「なにこれ!日米地位協定とは」2回目

   講師  稲 正樹さん       

A 空の主権喪失

  第6条(航空・通信の体系、航空・⾶⾏施設に関する協⼒

「1 すべての⾮軍⽤及び軍⽤の航空交通管理及び通信の体系は、緊密に協調して発達を図るものとし、かつ、集団安全保障の利益を達成するため必要な程度に整合するものとする。この協調及び整合を図るため必要な⼿続及びそれに対するその後の変更は、両政府の当局間の取極によつて 定める。」
 ⽇⽶合同員会の「航空交通管制に関する合意」(1975年)で、「⽇本政府は、⽶国政府が地位協定に基づきその使⽤を認められている⾶⾏場およびその周辺において引続き管制業務を⾏うことを認める」としている。詳しくは、吉⽥敏浩『横⽥空域−⽇⽶合同委員会でつくられた空の壁』⾓川新書、 2019年を参照。
 ○都⽴⻘⼭公園に接する⽶軍基地「⾚坂プレス・センター」内の六本⽊ヘリポート基地(⿇布⽶軍ヘリ基地)。横⽥(在⽇⽶軍司令部、在⽇⽶空軍司令部)・座間(在⽇⽶陸軍司令部)・横須賀(在⽇⽶海軍司令部)・厚⽊など⾸都圏の⽶軍基地から軍⽤ヘリが⾶来。

 ○ 横⽥進⼊管制空域(ヨコタ・レーダー・アプローチ・コントロール=横⽥ラプコン)東京、神奈川、埼⽟、群⾺のほぼ全域、栃⽊、新潟、⻑野、⼭梨、静岡の⼀部、福島のごく⼀部の⼀都九県に及ぶ、南北で最⻑約300キロ、東⻄で最⻑約120キロの上空をすっぽり覆っている。最⾼⾼度約7000メートルから、約5500、約4900、約4250、約3650、約2450メートルまで、階段状に6段階の⾼度区分で⽴体的に設定されている巨⼤な「空の壁・塊」。
岩国ラプコン 嘉⼿納ラプコン

 

 

*⽇弁連が2014年10⽉に発表した「⽇⽶地位協定の改定を求めて」の「交通関係」の改正提⾔

  1. 航空管制業務に関して、⽶軍は提供施設の⾶⾏場管制のみを⾏うものと明記し、それ以外の航空交通管制業務は⽇本が⾏うこととすべきこと。
  2. 航空法特例法を改正し、少なくとも最低安全⾼度の遵守、曲技⾶⾏の禁⽌等安全性確保のための最低限の規制は⽶軍に対しても及ぼすべきこと

【現行規定】

  1. 地位協定第6条では、全ての⾮軍⽤及び軍⽤の航空交通管理及び通信の体系は、「緊密に協調して」 発達を図る等と定めています。
  2. これに関連する航空法特例法では、⽶軍に対し、 航空の安全を確保する重要条項(耐空証明、⾶⾏場 ・航空保安施設の設置、航空機の運航に関する第6章等)のほとんどが適⽤除外されています。

【問題の所在】

  1. ⽶軍による航空交通管制の問題

現在⽶軍は、横⽥、岩国、嘉⼿納、普天間の4カ所の航空基地で⾶⾏場管制業務(離着陸する航空機を管制する)の他、横⽥進⼊空域(厚⽊を含む)と 岩国の進⼊空域の進⼊管制業務(空路間を結ぶターミナル空域を管制する)を⾏っています。
⽶軍による進⼊管制空域の存在は、⺠間機の⾶⾏コース設定への制約となるとともに、進⼊管制が錯綜するなどしているため、衝突事故にもつながりかねません。
とりわけ横⽥進⼊管制区(横⽥空域)は、1都6県の上空最⾼7000mに⾄る広⼤な空域を占め、 「⻄ の壁」を作っています。⺠間機は横⽥空域を⾶⾏できないため、⽻⽥・成⽥空港の、特に⻄⽇本⽅⾯への離着陸コースの設定等に⼤きな制約を及ぼしています。2008年9⽉の⽻⽥空港D滑⾛路開設時には、横⽥空域東端の管制が⽇本側に部分返還され、例えば⽻⽥−福岡便は4分の短縮が実現したといいます。しかし、これも抜本的な改善といえず、 ⽻⽥等での航空需要増加に伴う増便への制約となり続けています。

  1. 航空法特例法の問題

⽶軍機への多くの航空法の規定の適⽤除外は、運航の安全性に問題を⽣じさせるものです。
〔最低安全⾼度〕航空法81条・同施⾏規則174条は、国際⺠間航空機関(ICAO)の基準に準じて、⼈⼝密集地で300m、それ以外の場所で150mという最低安全⾼度を定めています。 ⽶軍機にはその適⽤が除外されているため、⽇本全国の⼭間地や海上などで低空⾶⾏訓練が実施されています。この訓練では、時速800㎞での低空⾶⾏訓練中の⽶軍艦載機A6が⾼知県の早明浦ダム湖⾯に墜落したり(1994年
10⽉)、奈良県⼗津川村で⽶軍機が⽊材運搬⽤のワイヤーロープを切断する(1987年8⽉と1991年10⽉)という事故も発⽣しています。 ⼀⽅、⽶軍機がロープウェーのケーブルを切断す 重⼤事故が発⽣したイタリアでは、事故後、周辺地域の最低⾼度を2000フィート
(600m)に引き上げる措置が採られました。
〔曲技⾶⾏〕 航空法91条は曲技⾶⾏等の場所と条件を規制していますが、⽶軍への適⽤は除外されています。

【改正提言の理由】

  1. 航空管制権の帰属について 航空の安全確保のためには⼀元的な航空管制が重要であり、⽶軍に対し進⼊管制を委ねる合理的理由はありません。その存在は⺠間航空交通に深刻な影響も与えています。

よって、⽶軍が⾏っている進⼊管制はすべて⽇本側に返還すべきです。

  1. 航空法特例法の改定

ドイツ補⾜協定46条2項は、NATO軍の演習や訓練にあたってはドイツ国内法の適⽤を前提としています。これに対し、わが国の航空法特例法は、 地位協定による施設・区域提供に伴うやむを得ない範囲を逸脱した広範な適⽤除外を定めており、航空交通の安全に⽀障を⽣じさせかねません。同特例法を改正し、少なくとも最低安全⾼度の遵守、曲技⾶⾏の禁⽌等安全性確保のための最低限の規制は⽶軍 に対しても及ぼすべきです。

 

B 国内における米国軍人の実数は不明

 第9条2項「合衆国軍隊の構成員は、旅券及び査証に関する⽇本国の法令の適⽤から除外される。合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、外国⼈の登録及び管理に関する⽇本国の法令の適 ⽤から除外される」
第9条のポイント:⽶軍⼈は旅券・査証なしで⼊国できる。⽶軍⼈・軍属・家族は外国⼈登録・管理の対象外となる。⽶軍⼈は⽇本への出⼊国にあたり、⾝分証明書・旅⾏命令書を携帯する。
○2014年以降基地外に居住する⽶軍構成員の市町村ごとの⼈数が⾮公表になる。横須賀市。北⾕町。
○検疫についての規定もない。  *「在沖⽶軍の実効ある新型コロナウイルス感染防⽌対策を求める意⾒書」
 県⺠が⼀丸となって新型コロナウイルス感染防⽌に取り組む中、在沖⽶軍で新型コロナウイルスの感染者が急増している。県の発表によると、7⽉ 29 ⽇までの在沖⽶軍の感染者数は、普天間基地(宜野湾市)108 ⼈、キャンプ・ハンセン(⾦武町、宜野座村、恩納村、名護市)120 ⼈、キャンプ・ マクトリアス(うるま市)1⼈、嘉⼿納基地(嘉⼿納町、北⾕町、沖縄市)8 ⼈、キャンプ・フォ スター(北⾕町、北中城村、宜野湾市、沖縄市)2⼈、キャンプ・キンザー(浦添市)1⼈の計 240 ⼈となっている。
 県内では在沖⽶軍由来が疑われる県⺠への新型コロナ感染も発⽣し、基地従業員をはじめ、基地周辺住⺠や県⺠の不安と恐怖が⾼まり、県⺠⽣活と観光・経済活動等への悪影響が広がっている。
 在沖⽶軍は基地内だけでなく、約 3 分の 1 の関係者(軍⼈、軍属、家族等)が基地外で⽣活している。基地内であれば基地従業員との接触、基地外であれば県⺠等と接触している可能性が⾼く、本市の飲⾷街等にも⽶軍関係者が出⼊りしている。然るに、⽶軍関係者の感染者は感染経路も、基地の外での⾏動履歴、濃厚接触者への措置、基地内外の居住状況等も明らかにされていない。規準が明確でない中での⽶軍関係者の⾏動規制緩和は許されるものではない。
 現在、⽇本はコロナの⽔際対策として、世界最⼤の感染国である⽶国からの⼊国を原則禁⽌して いる。しかし、⽶軍基地を経由した⽶軍関係者の⼊国は、⽇本側の検疫を受けずに⾃由であり、このことが今回の感染者の急増につながっていると感染症専⾨家は指摘している。
 よって、本市議会は市⺠・県⺠の命と⽣活、観光と経済活動等を守るために、実効ある新型コロナウイルス感染拡⼤防⽌へ、関係機関が下記事項を速やかに措置されるよう強く要請する。

                      記

  1. 基地外居住を含む全ての⽶軍関係者の感染経路、⾏動履歴、居住実態等の情報を迅速に開⽰すること。
  2. 感染者と接触した可能性のある全ての県⺠等に対し、速やかに検査を実施すること。
  3. 基地外居住を含む全ての⽶軍関係者の感染防⽌対策・検査を徹底し、感染者・濃厚接触者の基地内隔離を⾏うとともに、感染が収束するまで、⽶軍関係者の移動・外出を原則禁⽌とすること。
  4. ⽇本⼈基地従業員の感染防⽌対策・検査を徹底し、健康、安全を確保するとともに休業の際の補償を⾏うこと。
  5. 国・県・⽶軍及び関係市町村による対策本部を設置し、各関係機関が連携して実効ある感染防⽌対策を実施するとともに、感染状況や対応策等の情報を迅速に公開すること。
  6. ⽶軍関係者の⼊国に際しては⼀定期間の隔離とともにPCR検査の実施を徹底すること。
  7. 感染が収束するまで、⽶軍基地を経由した⽇本への⼊国については、安全保障上可能な限り原則禁

⽌とすること。

  1. ⽇⽶地位協定を抜本的に改定し、検疫法等の国内法を適⽤すること。

 以上、地⽅⾃治法第 99 条の規定により意⾒書を提出する。
                                 令和2年(2020 年) 7⽉ 30 ⽇     那 覇 市 議 会

あて先:内閣総理⼤⾂、衆議院議⻑、参議院議⻑、新型コロナウイルス感染症対策担当⼤⾂、 外務⼤⾂、防衛⼤⾂、沖縄及び北⽅対策担当⼤⾂、沖縄県知事


C 第10条〜第13条について

第10条 ⽶軍⼈などの運転免許の効⼒についての取り決め第11条 「関税・税関検査の免除」と特権乱⽤防⽌についての取り決め第12条 ⽶軍の資材の調達や免税、労務問題についての取り決。
第13条 「⽶軍への課税の免除」についての取り決め
 ⽶軍関係者の⾞ 免停なし ⾃動⾞税も格安
 交通違反をしても、免許の停⽌や取り消し処分を受けない。税⾦を納める義務も免除される‒‒‒こうした⽶軍関係者の私有⾞を⽰す
「Yナンバー⾞」は全国で約5万5000台にのぼる。地位協定10条1項は、⽶国が軍⼈、軍属、その家族に対して発給した運転免許証を「運転者試験⼜は⼿数料を課さないで、有効なものとして承認する」と規定。2009年には、運転免許証の取り消し、停⽌もできないという答弁書を閣議決定。⾃動⾞税も格安。沖縄、年間7億円近く税収減。  ⽇⽶地位協定による⽶軍への税⾦免除はさらに多岐にわたっている。

 11条 ⽶軍⼈、軍属とその家族の引っ越し荷物と携⾏品や、⽶軍の公認調達機関が⽶軍の公⽤に使⽤するため輸⼊する物品などへの課税が免除。⽶国軍事郵便を通じて⽇本に輸送される⾐類や家庭⽤品も⾮課税。
 11条5項 ⽶軍部隊、軍事貨物や公⽤郵便物は税関検査の必要がないと明記。
 12条3項 ⽶軍や⽶軍の調達機関が⽇本国内で調達する物品、役務について、物品税、通⾏税、電気ガス税、揮発油税を免除。
 13条1項 国税の法⼈税、所得税、地⽅税の不動産取得税、都市計画税などの「公租公課」が免除。
 規定を拡⼤解釈、NHKの放送受信料を払わず。


D あいまいな「軍属」の範囲:第1条、第14条について

1条、14条のポイント: 軍属の定義があいまいで、⽶軍と契約する企業の被⽤者まで軍属として地位協定上の特権を与えている。
2016年4⽉に沖縄県うるま市で、元⽶海兵隊員(当時軍属)による強姦致死殺⼈よび死体遺棄が発⽣。県⺠に激しい怒りが広がり、⽶軍⼈・軍属に特権を与える⽇⽶地位協定の抜本改定を求める声が⾼まった。加害者の男は本来軍属に属していないのに軍属に地位を得ていたことから、⽇⽶両政府は軍属の範囲を「明確化」する補⾜協定を2017年1⽉に締結。しかし、問題はなんら解決されていない。
 1条は軍属について、「合衆国の国籍を有する⽂⺠で⽇本国にある合衆国軍隊に雇⽤され、これ に勤務し⼜はこれに随伴するもの(通常⽇本国に居住する者及び第14条1に掲げる者を除く)」としている。⽶軍に雇⽤されていなくても、勤務したり、随伴したりする者でも軍属とされるなど幅広い解釈が可能。⽶軍が監督責任を負う雇⽤関係になくても、⽶軍と契約する企業(コントラクター)の被⽤者さえ軍属に含めている。NATO軍地位協定では、軍属を「締約国の軍隊に随伴する⽂⺠であり。その締約国の軍隊に雇⽤されている者」と明確に定義している、
 ⼀⽅、14条では「特殊契約者」の規定を設け、⽶軍の業務のため⽶政府と契約している⺠間業者を軍属と区別している。軍属であれば「公務中」に犯罪を犯しても、⽶側が第1次裁判権を握るなどの特権を与えられるが、14条該当者にはこの特権はなく、基本的には「⽇本国の法令に服」すことが明記されている。
 うるま市の事件の元海兵隊員は、嘉⼿納基地内でインターネット関連会社の社員として勤務しており、14条に該当するはずだった。しかし、軍属の地位を与えられていた。
補⾜協定では、こうした問題を解決し、軍属の範囲を「明確化」するとされている。補⾜協定に基づく⽇⽶合同委員会合意では、軍属として認定される種別として、⽶政府予算で雇⽤される⽂⺠、合同委員会によって特に認められる者など8項⽬を列挙。ただ今回問題になったコントラクターの被⽤者については、⽇⽶両政府が適格性の評価基準の作成を合同委員会に指⽰するものの、評価⾃体は⽶側が⾏う。つまり、⽶側しだい。

E 刑事裁判権

⽶兵犯罪 捌けぬ⽇本前泊博盛(編著)『本当は憲法より⼤切な⽇⽶地位協定⼊⾨』(創元社、2013 年) Q&A 8 どうして⽶兵が犯罪を犯しても罰せられないのですか?
 ⽇⽶地位協定によって、⽶兵が公務中(仕事中)の場合、どんな罪をおかしても⽇本側が裁くことはできない取り決めになっているからです。
 次に公務中でなくても、⽇本の警察に逮捕される前に基地に逃げ込んでしまえば、逮捕することは⾮常に難しくなります。
 最後に、基地に逃げ込む前に逮捕できたとしても、ほとんどの事件において⽇本側は裁判権を放棄するという密約が、⽇⽶間で交わされているからです。
⽇⽶地位協定が保証する「現代の治外法権」  ⽶兵犯罪の問題について、もともとの⽇⽶⾏政協定ではつぎのように決められていた。
 第17条2項「[NATO地位協定が発効するまでのあいだ]合衆国の軍事裁判所及び当局は、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族(⽇本の国籍のみを有するそれらの家族を除く。)が⽇本国内で犯すすべての罪について、専属的裁判権を⽇本国内で⾏使する権利を有する。この裁判権は、いつでも合衆国が放棄することができる。」→家族も含めて、⽶軍関係者全員のありとあらゆる犯罪について、裁判権は⽶軍側にあり⽇本側にはない。⽂字通りの治外法権。明治初期の不平等条約とまったく同じ内容。
 第17条3項(a)「⽇本国の当局は、合衆国軍隊が使⽤する施設及び区域外において、合衆国軍隊の構成員若しくは軍属⼜はそれらの家族を犯罪の既遂⼜は未遂について逮捕することができる。しかし、逮捕した場合には、逮捕された⼀⼜は⼆以上の個⼈を直ちに合衆国軍隊に引き渡さなければならない。」→⽇本の警察は、基地の外なら罪をおかした⽶軍関係者をつかまめることはできるが、取り調べをすることも裁判をすることもできない、すぐに⽶軍側に引き渡せという規定。

 これはあまりにもひどいということで、NATOの地位協定が発効したら、それに準じて⽇⽶⾏政協定の17条も改定するという約束になっていた。そして、事実、1953年9⽉に改定され、その条⽂はそのまま1960年の⽇⽶地位協定に引き継がれた。
 ⽇⽶地位協定17条3項(a)「合衆国の軍当局は、次の罪については、合衆国軍隊の構成員⼜は軍属に対して裁判権を⾏使する第⼀次の権利を有する。 (ii ) 公務執⾏中の作為⼜は不作為から⽣ずる罪」
 ⽇⽶地位協定17条5項(c) 「⽇本国が裁判権を⾏使すべき合衆国軍隊の構成員⼜は軍属たる被疑者の拘禁は、その者の⾝柄が合衆国の⼿中にあるときは、⽇本国により公訴が提起されるまでの間、合衆国が引き続き⾏なうものとする。」

どう変わったのか。1953年以降は、
 ○公務中(仕事中)の犯罪については、すべて⽶軍側が裁判権をもつ。
 ○公務中でない犯罪については⽇本側が裁判権をもつが、(犯⼈が基地内に逃げ込んだりして)犯⼈の⾝柄がアメリカ側にあるときは、⽇本側が起訴するまで引き渡さなくてもよい、となった。
 しかし、2008年に新原昭治が発⾒したアメリカの公⽂書によって、⽇⽶⾏政協定17条が改定された直後の1953年10⽉28⽇、⽇⽶合同委員会の⾮公開議事録で、⽇本側は事実上、⽶軍関係者についての裁判権を放棄するという密約が結ばれていたことがわかった。=「⽇本の当局は通常、合衆国軍隊の構成員、軍属、あるいは⽶軍法に服するそれらの家族に対し、⽇本にとって著しく重要と考えられる事件以外については第⼀次裁判権を⾏使するつもりがない。」 
 この密約によって、⾏政協定で⽶軍関係者に保証されていた「治外法権」が事実上継続することになった。そしてそれはいまでも続いている。

17条のポイント
○⽶軍関係者の「公務中」の犯罪は⽶軍が、「公務外」は⽇本側が第1次裁判権をもつ。
○⽇本側が裁判権をもつ場合でも被疑者の⾝柄が⽶側にあるときは、⽇本が起訴するまで⽶側が⾝柄を拘束
〈しんぶん赤旗2018.1.8主張〉
⽇本での⽶兵犯罪 起訴率2割未満は異常すぎる
 2017年の1年間に⽇本国内で発⽣した⽶軍関係者(⽶兵、軍属、それらの家族)による⼀般刑法犯の起訴率が約17%にとどまり、8割超が不起訴処分になっていることが、⽇本平和委員会が法務省への情報公開請求で⼊⼿した資料で分かりました。全国の⼀般刑法犯の起訴率約38%(16年)の半分以下という異常さです。⽶軍関係者による犯罪が後を絶たない背景となっている不当な特権的扱いは直ちにやめるべきです。
裁判権放棄の「密約」今も
 法務省が開⽰したのは「平成29年分合衆国軍隊構成員等犯罪事件⼈員調」と題する統計資料です。平和委員会が今⽉上旬発表しました。それによると、17年の⽶軍関係者による⼀般刑法犯(刑法犯全体から⾃動⾞による過失致死傷などを除く)は、起訴15件に対して不起訴が72件にも上っています。  重⼤なのは、「強制わいせつ」(4件)「強制性交等」(3件)「住居侵⼊」(8件)「暴⾏」(2件)「横領」(2件)「毀棄(きき)・隠匿」(5件)で全て不起訴になっていることです。「窃盗」も32件中30件が不起訴です。⼀般刑法犯ではない「⾃動⾞による過失致死傷」でも169件中145件が不起訴となっており、起訴率は約14%にすぎません。
 ⽇本⼈などと⽐べ⽶軍関係者の起訴率が極めて低くなっているのは、⽇⽶地位協定17条に関する「密約」があるからです。
 地位協定は、⽇⽶安保条約に基づく在⽇⽶軍の法的地位などを定めています。17条は刑事裁判権について規定し、⽶兵や軍属の「公務外」での犯罪は⽇本側に第1次裁判権があるとしています。ところが、⽇本政府は同規定に関し「⽇本国にとって実質的に重要であると考えられる事件以外」については⽶兵、軍属、家族に対し「第1次の権利を⾏使する意図を通常有しない」と⽶政府に秘密裏に約束していました(1953年)。⽇本側の第1次裁判権の⼤部分を放棄する「密約」に他なりません。 
 ⽇⽶両政府は2011年、この「密約」⽂書をようやく公表します。その際、⽂書に記録されているのは、⽇本側の「⼀⽅的な政策的発⾔」であり、⽇⽶間の合意ではなかったと、「密約」だったことを否定しました。その上で、現在の犯罪については⽶軍関係者とそれ以外の場合で起訴・不起訴の判断に差はないと主張しています。
 しかし、⽶軍関係者による犯罪の極めて低い起訴率は、裁判権放棄の「密約」が今も効⼒を持っていることを明瞭に⽰しています。ごまかしは通⽤しません。
 ⽇⽶地位協定17条をめぐっては、「公務中」の⽶兵や軍属が起こした犯罪の場合は、そもそも第1次裁判権は⽇本側になく、⽶側にあるという問題もあります。平和委員会が⼊⼿した統計資料によると、「⾃動⾞による過失致死傷」で⽇本に第1次裁判権のあった169件とは別に、「公務中」に起きたものが46件あり、全て不起訴になっています。

地位協定の抜本的改定:
※⽇弁連の「刑事責任」に関する地位協定の改正提⾔

  1. ⽶軍構成員・軍属(以下、「⽶兵等」という。)が公務外で犯罪を犯したときには、⽶兵等が⽶軍基地内にいるときでも、起訴前に⽇本国の当局が⾝体拘束できるようにすること。
  2. 犯罪が「公務執⾏中」⾏われたか否かの認定について、⽇本国の捜査機関及び裁判所があらゆる証拠に基づいて総合的に判断できることを明確にすること。
  3. 「公務執⾏中」でない、出勤途中・帰宅途中の⽶兵等の犯罪⾏為は公務外と取り扱うこと。よって、これを「公務中」とする⽇⽶合同委員会合意や法務省通達は破棄されるべきこと。
  4. ⽶軍属が犯した犯罪については、合衆国連邦最⾼裁判決によれば、平時に軍属を軍法会議にかけることは憲法違反とされているため、公務執⾏中であっても、⽶国ではなく⽇本国が裁判権を有するものとすること。
  5. ⽇本側に第⼀次裁判権があっても、⽇本国にとって著しく重要と考えられる犯罪についてのみ裁判権を⾏使するとの⽇⽶合意(密約)及び法務省通達を破棄して、⽇本国が⽶兵等に対する刑事裁判⼿続を⾏うようにすること。
  6. ⽶軍基地外での⽶軍機の墜落事故が発⽣した場合、⽇本国の当局が墜落現場の統制を⾏い、航空機、部品等に対する捜索、差押え⼜は検証を⾏う権限を明記すること。

【現行規定】

  1. ⽶兵等が公務外で犯罪を犯した場合(⽇本側に第⼀次裁判権がある)でも、⽶兵等が⽶軍基地内にい るときは、その⾝体は、起訴されるまで⽇本側に移されません(地位協定17条5項(c))。
  2. 地位協定17条3項(a)(ii)に定める「公務執⾏中」の認定は、⽶軍の「公務証明書」をもって⼗分な証拠資料とされています(合意議事録、合意事項43)。
  3. 地位協定17条、3項(a)(ii)は「公務執⾏中の作為⼜は不作為から⽣ずる犯罪」は⽶軍が第⼀ 次裁判権を持つと定めます。しかし、出勤途中や帰宅途中の⽶兵等の犯罪⾏為は、「公務執⾏中」になされた

とみなされています(1956年3⽉28⽇付け⽇⽶合同委員会合意、同年4⽉11⽇付け法務省通達)。

  1. 公務執⾏中の⽶軍属に対する第⼀次裁判権は、地位協定上、⽶軍側にあるとされています(地位協定 17条3項(a) (ii))。
  2. 公務外の⽶兵等の犯罪は、⽇本側が第⼀次裁判権を持つとされていますが(地位協定17条3項 (b))、

1953年10⽉28⽇付けの⽇⽶合意 (密約)において、⽇本国にとって著しく重要と考えられる事例以外は、第⼀次裁判権を⾏使するつもりがないとされており、同年10⽉7⽇付けの法務省通達においても同様の意思が表明されています。

  1. ⽶軍基地外で⽶軍機墜落事故が起きた場合、⽶軍は、事前の承認なくして、私有地に⽴ち⼊ることができます(合意事項20、1959年7⽉14⽇付け法務省通達)。

⽶軍の財産について、⽶軍の同意がない限り、⽇本国の当局が捜索、差押え⼜は検証を⾏う権限はありません(合意議事録)。

全土基地方式(全土基地化)=日本国内のどんな場所でも、もし米軍が必要だと言えば、米軍基地 にすることができるという取り決め。完全な属国か植民地以外、そのような条約が結ばれることはあ りえない。どんな国と国との条約でも、協定を結んで他国に軍隊が駐留するときは、場所や基地の名 をはっきりと明記するのが当然。もちろんアメリカも、日本以外の国と結んだ協定ではそうしている。 米軍が使用できる基地は具体的に付属文書のなかに明記。ところが日本の場合だけは、それが明記 (=限定)されておらず、米軍がどうしても必要だと主張したとき、日本側に拒否する権利はない。そ の法的根拠となっているのが、講和条約と同じ1952年4月に発効した旧安保条約と日米行政協定(のち の日米地位協定)。この旧安保条約と、その第3条に基づいて結ばれた日米行政協定によって、「看 板だけは掛け替えられたが、実質的には軍事占領状態が継続した」。これが1952年の日本独立の正体。

【問題の所在と改正提言の理由】

現⾏地位協定やその運⽤では、公務執⾏中に⾏われた犯罪(例えば、訓練中の⽶兵による⽇本⼈の狙撃や誤射、交通事故による死傷など)については第⼀次裁判権が⽶国にあり、公務外に⾏われた犯罪 (例えば、⾮番⽶兵による強盗・強姦・殺⼈事件、 交通事故による死傷など)は⽇本側に第⼀次裁判権があります。
しかし、⾝柄確保の問題や公務執⾏中か否かの認定の問題、⽇本側に第⼀次裁判権がある犯罪につい て起訴するための時間に制約がある、など刑事的な特権が⽶兵等に認められています。この特権をなくして、⽇本国が⽶兵等に対し通常の刑事事件と同様に捜査や裁判の⼿続を⾏うべきです。

  1. 1995年の沖縄少⼥暴⾏事件では、地位協定上、 ⽇本側に第⼀次裁判権がありましたが、⽶軍基地内にいる⽶兵等の⾝体を⽇本側が拘束できず、結局被疑者⽶兵等の⾝体が起訴されるまで⽇本側に移されなかったため、批判が⾼まりました。その後、運⽤改善がなされましたが、しかし、⽶国側の「好意的な考慮」が払われるにとどまるため、公務外のすべての犯罪について、⽇本側が起訴前の⾝体拘束ができるように地位協定に明記すべきです。
  2. 現在、公務執⾏中の犯罪か否か明確でない場合、 ⽶軍の部隊指揮官から公務証明書が出されると、⽇本国の捜査機関は、⼗分な捜査をすることなく「公務執⾏中」と認定して⽇本側の⼀次裁判権を⼿放しています。しかし、⽇本の主権発動としての刑罰権の⾏使にかかわり、かつ犯罪被害者の⼈権にかかわることです。公務証明はあくまでも⼀つの資料としつつも、刑事訴訟法318条(⾃由⼼証主義) の趣旨に照らしても、⽇本国の捜査機関や裁判所があらゆる証明に基づいて総合的に判断できることを明確にすべきです。
  3. 地位協定17条3項(a)(ii)の「公務執⾏中」の⽂⾔には、出勤途中や帰宅途中を含まないことは明⽩です。出勤途中や帰宅途中の⽶兵等の犯罪は公務外として⽇本国が⽶兵等に対する裁判権を⾏使すべきです。
  4. 1960年の合衆国連邦最⾼裁判決によれば、平時には軍属を軍事裁判に付することは憲法違反とされており、法務省の統計によれば、2006年9⽉ から2010年にかけて軍属が公務中に起こした犯罪62件につき(⽇本側は不起訴処分)、⽶軍の軍事裁判にかけられたものは1件もありませんでした (懲戒処分が35 件、処分なしが27件)。よって、公務中の⽶軍属による犯罪に対しても、⽇本側が裁判権を⾏使できるようにすべきです。
  5. 1953年の⾏政協定17条の改定交渉の裏側で、 同年10⽉28⽇、⽇本側の裁判権を事実上放棄する⽇⽶合意(密約)がなされていました。このような⽇⽶合意(密約)やこれを先取りした同年10 ⽉17⽇付法務省通達を直ちに破棄して、⽇本国が⽶兵等に対して適正な刑事裁判権⾏使を⾏うべきです。
  6. 2004年8⽉に沖縄国際⼤学で⽶軍ヘリコプター墜落事故が起き、その直後に⽶兵が沖縄国際⼤学になだれ込み、周囲を封鎖して、沖縄県警も墜落現場に近づけませんでした。⽶軍基地外で発⽣した⽶軍機墜落事故に対しては、⽇本国の当局が国家主権としての⾏政警察権や司法警察権を迅速・適正 ⾏使できるようにすべきです。
     しかも、近時沖縄に配備されたオスプレイの墜落事故が懸念される現在、⽇本側が事故発⽣原因の究明に関与できなければ、真相は解明されず、事故再発防⽌策を⽶軍側に求めることもできません。更に、 万⼀住⺠に被害が出た場合、墜落の刑事及び⺠事の責任追及も不可能となってしまいます。
    ○2004年8⽉の沖縄国際⼤学への⽶軍ヘリ墜落事件を経て2005年4⽉1⽇「⽶軍基地外での⽶軍機事故に関するガイドライン(指針)」が策定され、⽇⽶で合意された。ところが、沖縄県⺠の怒りを現努⼒として作られたはずのこのガイドラインが、逆に⽇本全⼟の植⺠地状態を固定化する結果につながってしまった。ガイドラインの主な内容:墜落事故が起こると、事故現場の周囲に内側と外側、⼆つの規制ラインを設けて、
    1. 内側の規制ラインは⽇⽶共同で規制する
    2. 外側の規制ラインは⽇本側が規制する
    3. 事故機の残骸と部品は⽶軍が管理する、というものだった。このガイドラインは、沖縄国際⼤学で起きた墜落事故のときの無法状態を、正式に⽂書化して決めてしまうものだった。

F 日本の承認なく私有地封鎖(17条 刑事裁判権の続き)

17条10項のポイント
○⽶軍は基地内で必要な警察権を⾏使する
○基地外でも、「⽇本国の当局との取極に従う」ことを条件とし、「必要な範囲内」で権限を⾏使できる
「10(a) 合衆国軍隊の正規に編成された部隊⼜は編成隊は、第2条の規定に基づき使⽤する施設及び区域において警察権を⾏なう権利を有する。合衆国軍隊の軍事警察は、それらの施設及び区域において、秩序及び安全の維持を確保するためすべての適当な措置を執ることができる。(b)前記の施設及び区域の外部においては、前記の軍事警察は、必ず⽇本国の当局との取極に従うことを条件とし、かつ、⽇本国の当局と連絡して使⽤されるものとし、その使⽤は、合 衆国軍隊の構成員の間の規律及び秩序の維持のため必要な範囲内に限るものとする。」
2017年10⽉11⽇、沖縄県東村⾼江で農業を営む⻄銘晃さんの牧草地に⽶軍CH53Eヘリが不時着・炎上したときの出来事。

基地内外に権限 ⽶軍の「財産保護」最優先
 ⽶軍の犯罪や事故に関連する刑事裁判権を定めた⽇⽶地位協定17条10項aにより、⽶軍は基地内で警察権を有し、⽇本側は⽶軍の許可なしに捜索や差し押さえができない。加えて、基地の外でも⽶軍の軍事警察が権限を⾏使できる枠組みがある(17条10項b)。
 *しんぶん⾚旗2019年7⽉28⽇ ⽶軍機事故「指針」改定 迅速な⽴ち⼊り可能」誇るが… ⽶軍の判断次第 「地位協定」の抜本改定こそ
⽇⽶両政府は25⽇の⽇⽶合同委員会で、基地外で発⽣した⽶軍機事故に関するガイドライン(指針)を改定しました。河野太郎外相は同⽇の記者会⾒で、⽇本側が事故現場へ「迅速に⽴ち⼊りを⾏うことが明確になった」と誇りますが、⽴ち⼊りを認めるかどうかは⽶軍次第です。⼩⼿先の運⽤改善ではなく、⽇⽶地位協定の抜本改定が求められています。

⽴ち⼊れない
 ガイドラインでは、基地外で⽶軍機事故が発⽣した場合、現場に「外周規制線」「内周規制線」という⼆重の規制線を張ることになっています。外周規制線は⾒物⼈などを規制するために⽇本の警察が管理しますが、機体に近い内周規制線は機体の機密保持などのために事実上、⽶軍が独占的に管理し、警察も⽴ち⼊ることができません。

承認なく封鎖
 さらに重⼤なのは、改定によって、⽶軍の⼀⽅的な現場封鎖・⽇本の警察権放棄が明確化されたことです。
 新指針は、基地外の公有地や私有地での⽶軍機事故で、⽶軍は⽇本政府当局や⼟地の所有者の「事前の承認なくして…⽴ち⼊ることが許される」と明記しました。
 従来の指針では、正⽂である英⽂には「事前の承認なくして」(without prior authority)とされている⼀⽅、⽇本語訳(仮訳)には、「事前の承認を受ける暇(いとま)がないときは」と訳し、改竄していた。今回の改定で、英⽂にあわせ、⺠間の⼟地であっても⽶軍が無許可で封鎖できることを明確にしたのです。
 さらに、事故機の残骸、部品などに関して「資格を有する者のみに…アクセスが付与される」と明記。警察に事故機の差し押さえや捜査の権限がないことを明確化しました。

法的拘束なし
 こうした問題の背景にあるのは⽶軍の特権を定めた⽇⽶地位協定です。第17条10項bでは、⽶軍が基地外でも警察権を⾏使できる枠組みがあり、さらに23条では⽶軍の財産権を保障。⽇本国⺠の財産権を優越しています。
 ⼀⽅、欧州では、⽶軍機の事故が発⽣した場合の対応は、「警察が現場を規制」(ドイツ)、「検察が証拠品を押収」(イタリア)、「警察が現場を規制・捜索」(英国)するなど、受け⼊れ国が強い権限を確保しています。

G 賠償⾦⽀払い 拒む⽶軍(第18条 ⺠事請求権)地位協定18条のポイント

1○⽶軍関係者による「公務中」の事件・事故に伴う損害賠償額は、⽇本側が25%負担し、⽶側が75% 負担する。
 ○「公務外」の場合、⽶側が慰謝料を⽀払うが、⽀払いの有無は⽶側が決定する。

※しんぶん赤旗2018年12月17日 騒音訴訟の「250億円 踏み倒しか
 ⽶軍機の爆⾳被害に対して「住⺠が起こした訴訟で確定した賠償⾦のうち、⽶側が負担すべき⾦額約250億円が⽀払われていない可能性がある。防衛省によれば、これまでに在⽇⽶軍基地や⽇⽶共同使 ⽤基地の爆⾳訴訟で確定した賠償⾦の総額は約260億円で、遅延損害⾦を含めて約330億円にのぼる。⽶軍関係者による事件・事故などの⺠事請求権を定めた⽇⽶!"#$18条は、訓練など「公務中」の⽶軍が第三者に損害を与えた場合、賠償額の75%を⽶国が、25%を⽇本が負担すると規定(同条5項 e)。この規定に基づけば、⽶側の分担は約248億円になる。
 これに関して政府は、爆⾳訴訟の負担配分について、⽇⽶両政府の⽴場が異なっているとの⾒解を⽰し、「⽶軍の航空機は⽇⽶安保条約の⽬的達成のために所要の活動を⾏っている。このような活動を通じて発⽣した騒⾳問題は…賠償すべきものではないとの⽴場を(⽶国は)とっている」(岸⽥⽂雄外相、2017年3⽉23⽇の参院外交防衛委員会)と述べ、⽶側が負担を拒んでいることを明らかにしました。”⽇本を守るためだから我慢しろ”という傲慢な態度です。
 そもそも、⽶軍側に100%責任がある事故でも⽇本側が4分の1もの負担を強いられること⾃体が不当な規定です。しかし、外務省の機密⽂書「⽇⽶地位協定の考え⽅」は、「安保条約の運⽤との関連で⽣じたもの」であるから⽇本が⼀部負担すべきだとしています。⽶軍が「安保のためだ」として賠償⾦の⽀払いを拒んでいる根本には、こうした⽇本側の弱腰の姿勢があるのです。
 防衛省資料によれば、1952〜2016年度までの⽶軍の「公務上」の事故は約5万件で死者は521⼈。騒 ⾳訴訟の賠償⾦を除く賠償⾦額は約92億円。  地位協定の規定では、⽇本側が賠償額を決定し、⽶側に請求する。しかし、⽀払い期限は「できるだけ速やかに」としているだけで、具体的な期⽇はありません。このため、被害者がいつ補償を受け取れるのか、⾒通しがたたない実態があります。
「公務外」に多発
⽶軍の「公務外」での事件・事故に関してはどうか。防衛省の資料によれば件数が1952〜2017年までで16万件を超え、「公務中」の約3倍超。死者は572⼈にのぼります。強盗、殺⼈、強姦(ごうかん)といった凶悪犯罪はほぼ「公務外」に発⽣しています。
 しかし、⽇⽶地位協定18条6項によれば、⽶側が⽀払うのはあくまで「慰謝料」であり、⽀払いの有無も⽶側が決定することになっています。そのため、多くの被害者が泣き寝⼊りを強いられています。
こうした被害者に対する救済制度として、1996年、⽶国政府が被害者や遺族に対し裁判所の判決で確定した損害賠償⾦を⽀払わない場合、⽇本政府がその差額を補てんする「SACO⾒舞⾦」が設⽴された。しかし、実績額は17年度までで15件、約4億7000万円にとどまります。さらに、判決で課せられる年5%の遅延損害⾦が含まれないなど、問題点も指摘されています。

※日弁連の「民事責任」に関する改正提言

  1. ⽶軍構成員・軍属(以下、「⽶兵等」という。)、⽶兵等の家族による不法⾏為について、⽇本政府が被害者に対して損害賠償(被害補償)をすること。
  2. 公務中の⽶兵等による不法⾏為に基づく損害賠償の費⽤の⽇⽶間の負担割合について、⽶国のみに責任があるときには、⽶国が損害賠償⾦全額を負担し、両国に責任があるときは、 各責任割合に応じて負担すること。
  3. ①被害者が⺠事訴訟を起こすために必要な加害者である⽶兵等やその家族の特定について、⽶軍の協⼒義務を明記すること。②被害者が起こした⺠事訴訟における⽴証のため、証拠収集に対する⽶軍の協⼒義務を明記し、⽶軍が協⼒を拒否した場合、⽶軍に拒否理由の説明義務を課し、裁判所がその正当性を判断できるようにすること。③⽶兵等に⽀払われる給与に対して裁判所が差押えをすることができる旨明記すること。
  4. ⽶軍による不法⾏為に対し、被害者が⽇本の裁判所で⽶国政府を相⼿として訴訟を起こせるようにすること。

【現行規定】

  1. ⽶兵等による不法⾏為について、公務中の場合地位協定18条5項により⽇本国が国家賠償法により賠償することが定められていますが、公務外の損害賠償(被害補償)については、⽶国が⽀払う⾒舞⾦で対処されるにすぎません(地位協定18条6項)。 ⽶兵等の家族の不法⾏為については、地位協定に⾒舞⾦の規定すらありません(個⼈の問題として放置されたままです)。
  2. 公務中の⽶兵等による不法⾏為については、まず⽇本政府が被害者に対し損害賠償を⾏います。その後、⽇本が⽶国に求償することになりますが、⽇⽶間の負担割合は、⽶国のみに責任がある場合には⽶国が75%、⽇本国が25%を負担し、両国に責任がある場合には均等に負担するとされています。 (地位協定18条5項)。
  1. ①不法⾏為の被害者が⽶兵等やその家族を相⼿として⺠事訴訟を提起する場合、⽒名、地位等の加害者の特定につき⽶軍の協⼒義務を定めた規定はありせん。②地位協定18条9項(c)で⽇⽶当局間の証拠⼊⼿の協⼒義務が規定されているものの、⺠事訴訟において⽶軍が証拠を開⽰しない範囲が広く認められています(最⾼裁事務総局資料)。③⽶兵等に⽀払われる給与に対し裁判所が差押えをすることができる旨の規定はありません。
  2. ⽶軍による不法⾏為について、⽇本の裁判所で合衆国政府を相⼿として訴訟を起こせる旨の規定はありません。 

【問題の所在と改正提言の理由】

  1. ⽶軍を駐留させていることによる被害は、⽇本政府が⽶軍を駐留させているという構造的なものに根ざしているものですから、⽇本政府が損害賠償(被害補償)を⾏うべきです。損害賠償(被害補償) を、 ⽶兵等が公務中であったか、公務外であったかによって区別することに合理的な理由はありません。⽶兵等の家族による不法⾏為についても、⽶軍を駐留させている⽇本政府が損害賠償(被害補償)を⾏うべきです。 
  2. 損害賠償の費⽤の負担割合は、両国の責任度合いに応じて決めるのが対等平等の国家として当然の関係です。

  なお、2012年12⽉現在、12の爆⾳訴訟で⽇本政府が判決に基づき⽀払った額は約221億円に及んでいますが、これに対し⽶国がその75%ないし50%を⽇本政府に⽀払ったことは全くない実情にあり、地位協定改定以前の問題として⽶国政府が地位協定を守ることが求められています。

  1. 被害者救済を図るため、⽶兵等やその家族を相⼿とする⺠事訴訟の提起・⽴証・執⾏⼿続を実効性あるものにすべきです。証拠収集に対する⽶軍の協⼒義務を地位協定に明記し、更に⽶軍が協⼒を拒否した場合、⽶軍に拒否理由の説明義務を課し、裁判所がその正当性を判断できるようにすべきです。

⽇本に駐留する⽶兵等は⽇本に財産を所有していませんので、被害者救済の実効性を⾼めるため、⽶兵等の給与を差し押えられるようにすべきです。

  1. ⽶軍基地の航空機騒⾳についての⺠事訴訟において、⽇本の裁判所は、⽇本政府に対して過去の損害賠償の⽀払を命じてきたものの、⽶軍は⽇本の⽀配の及ばない第三者であるとして⾶⾏差⽌めを認めていません。⽇本の裁判所で⽶軍機の⾶⾏による騒⾳が法的に違法だと断罪されていながら、⽶軍機の⾶⾏⾃体の差⽌めが認められないため(但し、⾃衛隊機については2014年5⽉横浜地裁がはじめて⾶⾏差⽌めを認めました)、根本的な解決に⾄らず、 各⽶軍基地の周辺住⺠は何度も訴訟を起こさざるをえない状況に追い込まれています。

 ⽶軍基地に起因する深刻な被害を防⽌するためには、⽇本政府から基地の提供を受け、その運⽤を⾏っている⽶国政府を直接相⼿として訴訟を⾏うほかに有効な被害救済⼿段はありません。そのためにも地位協定の改定は不可⽋だと考えられます。

H 在日米軍経緯費の膨張

地位協定24条のポイント
 ▼⽶軍の駐留経費は、次に規定するものを除き、⽇本に負担をかけないで⽶国が負担する。
 ▼⽇本は、すべての施設・区域ならびに路線権(空港・港湾や共同使⽤施設など)を⽶国に負担をかけないで提供し、施設・区域や路線権の所有者に補償を⾏う。

※しんぶん赤旗2018年12月24日
 2028年度に⽇本政府が計上した在⽇⽶軍関係経費の総額が8022億円になり、初めて8000億円台に達したことが分かりました。昨年度を225億円上回り、4年連続で過去最⾼を更新(グラフ)。在⽇⽶軍の兵⼠・軍属(6万1324⼈、2018年9⽉現在)1⼈あたりで約1308万円に達しており、⽶国の同盟国でも突出しています。こうした経費負担があるから、⽶国は国際情勢がどうなろうと⽇本に基地を置き続けるのです。
在⽇⽶軍の活動経費のうち、⽇本側負担分を⽰す在⽇⽶軍関係経費の増⼤の要因は、⽶兵・軍属の労務費や光熱⽔料を負担する年間2000億円規模の「思いやり予算」やSACO(沖縄に関する特別⾏動委員会)経費に加え、沖縄県名護市辺野古での新基地建設などで⽶軍再編経費が拡⼤したことです。
⽇⽶地位協定24条では、⽇本側の⽶軍駐留経費負担を定めています。しかし、具体的に明記されているのは⼟地の賃料などに限られており、(1)思いやり予算(2)⽶軍再編経費(3)SACO経費は協定上、⽀払い義務はありません。18年度の在⽇⽶軍関係経費8022億円のうち、この3分野が41800億円と半分以上を占めています。辺野古新基地建設に伴う埋め⽴て⼯事について、防衛省は沖縄県に提出した資⾦計画書で約2300億円としていますが、沖縄県は総⼯費2兆5500億円に達すると指摘しています。⽶軍向けの⽀出はさらに膨れあがる危険が⼤きい。

解釈拡大、日本の負担が肥大
当初の⽶軍駐留経費負担は、⼟地の賃料に加え、基地を抱える住⺠⾃治体への“迷惑料”とも⾔える基地周辺対策経費、基地交付⾦のみでした。しかし⽶側は、1970年代にベトナム戦争の泥沼化などで財政が悪化すると、同盟国に「責任分担」を要求。⽇本政府は要求を受け⼊れ、「思いやり予算」(⾦丸信防衛庁⻑官)と称して78年度以降、基地従業員の福利厚⽣費の負担を開始しました。その後、労務費の⼀部や⽶軍の家族住宅、娯楽施設、さらに戦闘機の格納庫などといった施設建設費を負担。地位協定の解釈を拡⼤していきました。こうした拡⼤解釈も限界に達し、87年度には「暫定的、特例的措置」として特別協定を締結。⽔光熱費や従業員の基本給、空⺟艦載機の訓練移転費にまで拡⼤していきました。
特別協定は7回も延⻑され、事実上恒久化しています。2016年に更新された現⾏協定は、「思いやり予算」を16年度から20年度までの5年間で総額9465円と、年2000億円規模を維持する内容になっています。
78年度に始まり、40年を迎えた「思いやり予算」。現⾏協定までの期間で、累計の⽀出総額は7兆6317億円になる⾒通しです。
さらに97年度からの「SACO(沖縄に関する⽇⽶特別⾏動委員会)経費」、2006年度からの在⽇⽶軍再編経費と、「沖縄の負担軽減」を⼝実とした基地建設・たらい回し費⽤が継ぎ⾜されてきました。
こうした⽇本の⽶軍駐留経費負担は、世界でも突出しています。トランプ⽶政権は同盟国に⽶軍駐留経費の⼤幅な増額を求めていますが、2017年2⽉に来⽇したマティス国防⻑官は⽇本について「世界の⼿本になる」と絶賛しました。
NATO(北⼤⻄洋条約機構)軍地位協定には、駐留経費負担に関する規定⾃体が存在しません。ドイツやイタリアでは、労務費、光熱⽔料、施設整備費は全て⽶側負担です。

 

古関彰⼀『対⽶従属の構造』(みすず書房、2020年12⽉16⽇刊)

 

 

 

 


 

 

 

 

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今年ネットで最も検索された言葉

  「忖度」です。「忖度」は流行語大賞にも選ばれました。最近はコンビニなどでも「忖度御前」というものが売られてようです。大阪には「忖度まんじゅう」、それから「のり弁」ですね。
 実は私がいたNHKで10年前に「忖度」という言葉が流行ったのです。2001年に、私が編集長をしていたETV2001で、「問われる日本軍性暴力」という日本軍の慰安婦として連れて行かれた女性たちを扱った番組に対して、番組改変が行われました。放送の前日でしたけれども、安倍さんと面会をしたNHKのナンバー3が安倍さんに言われたことを持ち帰ってきて、あれを直せ、これを直せという指示を出して番組をぐちゃぐちゃにしてしまったのです。この時に番組に協力してくれた人達が、NHKを「約束違反だ。不法行為だ」として訴えました。この裁判過程の中で、一審の東東京地裁ではNHKが勝ち、二審は東京高裁ですが、我々が証言したことによってNHKが負け、最後の最高裁でNHKが勝ちました。この二審の時に「忖度」という言葉が使われたのです。「NHKの予算の国会審議に当たって、NHKの幹部が予算説明のために接触した政治家の発言を必要以上に重く受け止め、その意図を忖度して、できるだけ当たりさわりのない番組にするために修正を繰り返した」と事実認定をしました。私は100歩譲って、東京高裁がそういう言葉を選んだに過ぎないと思っているのです。本当はいろいろな圧力があった、弾圧があったのだが、それに対して口を割らないから、「言ってもいないのに、おもんばかって忖度した」ということにして、事実認定をしたということなのだと思うのです。


「三ない答弁}

 「目を背けることはできません」「はっきりと申し上げておきたい」「明確にしておきたい」。全部これ違うということです。「認めない」「調べない」「謝らない」。マクベスに「きれいは汚い」「汚いはきれい」という言葉が出てきますが、それと同じです。彼が「謙虚と丁寧」と言うときは「傲慢とぞんざい」と転換して聞かなければいけないと言うことです。彼一人だけならまだいいのですが、援軍が現れるからやっかいなのです。今国会で言えば、足立康史という大阪出身の維新の会選出の議員がこう言いましたね。「朝日新聞 死ね」と。彼は朝日新聞のニュースは「ねつ造・誤報・偏向報道」と批判し続けています。真実を伝えることが政権にとって都合の悪い時に、フェイクニュースという言葉で攻撃します。これはアメリカの大統領も同じですよね。


望月衣塑子記者

 菅官房長官は加計学園の一連の文科省の文書が出てきた時、「怪文書みたいなものではないでしょうか」と言いましたね。彼は獣医学部新設の過程に「一点の曇りもない」と記者会見で話していました。その菅さんを追い詰めて、彼の「ボロ」が出てくることになるきっかけをつくったのは、望月衣塑子さんです。東京新聞社会部記者です。練馬の方です。お父さんは業界紙の新聞記者で白子川の源流の保存の運動をされていました。お母さんは亡くなりましたが、黒テントの女優さんだったと思いますが、朝霞のキャンプなどの反戦・反基地運動をされていた方で、練馬では望月記者のファンがとても多いと聞いています。最近「新聞記者」という本を出されましたね。『週間読書人』という新聞に、望月さんと私の対談をさせていただいたのですが、「誰も聞かないなら私一人でも聞く」と彼女は言っています。
 首相官邸、総理大臣や官房長官が隠していたことはいろいろあるのですが、そういうものに対して「記者は質問をぶつけていく」という当たり前のことを当たり前としてやった人です。
 こんなことがありました。1972年、沖縄返還の記者会見で、安倍さんの大叔父に当たる佐藤栄作が、新聞から厳しい批判を受けて、「新聞記者は出ていけ!私は直接国民に語りかけたいのだ」と言いました。この時、新聞記者やテレビの放送記者は、罵倒され侮蔑されたわけですから全員出て行ったのです。こういう異常な中で記者会見が行われたのです。当時、70年代の記者たちはこれくらいの気骨はあったのですね。


前川喜平氏の反乱

 この間、読売新聞に「加計学園半世紀ぶりに獣医学部新設」という全面広告が載りました。この加計ありきという不透明な動きに対して、一人で告発した人がいます。ご存じのように前川喜平前文科省事務次官です。私は夜間中学校の取材をしていましたので、前川さんがどれほど夜間中学あるいは自主夜間中学の応援団であったかということは聞いていましたが、こんなにすごい人だったのだということをはじめて知りました。今年の5月ですが、これは朝日新聞だと思いますが、「新学部
総理の意向」という文字が紙面を飾ります。つまり「総理の意向を忖度して」ということです。これも本当に忖度かどうかはわからないのです。総理が言ってもいないのに忖度したのか、あるいは裏でもう決まっていたのではないかということは次の国会でも追及されるべきでしょう。前川さんは、官僚のトップの矜持をもって一人でも戦うということをやるわけです。この前川さんの反乱を止めさせようとするメディアがあります。読売新聞です。安倍政権を追及する新聞は、朝日・東京・毎日、テレビではTBS・テレビ朝日。安倍政権にすり寄る新聞は、読売・産経、テレビではNHK・フジテレビです。どちらにも転ぶのが週刊文春・週刊新潮というところです。すり寄る側というのは政権への忖度をする、あるいは政権が政治を私物化することを許す側に立っているということでしょうか。
 実は前川さんがこの一連の告発に動くに当たって、一緒にメディアとして食い込んでいたのは朝日新聞ではありませんでした。NHKなのです。ある社会部の10年に満たない記者が、最初に前川さんのインタビューを撮りました。それだけではなく、現役の文部官僚からの「裏取り」も複数していたのです。で、いざ放送というときに、政治部の局長の意向でそのニュースは「お蔵入り」ということになったのです。同じ時期、読売新聞は前川さんが出会い系バーに通っている怪しい官僚なのだということをことさら強調する記事を載せました。全国紙ですからどの地方版もみんな同じ扱いで、そこの場所だけ空けて置いて同じものを差し込むということをしています。トップが強引に押しこんで、無理やり記事にさせたということが推測できます。


「官邸の意向」文書

 私のところにも加計学園の関連の文章が回ってきました。読んでみるといろいろなことがわかるのですが、「最短スケジュールでやることは、官邸の最高レベルが言っている」とはっきり書いてあるのです。一つわかったことはヤンキー先生と呼ばれていた義家弘介さん(文部科学副大臣)が、実は理解力が足りなかったのです。そこで彼にわかるように文書として書いたものが残ったのです。もし義家さんがもっと頭が良かったら、「総理の意向」みたいな感じに書いたらそれで足が付くということは想定できますから、そこまで書かなくても良かったのだけれども、彼にわからせるために書いたのだと私は思います。「どう言えばいいかシナリオをくれ」と彼は言っていたのです。だから「こうしなさいよ」と指南してあげたものなのです。
 財務省は反対していましたから、結局獣医学部を一校だけ認めるというのは政治的判断ということになっていくのです。このNHKがお蔵入りにしたとか、不透明な部分について聞こえてきた後、私は「ひどいことが今起きているよ」ということを世の中に伝えようと思ってフェイスブックを使って発信をしました。結果的には毎日新聞と東京新聞が書いてくれて、日刊現代という過激な新聞にも載りました。「NHKよ!国民の方を向いてくれ」という一連の大きな記事です。
 今回加計学園問題ではいろいろな人の名前が挙がっていますが、この人の名前だけは覚えておかなければいけないと思います。萩生田孝一という人です。丁度今から三年前のことです。TBSに安倍総理が生出演して、当時まだ元気だった岸井成格さんが「街頭インタビューで安倍のミックスは全然効果が上がっていない」という町の声を紹介したのですけれど、安倍さんが切れて「意図的に安倍政権に批判的なものばかりを集めているのではないですか」というようなことを言ったことがありました。この騒ぎの後、萩生田はテレビ各局のデスクに、直に「公正な報道をしてくれ」という要請書を渡すのです。そのことでそれぞれのニュースデスクは安倍政権が不利になるような厳しい報道はしないというふうに舵を切っていくようになります。今回はさすがに加計学園問題で萩生田さん自身の名前が出ていましたから、これ以上弾圧すると損だというので彼は暗躍しなかったのです。ただ選挙が終わった後、野党と与党の質問時間の配分を巡って実際に汚れ仕事をしたのは彼です。


政権の私物化の中での警察とメディア

 もう一つ汚れ仕事で言えばこの人の名前を忘れてはいけないと思うのです。山口敬之さんというTBSの元ワシントン支局長です。彼は『総理』という本を出しました。幻冬舎というところから出したのです。この山口さんは今国会でいろいろ追及されたり、院内集会で話題になったりしたことをみなさんご存じだと思いますが、伊藤詩織さんへのレイプ事件です。伊藤さんはワシントンのTBSの仕事をするなどいろいろある中で、山口さんとお酒を飲んだのですが、なぜかお酒の強い伊藤さんがその日に限って泥酔をすることになったのです。そして気がついたらレイプをされていたというのです。この準強姦事件ですが、準というのはつまり意識がないとかもうろうとしていたということです。強姦よりレベルが下であるということではないのです。この事件は高輪警察がきちんと動いて、山口さんが日本に帰ってくる空港で待っていたのです。その時に高輪警察の携帯電話が鳴るのです。「逮捕中止」の指示です。この指示を出したのは中村格、当時は警視庁の刑事部長です。刑事部長が一事件の逮捕中止指令を直接出しているのです。ちなみに中村さんはテレビ朝日の報道ステーションの古賀重明さんの生のスタジオの発言の後、いじめた人でもあります。
 もう一つ私が許せないと思っているのは、クローズアップ現代の国谷キャスターが集団的自衛権の閣議決定の後、生のスタジオで菅官房長官に「海外の戦争に日本が巻き込まれる危険性はないのでしょうか?」と何度も聞いたにもかかわらずのらりくらりときちんと答えなかった。生のスタジオですから時間切れになって見苦しい形になってその放送は終わってしまうのですが、その後国谷さんやスタッフをいじめたのがこの中村格という人です。

11月3日に、国会前で5分だけお話をさせていただきました。4万人集会です。この時に山口さんに対して中村さんが逮捕しない指示をしたのは何故なのかといことを申し上げました。つまり、メディアは警察のお仲間なんだということです。私が事件をもみ消してあげようということです、つまりメディイアは悪の側にいて、安倍政権の私物化の中で、同類として扱われたということです。伊藤詩織さんの人権や尊厳が失われたことは、これが一番ひどいことではありますが、もう一つひどいのは、メディアは政権の側にそのように認識されている。それは何とも情けないことだと私は思います。


国連人権理事会のデビッド・ケイの報告書

 今年の春ですが、国連の人権理事会のデビッド・ケイさんという人が日本にやって来ました。彼は一昨年の11月に来日するはずでした。しかし高市早苗法務大臣がドタキャンをしてしまったとかいろいろあって、なかなか事実調査が進まず、去年ようやく来れたわけです。国連の人権理事会は、拉致問題については日本は解決の舞台として頼りにしているのです。しかし、こと言論の自由や代用監獄とかさまざまなことで日本は人権後進国であるのです。にもかかわらず、「私たちは先進国です」というので、その指摘を冷笑し無視するということを続けてきました。最近で言えば「朝鮮学校差別」ですよね。これは3回も指摘されているのです。ずーっと無視するどころか、ますますひどくなってきていると思います。
 デビッド・ケイさんの最終報告の中には、「メディアの関係者がバラバラになって孤立をしている。メディアの人間こそが言論の自由を持つべきだ。籠の鳥にされていて、自分の肉声を届けることができないのではないか。そういうメディアで良いのか」。もう一つは、放送法というのがテレビの世界にあり、その中に第四条「政治的公平」というものがあります。「政治的公平」という言葉が悪用されて降板などに繋がっている。だから「政治的公平という文言をなくしまったらどうか」とデビッド・ケイさんは指摘しています。もう一つ、放送局には5年に一遍免許更新という制度があるのです。つまり総務省の管理の下で放送はなされているのです。「これでは国に対して厳しい意見などできるはずはないではないか。総務省の管理を止めて電波管理委員会という戦後すぐにあった第三者委員会を復活させたらどうか」とケイさんは言っています。


歴史を振り返る

 安倍さんが国政に躍り出たのは1993年。宮沢内閣が選挙に負けて、細川政権ができたとき、野党の議員としてスタートしました。日本の戦争犯罪や慰安婦問題は認めたくないという立場を堅持していますけれども、そのことについてちょっとだけ整理をしておきます。1991年にキム・ハクスンさんという人が「慰安婦だった」と名乗り出ました。これを受けて日本政府は調査をして、河野官房長官談話を出します。談話といっても国際公約です。慰安婦問題について、「子どもたちも含めて教育の場などで学び、二度と同じようなことが起きないようにする」ということを言うわけです。こういうことは許せないと思ったのが安倍さんたちで、「歴史教育を考える若手議員の会」というものが誕生し、教科書攻撃が始まります。
 次に標的になったのがテレビです。私が編集長をしていたETV2001の時にNHKの幹部と安倍さんがやりとりをして、その時「お前、勘ぐれ」と言ったのです。「忖度しろ」という意味です。この発言の結果番組が変わってしまいます。2005年に番組再編の舞台裏で何があったのかということを、「朝日」が取材をして大スクープを出すことになります。2006年、私を含めて東京高裁で真実を公表し、いろいろなことが展開していくわけです。最高裁でNHKは勝ちましたけれども、BPO(番組放送機構)が、放送現場でいかに異常なことがあったのかということをもう一度検証して、NHKでもきちんと議論をしなさい、検証してできれば番組としてそれを放送しなさいという意見書を出します。2009年のことです。しかし、今2017年、その意見書は一顧だにされていないということでしょうか。その後、自民党がテレビ局にいろいろな圧力をかけることが続いていって、さっきのデビット・ケイさんの報告書に繋がる。こういう流れになっています。


なぜフェイクニュースの時代に?

 今年フェイクニュースという言葉がいろいろ言われるようになりました。フェイクとは偽りの意味です。これは取材をしていても間違う「誤報」から、「でっち上げ」とか「誇張」とか「捏造」とか「飛ばし記事」とかは今までもありました。一方で政治家が自分の気に入らないニュースをフェイクだと烙印を押す、トランプさんもそうですし、安倍さんもそうですね。もっとひどいのは選挙に勝つために、嘘なのにプロパガンダとしてそのニュースを流してしまうということでしょう。
 世界を見てみると、イギリスのEU離脱がありましたが、あの時は大衆紙などデタラメなものが飛びかいました。「エリザベス女王は離脱を支持している」などというのが飛びかうのです。嘘です。アメリカで言えばクリントン候補に対しての誹謗中傷もそうです。日本も同様でしょう。「エリザベス女王離脱賛成」などは週刊誌のトップに大きく出るわけです。最近で言えばこんなものも飛び交いました。日本の公務員バッシングです。「日本の公務員給与の平均は年収898万、ドイツは194万」というのです。いくら何でもこれはひどい。ここまでドイツは安くないし、カナダ・イタリア・フランスだって同じです。これは公務員の給与が高すぎるということをことさら言うためのフェイクニュースです。フェイクニュースが何故このように広がるのかというと、ネットを見る人は自分の好みの情報しか見ない、しっかり新聞を読まない中でのメディア不信が背景にあるからだと思います。
 和歌山の新聞が、「福島の浪江町で山火事が起き、放射性物質が拡散している」ということを大事件として取り上げました。デタラメでした。いろいろなデタラメがあるわけですけれど、有名なのは少し前ですけれど、「イラクの大量破壊兵器」です。今でもアメリカの10人の内4人は、イラクに大量破壊兵器があったと信じているのです。そんな中で、市民が、何が本当で何が嘘かをチェックする動きが始まっています。


NHKにもよい番組がある

 NHKのニュースはひどいです。でもNHK全体を見てみると、「731部隊」や「インパール作戦の悲劇」や「長崎の原爆が投下された被差別部落のキリスト教徒の物語」など良い番組がたくさんあります。しっかりと調査がなされ、資料が発掘され、現場の取材が行き届いた良い番組が出ました。これはかつて呪縛として存在していた戦友会がもはや機能しなくなって、元兵士たちが話すことができるようになったということも大きいのです。けれども相変わらずタブーがあり、慰安婦問題については語ることが中々難しい。公共財としてのメディアというものをもっと有効に使えないだろうかとつくづく思うわけです。メディアは声を上げられない人、困っている人のためにあるべきものなのです。憲法13条には「幸福追求権」があります。つまり収入や住まいが保障され、心と体が脅かされることなく、人々が繋がって安心して生きていける社会のために放送はなければいけないのです。人々と寄り添って、調べて、伝えるということにつきると思います。

したたかな運動を

 今から60年以上前の話ですけれど、杉並では公民館の館長室が事務局となって原水爆禁止運動の署名が集められたのです。このとき、共産党や社会党の人達が頑張リましたが、表に出でたのは自民党だったのです。何故か、自民党の人達が呼びかけた方がたくさんの署名が集まるからです。非常にしたたかな戦略がそこにはありました。目標は短期に設定したのです。すごいのは杉並だけでどれだけ署名を集めるかという目標の設定ですが、20万枚の署名用紙をまず印刷したのです。これが目標だということで頑張るのです。とにかくメディアも使ったり、いろいろなことをやって最終的には日本全体で3259万907筆となりました。今日の表題の3000万署名とほぼ同じくらいの目標が達成されたということです。 
 この一連の歴史について掘り起こしたのは私と一緒にやっていた丸浜江里子さんという方ですが、一昨日残念ながら亡くなりました。彼女たちと立ち上げたのが「フォーラム杉並」です。秘密保護法が上程されたときにもいっしょに戦いました。秘密保護法のお葬式をやろうということで、喪服で参列をしてみたりということをやりました。

まっとうなメディアを育てる

 私たちは何をすれば良いかということですが、メディアリテラシー、つまりメディアが何を言っているかを読み解くことが大事です。「嘘」が何なのかを検証することは簡単なことではありません。大事なことは無関心な人に何を伝えるかということです。メディアと市民が共同して戦う、心あるメディアは政治家の標的になりますから、どうやって政治家の攻撃からメディアを守るかが大事なことです。公共空間、つまりこのことはみんな知っているよというベースになる知識を、ベースになる情報をみんながもっている社会でなければいけないと思うのです。この人は知っているけれどこの人は知らないという世の中は不健全だし、力を持てないと思うのです。二日前、NHKの受信料を巡っての最高裁判決がありました。「公共放送重い責任」という表題で朝日新聞や毎日新聞の取材を受けたのですが、私はこう言いました。「戦前のNHKに戻るのか」つまり、受信料を実体化して義務的に徴収できるという判決でした。それには前提があるのです。払うにたる公共放送であることです。つまり公共放送としての資格がなければ、お金だけ取りますというシステムはおかしい。そもそも放送法第一条は「健全な民主主義に資すること」と書いてあります。健全な民主主義、つまり少数の意見も尊重してさまざまな人達が尊重される社会をつくるために放送はお役に立ちなさいということです。
 ここ数日の私の最大の心配は、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都にすることを認めたことです。これはEUのほとんど全部の国と、ほとんど世界中の国が「バカなことを言うな」と言っています。唯一いさめない国があります。日本です。これは中東の今後を左右する大変なことです。考えて見れば沖縄もそうですし、朝鮮半島の今の緊張もそうですけれども、どうやってアメリカが軍事大国として悪さをするのを防ぐことができるかということ抜きには世界の平和は考えられないわけです。軍事的にさまざまな戦争を引き起こしてきているのはどの国か。アメリカに追随して世界規模の平和が成り立つということはありません。世界規模の不寛容というものが今情報の世界を覆っています。安倍さんがそういう世界に異常に追随し、併走することを私はとても心配だと思っています。みなさん方と一緒に手を携えて頑張りたいと思います。

※「メディアに対して私たちに何ができるか」という会場からの質問に対し、永田さんは「褒めることと𠮟ること。100人の声で番組は変わる」とお答になりました。100人で変えることができるなら、私たちにもメディアを健全なものにしていく可能姓があるということですから、心あるメディアを政治家の攻撃から守るために、いいものは「良かった」と褒め、問題を感じたら𠮟りましょう。


 

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