48号 2013年6月発行

〈1面〉

歴史の真実を今こそ伝えたい~橋下発言を逆手に取って
         

                           黒田貴子(中学校教員・ねりま九条の会会員)

「虐殺や空襲などのことを、戦争という言葉を聞いた時にすぐ連想されるが、若い女の人の身体と心を奪い去ったという事実も忘れてはならないと今日改めて思った。とてもつらい事だけど、次の世へ・・・と伝えていかなければならないことだと思う。」
 この言葉は、「慰安婦」問題を学んだ中学三年生の男子生徒のものです。当時、「慰安婦」問題は、教科書には記述されておらず、九七年にすべての教科書に記述されたのもつかの間「中学生に『従軍慰安婦』問題を教えるな」という異常な攻撃が行われ、中学校歴史教科書から記述は消されました。高校で日本史を選択しない限り、子どもたちがこの問題を学ぶ機会は失われてしまっています。
九一年に金学順さんが名乗り出た後、中央大学の吉見義明教授が軍の関与を示す資料を発表し、政府も独自に調査を行い、九三年の「河野談話」の発表に至ります。河野談話には「歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決してくり返さないという固い決意を改めて表明する」とあります。
 橋下発言の問題点は、歴史の事実の偽造です。まず「他の国もやっていた」という発言。日本軍「慰安婦」制度は、設置計画・女性を集めること・管理など、軍の管理の下に置かれていました。このような例は、ナチス・ドイツと日本以外にはありません。
 次に人権感覚の欠如です。「戦争に『慰安婦』制度は必要だった」という発言については、「慰安婦」制度、そして戦争というものが、いかに女性のみならず男性の性をも貶めるものなのか、という視点がまったく欠けています。
懸念されるのは、安倍政権の歴史認識が、橋下氏と同質なのにも関わらず、橋下発言のあまりの露骨さの陰に隠されてしまうということです。「侵略の定義が定まっていない」「狭義の強制性はない」といった一連の安倍政権の見解こそが橋下発言のバックボーンとなっています。維新の会を見放した有権者の票が、自民党へと流れてしまってはまったく意味がないばかりか危険性はむしろ高まります。
 「慰安婦」問題が全面的に報道されている今、歴史の事実を伝えましょう。冒頭の生徒の言葉にあるように、事実をきちんと受け止める力を子どもたちも持っています。


〈2〜3面〉


憲法審査会傍聴記─一票を託せる議員は? 託せない議員は?

                                       小沼 稜子 (ねりま九条の会会員 桜台在住)

 憲法審査会は、第一次安倍内閣が強行採決で成立させた「国民投票法」を受けて、二〇〇七に衆参両院につくられたものです。メンバーは現在五〇人(自民三一人・民主六人・維新六人・公明三人・みんな二人・共産一人・生活一人)社民党は、一二月の政権交代後ゼロとなりました。二〇一一年に三回、二〇一二年には九回開かれ、二〇一三年の審査会は三月から始まり毎週開かれています。自民党は三一人といっても、毎回半数以上が欠席、堂々と眠る姿もちらほらです。
 私たちは学習会を積み重ねており、自民党改正案に多くの問題があることを知っていますが、実際に傍聴をしてみると、自民党議員がいかに勉強をしていないか、そして右傾化しているかを嫌というほど感じます。
 本当は、毎回飛び出す問題発言を全部報告したいのですが、ここでは紙面の関係で一部だけ報告させていただきます。

■「天皇崇拝」の目的は?
 「我が国は天皇をいただく国家」から始まる自民党改正案には、 「天皇を元首に」「君が代・日の丸の尊重義務」「国防軍の創設」「公益に反する結社・集会の禁止」「国民の憲法遵守義務」など、戦前回帰そのものの内容になっていますが、右傾化した自民党や維新の会からは耳を疑う発言が続きます。現在会長をつとめる保利耕輔氏は司会役のために発言ができないでいますが、昨年は、第一章(天皇)のところで、「天皇陛下について議論すること自体、大変恐れ多いことでございます」、第三章の二四条に「家族に関する定義」を入れるという改憲案に関して、「こういう徳目条項については、教育勅語の中にうまく表現されている。教育勅語と明治憲法というのはセットになって、何とも言えないいい感じを出している」など、明治時代に戻るべきだと言わんばかりの発言をしていました。
 天皇に関しては、他の自民党議員
からも、「天皇陛下は、国民統合のあらわれとして、尊崇する、仰ぎ見る御存在」といった発言がポンポン出てきます。維新の会、みんなの党も「天皇元首」に賛成。公明党と生活の党は「天皇元首」は認めるが、憲法に明記する必要はないという立場をとります。
 「日の丸・君が代」の憲法への明記についても、維新、みんなの党は賛成します。共産党の笠井氏は「国旗・国歌法の制定時には小渕総理や野中官房長官、有馬文部大臣も、強制はしない、教職員が内心の自由に従って行動するのはやむを得ないという答弁を繰り返していた。それを憲法に明記するのは強制以外の何ものでもない」と反対、社民党の照屋氏は沖縄の立場から反対(二〇一二)しますが、二〇一三年は議員数の減少により、審査会には参加できなくなってしまいました。

■許していいの?「軍事力あっての外交だ!」発言
 第二章(戦争の放棄)の審査にあ
たって、冒頭、自民党の中谷氏(自衛隊出身)は「世界中、どこをさがしても軍隊のない国はない」、また、「敵基地攻撃を目的とした装備の必要性や、同盟国(アメリカ)へのミサイル攻撃に対処するための集団的自衛権を容認するかどうかを議論すべきである」と発言します。中国や北朝鮮の基地を攻撃したら、次に何が起こるのかを想像しただけでぞっとしますが、自衛隊はそんなことを本気で考えているようです。
 維新の会の馬場氏は「現在、国民に広がっている領土不安の根本原因は憲法九条にある」として「自衛のための戦力保持を憲法に明確に定め、首相の指揮監督権を明記すべきだ」と発言、みんなの党も「九条に自衛権を明記すべきだ」と主張します。
 自民党憲法改正草案のQ&Aには、「九 条一 項で禁止されるのは「戦争」及び侵略目的による武力行使のみであり、自衛権の行使や国際機関による制裁措置は、禁止されていない」と書いています。自民党の土屋氏は「一%でも核の先制攻撃があるかもしれないという具体的脅威にどう備えるかが国会の責任。理念の問題にすり替えてはならない」と、北朝鮮問題を利用して軍事力の増強を主張します。
 集団的自衛権については、「国際貢献である」と主張、自民党の船田氏は「抑制的な集団的自衛権」などと発言して、公明党から「日本が行ってきた行為を忘れてはならない。〝抑制的な〟というが、これまでの人類の歴史は抑制が効かないことが多かった。慎重な議論が必要」と反論されます。民主党の山口氏からは「今後、西洋から東洋に世界の重心が移り、軍事力・財力でなく、文化・伝統といったものに期待が集まるこの時代に、九条改正が今必要なのか、 慎重に考えた方がよい」という意見が出ましたが、これが民主党の総意であることを祈りたい気持ちです。
 ただし、自衛隊の海外派兵を「国際的な平和活動」であるとして憲法に明記したいという意見は、共産党以外のどの党からも出されているのです。

■許していいの?「憲法が国民をわがままにした」発言
 第三章(国民の権利及び義務)の審査で、自民党の柴山氏は「憲法の中に基本的人権、国民の権利、法のもとの平等などがうたわれた結果、人権とか権利の色合いが余りにも強く、国家としてのまとまりが弱くなっている。また、国民がわがままになり義務や責務を軽視する風潮が見られる」。保利氏は「自由や権利を主張するには、その裏には責任がある。必ず、その責任や義務というものを考える癖をつけていかなきゃならぬ」と言います。(共に二〇一二年)。この手の発言は結構多いのです。

■まやかし発言!「国民投票こそ民主的」
 第九章(改正)の審査日は傍聴者が一〇〇名を超えていました。自民党の言い分は、「三分の一の反対で憲法改正の発議ができないのではハードルが高すぎる。発議のハードルを下げて、国民的議論を高め、その上で国民投票を行って決定するのが、最も民主的な方法である」というもので、騙されやすいいい方です。悪知恵のある人がバックにいるのですね。
 しかし、国民投票法は安倍内閣が強行採決で通したもので、メディア規制と同時に、公務員や教育者の言動も封じ込められ、これらが犯罪行為と規定されてしまうという民意どころではない代物だということを私たちは知っています。また、たとえ民意を反映したものであっても、人権や平和というものは、多数意見だからといって破っていいものではない筈です。
 維新は自民党案に賛成ですが、みんなの党は「ハードルを下げることには賛成だが、安倍さんと同じに扱われては困る」と不思議な発言をしていました。
 「憲法改正は、国民からここを変えるべきであるという声が上がってはじめて検討するべきものであって、権力の側が提案するのは近代立憲主義に反する」と民主党の辻元清美氏は主張、共産党の笠井氏も「憲法は権力の暴走を抑えるために、国民が権力を縛るものである。時の権力者が自らに都合よく憲法を改定することを防ぐために、憲法改定の要件は通常の法律よりも厳格に定められている。発議要件の引下げは、憲法の根本精神の否定である。」と近代立憲主義を全面に押し出して対抗します。生活の党の鈴木氏は「総理が憲法改正を主張する議員連盟の役員
に名を連ねるのは九九条違反ではないか」と発言、公明党も「九六条先行改正は慎重であるべき」と言いますが、自民党と連立を組む公明党が、どれだけ自説を通せるのか不安を感じざるをえません。

■歴史を知らない議員たち
 自民党は「現行の前文は、日本らしさがなく国籍不明。翻訳調で国民にとって読みにくく、なじみにくい。内容は米国憲法や国連憲章、リンカーン演説等の文言のつぎはぎである」と鬼の首を取ったように、とうとう並べ立てます。
 共産党の笠井氏が「日本国憲法は、我が国が侵略戦争や植民地支配を行って断罪されたという状況下で制定された事実を踏まえる必要がある」と述べると。自民党の西川京子氏が、「太平洋戦争を侵略戦争と決め付けた上で現行憲法を論じるのは明らかな誤りである。〝侵略〟という定義自体、学説上はっきりしていない」と無知ぶりを発揮する一コマもありました。
 歴史を知らない、憲法の意味もしらない、そんな議員を国民は国会に送っていたのです。

 

〈4面〉 お知らせ
96条どうする?ねりま 6・30アクション ─ 今まさに「憲法」の危機!─
 憲法改悪に先行して「96条」を改悪しようとの野望が権力を有する側から出されました。憲法の真髄である立憲主義を否定し、又「国民主権・平和主義・基本的人権」を基調とした憲法を根底から破壊するものとして「これを許してはならない」と改憲派の人達も含めた多くの層の市民・学者・団体から声が上がり反対運動が各地に広がっています。
ここ練馬にも「96条を変えさせない」一点にしぼった「96条どうする?ねりま」という市民によるネットワークがつくられました。
 憲法九条を守ろうと「ねりま九条の会」に結集した私たちは96条を変えさせるわけにはいきません。
「96条」を改悪しょうとする勢力に対して、私たちも九条の会の枠に留まらずより幅広く多くの人と手を携え野望に立ち向かわなければ勝ち目はありません。
「96条を変えさせない」ネットワークでは、多くの区民のみなさんに「憲法と96条の危機」を知らせるために、6月30日に、集会とパレードを行います。詳しくは同封のチラシをお読み下さい。
 5月に行われた学習会(田中 隆弁護士)の冊子(現行憲法・自民党草案対照表付き)をテキストに地域で憲法小集会を開くのも一案です。また6月25日には「日本の青空」の上映もあり身近な方のお誘いも出来ます。
そして参議院議員選挙で「96条を変えさせない」議員を沢山送り出しましょう。
参議院議員選挙まであと1カ月、この正念場、悔いを残すことのない頑張りをしましょう。

講演会のおしらせ

①第22回 何よりも人と自然を大切にする練馬区をめざす区民集会
アベノミクスはアベノマジック?!
    講演  米田貢氏(中央大学経済学部教授)

          入場無料

日時 7月1日(月) 午後6時30分より  会場 練馬区職員研修所2階研修室     
 
主催 何よりも人と自然を大切にする練馬区をめざす区民集会実行委員会
 連絡先 練馬区職員労働組合 03-3993-5405



②参議院選を前にして考えること

講師   中央大学経済学部教授  和田春樹教授
和田先生のお話しの後、先生を囲んで、社会の現状や参議院選挙について皆で語り合いましょう。

日時 7月4日(月) 午後6時30分より  会場 勤労福祉会館 大会議室

          入参加費400円

 主催 公共研究会  3922-5892(暉峻)・5387ー6735(山川)・3921ー6440(片岡)