95号 2021年2月発行

第5次アーミテージ・ナイ報告を読む            大内 要三(日本ジャーナリスト会議会員)

 

   
  大内要三氏  

 

 昨年12月7日、米国のシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)は『日米同盟2020:世界戦略における対等同盟』と題する報告書を発表した。国際政治学者ジョセフ・ナイ(クリントン政権の国防次官補)と元軍人リチャード・アーミテージ(ブッシュ・ジュニアの国務副長官)を共同主筆とする、要するに民主党・共和党相乗りの対日要求書だ。「アーミテージ・ナイ報告」と呼ばれるこのような文書は2000年以来5回目で、これまで自公政権がかなり正確に報告書の掲げる要求、集団的自衛権容認、原発再稼働などに従ってきたことから、注目を浴びている。憲法改正は、第3次ガイドラインと安保法制(戦争法)でもう必要なくなったと判断したのか、前回から要求していない。
 今回、日本側で単純に歓迎する人々がいるのは、報告書が「対等同盟」を掲げているからだ。ついにそこまで言ってもらえる関係になったのかと。もちろん兵器の押し売りや日米地位協定の従属性を見るだけでも、対等は幻想なのだが。対等という表現を使っているのは、トランプ以前からすでに米国が軍事的・経済的凋落を明らかにして、世界の警察・超覇権国家ではあり得なくなってきた多極化の中で、日本はもっと米国の代貸しとしての身分を自覚して中国包囲の軸となれということなのだろう。
 報告書は本文10ページと簡潔だ。
「序文」では安倍前首相の実績を、憲法9条の解釈変更をしたこと、環太平洋経済連携協定を完成させたこと、自由で開かれたインド太平洋構想を掲げて中国に対抗する枠組みを作り出したこと、で賞賛した。さらに菅首相にバイデン新大統領(文書発表時点ではまだ大統領選挙結果は確定していないが)と早期に会談することを勧めた。日米はともに、これまでにないほどお互いを必要としているからだという。
 次の「同盟の前進」の節では、日米同盟は相互依存になりつつあるといい、安全保障上の最大の課題である中国との対抗のため、台湾にもっと肩入れするよう求めている。朝鮮の非核化は短期では不可能なので、抑止力・封じ込めが必要だという。日米ともに防衛予算は限られているので、一層の同盟協力が必要で、抑止力強化のミサイル防衛が重要だともいう。このあたりは昨今の兵器爆買い・敵基地攻撃能力論につながる。
 マスメディアは次の、ファイブ・アイズへの日本の加盟提案を大きく報道した。これは英語を母語とする米国、英国、カナダ、豪州、ニュージーランドの5カ国防衛情報共有ネットワークで、参加しないと詳細な早期警戒衛星情報などがもらえず、ミサイル防衛網に入れない。一層の秘密保護が必要になる。ただしこの提案は初めてではなく、前回2018年のアーミテージ・ナイ報告にすでに出ていた。
「協力・連携の拡大」の節では、日米同盟をアジアの連携の核とするためにも、韓国との関係を過去ではなく未来に向けて改善せよという。
「経済・技術協力の強化」の節では、これが日米同盟の基礎だという。日米連携でTPPのリーダーに、ということは米国のTPP復帰の主張でもある。技術関連では5Gなどでの「中国標準2035」構想に対抗できるような、国際的基準づくりでの協力も要請している。
「結論」では、より対等な日同盟は地域的・世界的課題対処のため重要だ、日米同盟は多極化世界をリードする、と日本を持ち上げる。
 冷戦時代に西欧とともにソ連に対抗した米国が、いまや日本とともに中国に対抗する。報告書は「新冷戦」という言葉こそ使っていないが。
 バイデン新大統領の就任演説は、米国第一主義からの脱却を示し、中国や日本は明示的には出て来ない。しかしバイデン政権のブリンケン国務長官、オースティン国防長官はともに対中国強硬派と見られており、トランプ時代ほど露骨ではないとしても、対中国が米外交の中心的課題となる。そのとき今回の第5アーミテージ・ナイ報告は、あらためて対日要求の基本となるだろう。ただし報告書をまとめたCSISというシンクタンクには日本企業も出資しており、毎年日本で開かれるシンポジウムは日経新聞社との共催になっている。報告書は一方的な米国からの要求ではなく、一部の日本支配層の願望でもあることに注意する必要がある。
 日米同盟強化は、平和な東アジア共同体をめざす運動と鋭く対立する。戦争国家への従属体制のもとでの平和はあり得ない。歴史を顧みず深い反省なしに友好はあり得ない。「日米同盟」は「落ち目同盟」だ。                                              (2021.1.20)

 

 

              スウェーデンからの現地報告        

                           姉歯 曉 (ルンド大学社会学部にて2020年9月より在外研究中)

※紙ベースのニュースでは短縮版を掲載していますが、ホームページで全文を掲載させていただいています。

   
           国営の酒場に並ぶ人々  


         PCRのためのテント

 

                         

スウェーデンにおけるコロナの現状とワクチン接種の進行状況

 スウェーデンにおける現在までのCOVID−19の感染者は約56万人、全人口が東京都より200万人ほど少ない1,022万人ですから、全人口の5%あまりが感染していることになります。1月27日時点で、累計の死者数は11247人、ほとんどは80歳以上の高齢者です。検査数は週26万件、1日あたりで34,000件となっています。鼻水が出た程度のコロナかどうかわからない軽い症状でも直ちに検査を受けることが推奨されています。
クリスマスが明けた直後の12月27日より、当初の予定通り、フェーズ1として、最も感染死が多かった地域のケアホームや在宅で介護を受けている高齢者、医療従事者や介護福祉士、介護を受ける人と世帯を共にする家族に対する接種が開始されました。1月28日時点で、最も少なく見積もって2回目の接種14,248回分を含む230,517回分の接種が終了しています。会場には、ノーベル賞の晩餐会場となるストックホルム市庁舎のブルールームも使われることになっています。
フェース1はすでに、ほぼクリアしており、2月中にフェーズ2に移行し、70歳以上のすべての成人、障害者支援を受けている18歳以上のものやその介護ケアを行なっているスタッフへの接種が開始されます。公衆衛生局のサイトには接種を受ける時に提出する「健康宣言書」(日本でいうところの予診表)が公開されています。すべての人々が接種を終えるのは予定では6月末となっています。公衆衛生局では、ワクチン接種はコロナ押さえ込みの鍵とみなしており、できるだけ多くの国民に受けてもらいたいとのメッセージを送っていますが、若年層では接種希望率が低く、これが懸念材料となっています。スウェーデンでは2009年から2010年にかけて、新型インフルエンザの予防接種を受けた若年層でナルコレプシー(過眠症)を発症した事例があり、そのことが影響しています。その時は、ワクチンによる副作用が認定されたのは440件、総額12億円以上が支払われています。

検査体制はどうなっているのか


 
スウェーデンでは、コロナに限らず、すべての医療に関する相談事は、電話かネット経由で、1177という番号に連絡することになっています。1177は24時間体制の医療アドバイス機関です。各県ごとに訓練を受けた看護師が常駐して相談を受けつけています。国民の医療記録はすべてパーソナルナンバー(注1)で一元管理されており、ワクチン接種の連絡もこの情報をもとに行われます。
検査を希望する際には、まずはこの1177を通してセルフサンプリング(自分で行うP C R検査)の注文を行うか、検査が行われている場所に出向くか、いずれかの希望を出して、それぞれの方法に従って検査を受けます。本人の希望によっていつでも検査が受けられることになっており、無料です。陽性であったにもかかわらず外出や勤務を行なうと、他の人に危険をもたらす行為とされ、最長で2年間の懲役または罰金に処せられる可能性があります。実際、高齢者福祉施設に勤務する女性が陽性であったにもかかわらず職場に行ったとのことで起訴される事例が発生しています。
検査結果は1日から3日でS M Sやメールで届きますが、具合が悪くなった時は、今度は緊急電話番号112という別な番号に連絡することで直ちに救急車が駆けつけます。(この番号は救急、警察、山岳救助隊だけではなく、当直の司祭を呼ぶときにも使われます。)
当初は、症状を訴えても医師が検査を勧めず重症化するなどの問題も発生したと聞いていますが、今は、とにかく検査を受けることが大切だと政府は繰り返し訴えています。

スウェーデンのコロナ対策の基本

 
スウェーデンのコロナ対策で春から一貫しているのは「手指の洗浄、消毒、社会的距離を保つこと、在宅勤務を基本とし、70代以上の市民には自主隔離を求める」といった「人との接触を避ける」ことを基本とするものです。一方、多くの国々で主要な対策の柱にしているマスクの効果については感染防止への効果が科学的に立証されていないとしてマスク着用を推奨してきませんでした。むしろ、マスクは正しい付け方が浸透していないスウェーデンでは感染予防に対して逆効果であるとの指摘もなされてきました。テグネル氏はこのマスク着用問題について幾度も外国の記者たちから質問を受けていますが、その度に、マスクについては科学的効果が立証されなかったこと、そしてマスクをつけることで安心してしまって手洗いや社会的距離に関心が向かなくなる方が怖いと語っています。国内でも賛否両論分かれるマスク着用問題ですが、先日、公衆衛生局は「社会的距離が取れない公共交通機関を利用するときにはマスクを着用すること」を義務付けました。ただし、それも2004年以前に生まれた人だけ、しかも、朝7時から9時まで、夕方の4時から6時まで、そして座席指定ができない場合という細かい限定付きです。それでも、最近は店の中だけではなく外でもマスクを着用する人たちを目にすることが多くなりました。第1波の時は、マスクをつけていることで差別にあった外国人もいたと聞いていますが、今はそのようなことはありません。先日は、公衆衛生局長自身がラッシュ時の交通機関でマスクを着用しなかったことが咎められ必死に謝罪を繰り返していました。
 公衆衛生局は、そのほかにも雇用主が労働者の在宅勤務に最大限の努力を行うことを求め、店舗を含むすべての施設に対しては「床に距離を測る印をつけること」や「レイアウトの変更」「デジタル対応の推進」「手洗いの場所か手指消毒薬の設置」に加え、「一度に店内に何人まで収容できるかを決定すること」や営業そのものの短縮などを義務付けています。
 ここでは、日常的には、マスク着用よりも距離を置くこと、混雑を避けること、移動を少なくすることが優先されています。

コロナ規制で人の移動はどうなったか?スウェーデンと日本を比較する 
 
 ここにGoogleから公表されている人の移動具合を示した数字があります。(https://www.gstatic.com/covid19/mobility/2021-01-29_JP_Mobility_Report_en.pdf)。
 これを用いて、日本とルンドがあるスコーネ県の変化を比較してみましょう。昨年10月2日から11月13日までにどれだけ人の移動が増減したかを場面ごとに比べてみると、スコーネ県では、小売店などに行く人が21%減、政府が「ただし、食料品や薬局は行ってよし」としていることもあって、そちらは4%しか減っていません。職場は23%減、駅やバス停は4割減。突出して増えているのが「公園」で3割増加しました。確かに、ルンド大学付属植物園ももともと無料公開ですが、何より朝から夜まで一週間ずっと開いているので、寒い中でもみんな食べ物などを持ってきて過ごしています。
一方、日本では博物館などが閉館していたこともあって公園が1%減。一方で店、職場も9%しか減っていません。ちなみに、現在ですが、12月18日から年を越して1月29日までの変化を見ると、スウェーデンと大きく異なるのは、公園が30%も減少していることです。相変わらず、職場は13%しか減少していません。
 まとめて見れば、スウェーデンでは通勤が圧倒的に減少し、公園で過ごす人が多くなり、日本では通勤はそれほど変わらず、公園に出かける機会は大幅に減少した、そういう姿が見えてきます。

コロナ規制情報公開と連日の記者会見、そして検証機関が実行性や課題を忖度なしに政府に突きつける安心感


 私は日本政府や東京都のコロナ情報サイトにほぼ毎日アクセスしていますが、その度に、その情報量の少なさ、アクセスのしにくさにいっそ見なければよかったと思うほどの不安を掻き立てられます。国民、都民に向かって自己責任だけを強調する責任逃れのスピーチにはため息しか出てきません。
スウェーデンのコロナ関係の情報は毎日更新され、すべて公開されます。事あるごとにルーヴェン首相自身が国民に訴えかけ、コロナ対策の実質的責任を負う公衆衛生局はテグネル博士を中心に、その時々の主要課題に関係する省庁の大臣クラスが一緒にマイクの前に立ち、毎日欠かさず、定時の会見を行い、かなりの時間をかけて記者からの質問に答えます。
こうしたコロナ対策は、担当部局である公衆衛生局に勤務する医師であり国家疫学官であり、感染症およびパンデミックの専門家であるアンデシュ・テグネル博士を筆頭とする専門家によって決定されています。テグネル氏はルンド大学の出身、エボラ出血熱のパンデミックが発生した際にはザイールでW H Oの一員として現地で活動したり、ワクチン接種の計画立案に携わるなど、多くの現場経験と知識を持っています。このテグネル氏に対する信頼もあるでしょうが、スウェーデンの人たちは、何よりも「政治から自立して科学的的知見にのみ基づいて対策が提起されること」に信頼を置いています。こうした公的機関でありながら政府の干渉から自立して存在できる根拠もまた憲法にあります。スウェーデン憲法第12章「行政」の「行政の自律性」について定める第2条には「いかなる官庁も、議会又はコミューンの議決機関も、特定の場合において、行政機関が 個人又はコミューンに対する官庁の権限行使又は法律の適用に関わる事案において、どのように決定すべきかを定めてはならない。」とあり、今回の問題で言えば公衆衛生局の決定にどこも干渉してはならないわけです。コロナ対策の時に対策機関が政府から自立しているのはとても大切なことです。移動の自由や民間経営にまで踏み込む規制を行えば経済には当然マイナスが生じ、景気対策で点数稼ぎをしたい政府与党と対立するのは必然だからです。日本のコロナとは異なりますが、ルンド大学の同僚に日本の学術会議の任命拒否問題のことを話したとき、彼女は驚愕してこう叫びました。「それはものすごいスキャンダルじゃない!」
移動自体が感染拡大をもたらすと、どの国でも旅行を自粛するよう要請している最中にGo Toキャンペーンなどという不可解な政策を出したことで、すでに「日本はまだ自分たちだけが特別な国だとでも考えているのか?」とみなされているのに、このことで、日本は政治と科学が対立し、政府が科学者を金の力で脅す、そんな非科学的でスキャンダラスな国として歴史にさらなる汚点を残すことになったのです。E Uは日本を渡航禁止にする決定を出しました。スウェーデンがこの決定を遵守するかどうかは分かりませんが、少なくとも欧州では、春の時と同じく、日本はコロナを制御できない国として位置づけられたわけです。


スウェーデンは集団免疫を目指してはいないが…

 スウェーデンがロックダウンをしなかったことで、海外からは「集団免疫を目指している」との憶測が寄せられ、テグネル氏は幾度となくこれを否定しています。感染しないよう対策を講じていながら、かなりの数が感染しないと得られない集団免疫を目指すことは矛盾そのものであって、集団免疫が得られるまでの過程で生じる多くの犠牲を考えればそのようなことを考えられるわけはない、これがテグネル氏の答えです。ただし、そのような話が囁かれることには理由があります。それは、スウェーデンで特に春の第1波の際に、スウェーデン国内で亡くなった7500人のうち、70歳以上が9割を占めており、そのうちのほぼ半数が施設で介護を受けている高齢者だったという事実です。このことは、まさに公衆衛生局と政府のコロナ対策が失敗したことを示すものでした。年末に国王が「スウェーデンのコロナ対策は失敗した」と異例の発言をした真意はここにあります。つまり、高齢者を守れなかったことが失敗だったと言っているわけです。


なぜ、これほどの犠牲者が出たのか?

 スウェーデンでは1991年にエーデル改革といって国が管理していた高齢者福祉施設の業務を地方に移管し、民営化も認める福祉改悪を行いました。権限委譲をされた自治体はコストを削減するために非正規の移民労働者を多数雇用し、ケアスタッフとして低賃金で働かせてきました。このようなケアスタッフは数カ所の施設や在宅介護を受け持っています。移民労働者の住宅、生活環境はまさに三密、しかも具合が悪くとも休めば休んだだけ賃金が減らされるとあって、感染していても働き続けます。また、E Uの承認印(ECマーク)がついているマスクしか使ってはいけないはずなのに、民間の施設でこの認証印がついていないマスクが使われていたところや、そもそもマスクや防護服が不足していたところもありました。また、市民の検査が圧倒的に不足していたこと、ケアスタッフには検査が行われなかったことも感染拡大に影響を与えたといわれています。こうした現状を前に、IVO(Inspektionen för vård och omsorg=医療福祉査察庁)が4月には監査に乗り出しました。その結果は中間報告として政府に公表されましたが、内容は驚くべきものでした。全国のケアサービスを受ける高齢者のうち85歳から95歳までの人たちを調査したところ、そのうち約2割は、医師の判断を受けられないままにケアスタッフだけで介護が行われており、ストックホルムの医療機関の中には感染した高齢者は病院ではなく自宅や施設で看取ることを方針として伝えたところもありました。このIVOは公的機関ですが、だからこそ内部告発と個別調査で施設の現状を批判検証し、政府もこれを重く受け止め、改善に乗り出し、現在はかなり死亡者数が抑えられるところまで来ています。
また、スウェーデンの公共放送SVTはHelsingborgのケアホームで、60人の半数を超える従業員がコロナに感染し、入居者のほぼ半数がコロナで亡くなっていたことを伝えました。こうした現状が明らかになるにつれ、これまでの新自由主義的政策の流れを変えなければならないと言った意見も多く上がってくるようになっています。スウェーデンの最大政党は社会民主党ですが、その中に新自由主義的政策に反対するダニエル・スホネン(Daniel Suhonen)氏率いる改革派グループが立ち上がりました。彼らは明確に民営化反対を打ち出しています。また、昨年の12月、次期首相を射程においているといわれているマグダレーナ・アンデション(Magdalena Andersson)財務大臣の口からも「新自由主義はコロナで終焉を迎えた」という驚きの言葉が発せられました。さらに、この発言に対して、スホネン代表からは「それならこれまでの福祉政策の後退を反省して具体的な道筋を示せ」との反論が寄せられるなど、活発な政治論議が展開されています。

経済支援策は日本よりはるかにましだが、まだまだ足りない                                  

 スウェーデンの労働組合組織率の高さは欧州一です。かつての85%という高さに比べれば減少はしましたが、それでも現在7割(日本は2割)の組織率を誇っています。労組の力が強いことは今回のコロナ禍で労働者に安心感を与えました。コロナで売り上げが減少した雇い主はより簡単に失業手当の給付を受けてから101日を経過したのちに給付される失業保険基金からの給付上限額をこれまでの760クローネ(9,120円程度)から1000クローネ(12000円程度)へ引き上げ、病欠補償引をき上げ、給付のための書類の提出も免除、労働者の病欠に関連して雇用主が被る経済的損失は政府が保障しています。コロナに罹患して休養を必要とする個人企業主に対しては14日間まで1日あたり804クローネ(9,650円程度)の補償が行われます。
移民の成功者が多い個人の店はこのコロナ禍で開店時間や入店客数への規制が義務付けられ、実際に利用客が減ってかなりのダメージを受けることになりましたが、政府は既に昨年3月から実施されていた売上高ベースの補償を引き上げ、支援期間も延長しています。これまでは売上高の減少分の75%を補償していましたが、昨年11月分から2月いっぱいまで90%に引き上げられます。ただし、受給資格を得られるのは、コロナ以前に比べて売り上げが4割(2020年8月から10月)、もしくは3割(2020年11月から2021年2月分)減少している事業所が対象です。個人事業主がコロナで自宅待機が命じられた時は最初の14日間については1日あたり810クローネ(約一万円)が支払われます。。そのほか、親の介護手当などについても検討中ですまた、スウェーデンでは、労働者を精神的・肉体的ダメージから守ることを雇用主に義務付けており、そのこともまた、この間通勤が減り在宅勤務が増えた原因でもあります。また、政府も昨年8月末には、コロナで重症化するリスクを抱える労働者がそのリスクのために仕事を失った場合の補償を行なうなど、大規模なコロナ危機対応予算を新たに追加していますが、医療介護の現場で露呈された人員不足や外食産業への支援不足に抗議する声が高まっています。

 研究者はジャーナリストでもなければならない。それは新聞社で仕事をしながら社会を透徹した目で観察したマルクスから私が学んだことでもあります。その視点で周囲を見渡すと、今、世界中で、新自由主義がこの20年間に奪い尽くし、破壊し尽くした、かつて労働運動や社会運動で獲得してきた権利を取り戻そうという動きも盛んになってきていることがわかります。国を超えた気候変動への青年たちの取り組みも、これまでのような単なる環境保護ではなく、明らかに資本主義的価値観に対抗するものとして静かな高まりを見せています。欧州に開かれたスウェーデンにいることで伝わってくる世界の動きをまたここでお知らせできれば幸いです。

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