ベアテさんの「最後の訴え」—娘さんのニコールさんに聞く─
 5月10日(津田ホール、18:20開演)の「ベアテさんの志を受け継ぐ会」に向けて女性「九条の会」の有志で、来日中のニコールさんに面会した。
 ベアテさんは12月30日に膵臓癌のために死去された。その10日前には起きられなくなっていたのだが、ニコールさんを介して朝日新聞の電話インタビューに最後の力を振り絞って応じ、「平和条項は世界のモデルであり、逆戻りをすれば悲劇だ」「憲法を守ってほしい。平和と女性の権利を大切にしてほしい」と強調されたとニコールさんは振り返る。そして「母には一番大切なことをやり遂げたという満足感があったと思う」と少し涙ぐんでおられた。
 集会を開くことについて「それこそが母の望んだことです」と励ましていただいたが、日本人である私たちも、諦めずに改憲阻止の運動をしていかなくてはとの決意を新たにしたひとときだった。                      小沼 稜子  ℡ 3991−7087   


「いのちのために手をつなぐねりまの集い(いのちづな)」が始動      
 
ニュース2月号でお知らせした、仮称「憲法九条を変える議員を増やさないため手をつなぐ区民の会」を作りませんか!の呼び掛けに応え、1月29日の第一回全体会と、2月6日・2月18日の二回の世話人会を経て、3月6日の全体会で「いのちのために手をつなぐ練馬のつどい」略称「いのちづな」として新しい会が発足しました。
 この会は、戦争、憲法9条、原発、雇用、労働、貧困、TPP、環境、食料、人権マイノリティなど、現在を〝国民のいのちが脅かされている時代〟と捉え、危ない政治に〝ノー〟を訴えていく。さまざまな団体と連絡、交流、協働して運動していく。当面の目標は参院選で「九条を守る」議員を一人でも多く当選させることにおく。継続する目標を改憲国民投票が行われた場合に、過半数の「改憲反対票」を集める、としました。                                                報告 大柳武彦  

東ねりま九条の会  田場暁生弁護士(城北法律事務所)の講演会
    「自民党憲法改悪草案」を阻止するのは今だ!

 東ねりま九条の会は、四月六日
(土)豊玉リサイクルセンターで田場暁生弁護士を招いて、「自民党憲法改正草案の狙いは何か」をテーマに緊急学習会を行った。
 今回の「憲法改悪」の最大の問題点は、「国家権力を制限する憲法から国民の権利を制限する憲法」へ変えることだと語り、いくつかの問題点を挙げた。
・ 現行憲法はそもそも「戦前の人々の闘いの結晶であり、国家権力を制限し、国民の権利自由を守るもの」であるし、その平和主義は世界の誇るもので、人権条項の問題でも、「世界で今主流の人権の上位一九項目をすべて満たすのは日本国憲法のみ」であるといわれている。
・ 自民党の改正草案は、この憲法の性格を根本的に否定するものである。基本的人権の解釈も根本的に転換してしまう。「公益及び公の秩序」を害すると判断すると、その活動、結社を禁止するという危険性も持っている。
・ 九六条の改正で政権をとれば、いつでも憲法改正が出来るということと、国民投票は「過半数」から「有効投票の過半数」に変更することを明確化している。
・ 日本経団連は、九条と九六条の二つに絞った改憲を主張し、集団的自衛権の行使を積極的に進めている。特に集団的自衛権は「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力を持って阻止すること」であり、非常に危険だ。
・ アメリカの要求は、自衛隊がイラクにおけるイギリス軍のように戦闘を行うために日本が国を挙げて支援して、実際に「人殺し」に参加しろということ。
このように、自民党政権は、参院選で友党を含めて三分の二を確保して九六条の改正を考えているが、狙いは九条改正であることは明らかで、「鳩山一郎政権以来の憲法を焦点にした選挙」でなんとしても、「憲法を守る」戦いを強めなければならない。と締めくくった。