106 号 2022年12月発行

 

 

映画憲法の実践を足元から考える
                 
植野妙実子(中央大学名誉教授)
 
 

 安倍元首相の銃撃事件は衝撃的であったが、その後の展開はさらに衝撃的であったといえるであろう。私が学生であった 年近くも前の時、原理研には近寄るな、人がいなくなる、という噂を聞いていた。その原理研と勝共連合、それらと統一教会とに関係があること、また統一教会が名称を「世界平和統一家庭連合」へと変えていたことも知らなかった。のみならず、自民党議員(他の党にも関係者はいたが)と旧統一教会の関係が次々と明るみに出て、疑惑が深まっている。
 政治に透明性が必要である。今こそ人々が立ち上がり、足元から、民主主義を、立憲主義を見直して固めていくことが必要だと改めて思う。

◆自民党改憲案
 ところで、自民党は憲法改正として「4つの『変えたい』こと」、具体的には「『自衛隊』の明記と『自衛の措置』の言及」、「国会や内閣の緊急事態への対応の強化」、「参議院の合区解消、各都道府県から必ず1人以上選出へ」、「教育環境の充実」を提案している。またロシアのウクライナ侵攻に乗じて国連が機能していないことから核をもつべきだと言ったり、非核三原則(持たず、作らず、持ち込ませず)を外してアメリカの核は日本の核でもあると「核共有」の考えを主張したりもしている。反撃能力の認定もしようとしている。またNATOが GDp2%以上の軍事力を目標としているので日本も同様に防衛費を増やすべきだとしている。
 これらに対しては、戦争の反省を踏まえていない、被爆国の経験をむしろ広めるべきだ、また反撃能力は先制攻撃禁止に違反する、防衛力強化は財源をどのように確保するのかなどの批判ができる。実際、世界の軍事力ランキングで、すでに日本は6位(2019年)。

◆私たちのすべきこと
 ロシアのウクライナ侵攻は、実際に戦争になったらいかに悲惨であるか、平和でなければ人権保障は成り立たない、人々は根底から生きる権利を奪われる、ということを示した。また国家緊急権は国家総動員令を出すことを可能にすることを意味し、権力への歯止めが効かなくなることも示した。
 我々がすべきことは、日々の日常の生活を充実させること、そのためには平和を守り、個人一人ひとりが尊重され、権利が保障される社会を作ること、つまり真に憲法を守ること、それに尽きる。となっている。

◆子どもを巡る状況
 他方で、未来を担う子どもたちをめぐる状況は過酷になっている。不登校の小中学生が初めて20 万人を超え、過去最多の24万人となった。新型コロナウイルスの長期化、不登校やいじめの問題が深刻化している。確かに21年度は各地で学級閉鎖や臨時休校が相次ぎ、学校行事を中止せざるを得ないなど学校生活は様変わりした。しかし、こうした現実に対して、子どもの目線からの対策は十分だったのかが問われる。働かざるを得ない親、子どもを一人にせざるを得ない親がいる。そうした親への支援や子どもへの支援は十分に行われていない。必要とされる支援が考えられていない。改正よりも憲法 条の実質化が必要である。教育は互いに触れ合うことで行われるものである。一緒に遊んだり、勉強したりする中で、何をしてはいけないか、何をするべきか、自分は何をしたいかなどを学んでいく。
 戦争を準備する国、いつでも戦争ができる国ではなく、あくまでも戦争をしない国になって、平和の中で未来の社会を担う子どもたちがのびのびと生きる国になるべきだと思う。



ねりま9条の会第19回総会報告
                       ねりま九条の会事務局長 大柳武彦    


  ねりま九条の会は12月7日第 回総会を開催しました。約50名の参加、山岸一生衆議院議員、吉田健一さんも駆け付け国会報告と挨拶を受けました。
 第1部は植野妙実子さん{中央大学名誉教授・憲法学、ねりま九条の会世話人}の記念講演。「憲法の実践を足元から」と題して、自民党の改憲4項目についての解説と、安保関連法の成立と大軍拡で、アメリカの指揮下で戦争に突き進む危険性があると指摘。
 民主主義は権力集中による専制を防ぐため、国レベルの3権分立に加えて、国と地方の権力分立
(権力分散)がある。しかし権力)に毎月少額の募金をしているだけなのです。分立の意義を知らず、政治を動かすのは国民という自覚と、どのような自由や権利があるのか知らなければ、せっかく良い憲法があっても、絵にかいた餅になる。政治は政治家に任せておけばよい、お上の言うことに逆らうのはご法度という空気がまだまだ強い。特に教育現場では政治的中立の名で、政治的議論を避けることが当然視されているが、18歳選挙権の下で、子どもたちは戸惑っている。卒業して社会に出た時に、何が権利で自由なのか、それを活かす方法は何かを学ぶ主権者教育・シティズンシップ教育の必要性が叫ばれているが、十分でない。
 また、子どもをめぐる環境は過酷で、不登校が24万人と過去最多で、いじめも深刻である。家事や家族の介護・世話に追われる子ども・ヤングケアラーが中学2年生で5・7%、高2で4・1%、睡眠もとれず、友人とも遊べず、進路や就職に影響を及ぼしている。これは自治体の支援が必要である。今の政治に必要なのは、責任体制と統制・チェック機能である、そのためには政治の透明性が求められる。政治家は説明責任を求められ、うかうかしてられない状況に追い込む。根本は国民の政治意識を高めることだ。憲法を実践するとは、まず足元の自治体と議員に物申すことが大切だ、今の区長選の投票率が30%では、住民の声が政治に届かない、チェック、コントロールが効かないということになる。国政にだけ目が行きがちだが、区政、都政についても目を光らせ、国と対等でものが言える地方自治体にすべきである。

 第2部は総会で、司会立川信夫、議長田中康二、小沼稜子、議案提案大柳武彦事務局長、決算報告、予算案提案井上陽子会計、会計監査小岩玲子さんから報告、参加者全員の拍手で承認されました。(議案は別折り込み、決算は約211万円。続いて各九条の会から、コロナ禍の中にもかかわらず、映画会や講演会、署名活動と、活発に活動されたことが報告されました 各九条の会の報告は、2月号以降のニュースにコラムとして掲載させていただきます。

 

マイナンバーカード押しつけ 保険証廃止の狙いは?   
      ─ 吉田章先生講演会を聴いて   勝山繁(「ねりま九条の会ニュース」編集委員)


◆36名が参加、好評だった講演、資料も充実 

11月26日、貫井活動交流室において、吉田章・よしだ内科クリニック院長、東京社会保障推進協議会(東京社保協)会長の講演会「マイナンバーカード押しつけ 2024年秋 保険証廃止の狙いは?」が開催されました(主催は貫井9条の会)。講演会には会場いっぱいの36名と多くの人が参加、この問題に対する区民の関心の強さがうかがわれました。
 30ページに及ぶ資料を配布のうえ、パワーポイントを使っての吉田先生の講演は大変分かりやすく、参加者からは「マイナンバーカードの押しつけ、保険証廃止に、なぜ政府が躍起になっているのか、その危険性も含めて理解できた」という声が寄せられました。また吉田先生作成の資料は、地域や団体での学習会に活用できる充実した内容で、ぜひ広く普及していただきたいという要望も聞かれました。

◆医療DXと「全国医療情報プラットフォーム」
 2024年秋に今の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに保険証の役割を持たせた「マイナ保険証」
に切り替えるという政府の本当の狙いは、「マイナ保険証を土台にして医療のデジタル化、医療のDX(デ
ジタルトランスフォーメーション)を一層進めることにある」、吉田先生が講演で強調されたことです。
 医療DXとは、デジタル技術を使って、医療のサービスや業務の変革を促す取り組みです。医療機関でのカルテや処方箋のほか、自治体での健診や予防接種の記録などのデータをデジタル化して一本化することによって、医師は過去から現在までの医療データに基づいて、患者を治療できるというものです。
 自分の医療情報についても、「全国医療情報プラットフォーム」という基盤を作り、マイナ保険証で情報を閲覧できるシステムや、医療機関や自治体などがデータを共有する仕組みが検討されています。ビッグデータを活用し、患者に適切な治療法を選んだり、余計な薬の提供を防いだりすることができるので、療費の削減にもつながると政府は言います。
◆数年前から検討、企業・研究機関への医療データビッグデータの提供
 カルテや検査データなど個人の医療情報を集めて企業や研究機関に提供する制度は、4、5年前から検討されてきました。しかし、国が認定した民間事業者が、病院などから実名で集約した情報を匿名化して、医療ビッグデータとして提供する制度には、多くの国民が不安の声を上げています。
 ところが政府は、マイナンバーの発行番号を顧客データと紐づけて使うことを民間業者に推奨しています。これではいくらマイナンバーを厳しく管理したところで、個人データが勝手に蓄積され利用されることを止められません(神里達博千葉大学教授 朝日新聞11月25日)。
 揺りかごから墓場までどころか、母子手帳(胎内)から墓場まで、個人の生体・健康・医療情報のすべてを掌握し、政府・企業・医療機関がその情報をお互い融通して利用する、そんな仕組みを政府が画策しています。
 その行く先は、クレジットカード利用残高が31兆ウォン(約3兆1000億円)に上り、家計債務残高の対GDP比が104・3%にもなる韓国、あるいは韓国に次ぐキャッシュレス国の中国の、いつ、どこで、何を、いくらで買い、何月何日にどこからどこへ移動し、果ては子供の成績から交友関係、自身の思想信条までありとあらゆる情報が、中国最大のインターネット企業のアリババとテンセントに吸い取られる(『デジタル・ファシズム』堤未果著・NHK出版新書)。そんな現実があながち杞憂でない局面に私たちは立たされているのかもしれません。九条の会でも保険証のマイナンバーカードへの紐付けを学習し、反対の声を上げていかなければなりません。


来年4月の統一地方選挙にむけて
       憲法九条改憲阻止の声を自治体の隅ずみに届けよう!

                    ねりま九条の会・女性九条の会  宮前 節子

2022年11月12日、文京区民センターにて「全国首長九条の会・第3回総会と市民のつどい」が開かれました。会員21名、地域九条の会や市民52名の参加。オンラインで全国各地からの発言も共有しながら、リアルタイムでの改憲阻止に向けた運動交流となりました。
2007年に宮城県の4人の首長が「九条の会の準備会を作ろう」と始めて、さらに全国的な運動にするために2019年11月17日に「結成のつどい」を東京で開きました。
今回で3年目になります。
共同代表の川井貞一元宮城県白石市長は、冒頭「首長は、住民の命を守らなければならない。皆さんと憲法九条を絶対に守ろう」と呼びかけました。
小森陽一さん(九条の会事務局長、東京大学名誉教授)は「岸田文雄政権の大軍拡を阻止する運動を」というテーマで「いま正に、敵基地攻撃にトマホークミサイルを導入するなど2015年の戦争法制に基づいた大軍拡をひろげている。岸田政権を打倒していく時である。統一教会の癒着が強まったことで世論を動かせる」と具体的な指針を提案されました。
沖縄の風(参議院議員)の高良鉄美さんは「今の政権は外交機能ができていない。沖縄にはかつて“主権在米”という言葉があったが、現実化している。沖縄復帰に基本的生存権を守りたい。九条だけが平和を守っている訳ではない。日本国憲法の真の意味が、こんなにも考えられる時はないのではないか」と熱く語りました。
東京の現職の首長・松下玲子武蔵野市長(会の共同代表)からは、市政運営を定める自治基本条例が定めている「協働」「情報の共有」「市民の参加」を重要視している。市は、戦時中は米軍から9回攻撃を受け(ゼロ戦を作る中島飛行機が狙われた)11月24日を「平和の日」と定めて市民が一斉に運動をするなどの取り組みが紹介されました。
今年6月に当選した杉並区の岸本区長からは、57万人の命、生活を守るために、草の根の民主主義や地方の自治に憲法を活かしていきたいと運動してきた。これからも頑張りたいと抱負が述べられました。
杉並区の選挙の取り組みについては、杉並九条の会からエネルギッシュな報告がありました。兎に角、市民運動が共同して区長選に臨んだこと。例えば「保育園落ちた、日本死ね!」から父母の運動が広がり、結果55園から250園に保育園を増やしたことなど、2か月間の一貫した運動は400人以上の応援団が動いて、ユーチューブ、SNSで配信しながら活動。結果178票差で岸本区長を誕生させたということで、市民運動が大きな力になっていると発言。
地域九条の会の報告として、ねりま九条の会の大柳武彦さんが、憲法に学び、憲法を活かす運動を発表し、拍手喝さい。1自治体の中に36の九条の会を作り、活発な活動を続けていること。地域、労働3団体、政党、キリスト教や天理教などの宗教団体と連携して活動を広げている事。東アジア近現代史講座は85回。選挙においては、市民と野党の統一というスローガンで、9区、10区の山岸一生氏、鈴木庸介氏を当選に。区長選では市民との共闘で、吉田健一氏を候補に頑張りました。結果は、2008票差で残念でありましたが、しかし次回は頑張りぬきたいとの抱負を述べて、九条の会の果たす役割をPRしました。
この後、世田谷区長の保坂展人さんが到着。ジェンダー平等を否定する主張を繰り返す統一協会と地方議員の癒着問題を指摘。自治体の中で子どもは自立していく。憲法に基づいた行政を実現しようと呼びかけました。
元小金井市長の佐藤和雄さんから、脱原発の首長として、岸田政権は原発増設を言い出しているが、40年ルールを壊すものだ。また、重要土地調査は、個人の思想、信条を調べるという人権を無視したもので許せない。現在、なるべく摩擦がないところから始めているようだが、政権を変えないといけないと力説しました。
討論のあと、会員と市民合同で第3回総会が開かれて、新役員、アピールの提案と採択が行われ、閉会の挨拶で終了しました。
  私は、核兵器廃絶の運動をはじめ、観閲式、新ガイドライン、NBC兵器研究、日米合同演習などの反対運動を続けてきました。地域や、生活者としての要求、教育の運動など、今までこつこつと築き上げてきた要求運動が、憲法を活かすことにつながると改めて思うのです。積み上げてきた草の根の運動を、平和憲法の理念に載せる時が、今だと声高に叫びたい。
 今日の、全国の首長さんの想いを聞きながら、いま、憲法が危ないけれど、連携すれば、全国で憲法を活かす取り組みは出来るとの確信を持つ事ができました。


医療的ケア児とその家族に対する支援       大内美南(小児科医師)

 「医療的ケア児」という言葉を最近メディアでもよく見かけます。医療的ケア児とは、人工呼吸器を使う、痰を吸引する、胃ろうなどの管から栄養をとる、などの医療ケアが日常的に必要な子どものことを言います。歩ける子から寝たきりの重症心身障害児まで様々です。
 医学の進歩により退院後も医療ケアを受けながら自宅で生活することが可能になりましたが、在宅の 歳以下の医療的ケア児は全国で約2万人です。(図 厚生労働省HPより)在宅で人工呼吸器を使用している子どもは5000人を超え、低年齢ほど多いのが現状です。
 2021年6月に「医療的ケア児支援法」が成立しました。この法律の主旨は4つあります。
 ①医療的ケア児とその家族の意思の 尊重②地域間格差の解消③家族の離 職の防止④医療的ケア児を地域で支 え合い共生社会を作り上げる。
 これらの理念を制度的に担保することを国や地方公共団体の努力目標でなく責務としたのがこの法律です。「がんばりなさいね」ではなく、「やってくださいね!」となったのです。
 子どもと家族の状態はそれぞれ違い、そのニーズをとらえて彼らの意思決定をサポートするには、地域連携が不可欠です。医療的ケア児は非常に「個別性」が高いので、「オーダーメイドの支援計画」が必要で、そのためには相談支援専門員の役割がとても重要になります。高齢者の介護がケアマネージャーによって支援調整がされるのと同じように、医療的ケア児も医療、保健、福祉、教育の調整支援を受ける事が必要なのです。
 毎日の医療的ケアは実に大変です。ですから親が兄弟姉妹を含めた子育てをできるように、また家族が生活の様々な体験をできるよう支援をするこが大切です。
 この支援法の成立後、急ピッチで全国自治体に相談支援専門員を育成し、「医療的ケア児支援センター」が出来ています。これまで豪雪地帯では医療的ケア児の親は働くこともできず、遠方の医療機関や支援学校への送迎を自ら行なうのが殆どでした。しかしこれらの地域にも熱い思いを抱く支援センターが次々と立ち上がってきています。
1974年に日本も批准した「子どもの権利条約」には以下の権利が守られるように定められています。
 ①生きる権利②守られる権利③育つ 権利④参加する権利
 2022年6月には「子どもの権
利条約」の精神に則り、子ども施策を総合的に推進することを目的とした「こども基本法」が成立しました。2023年4月には「こども家庭庁」が発足します。内閣府の外局として各省庁より一段高い立場から子ども政策を一元的に担うことになります。医療的ケア児も子ども家庭庁が担当します。このように小児在宅医療は現在大きな変化の中にあると言ってよいでしょう。

 

三浦綾子生誕百年に思うこと      松下 光雄(桜台九条の会会員)

 今年2022年は三浦綾子の生誕百年に当たります。「三浦綾子生誕百年に思うこと」をテーマに原稿のご依頼を頂戴しましたので、有難くお受けしました。
三浦綾子読書会のサイトから簡単に紹介します。                   
 三浦綾子は1922年旭川市で生まれ、17歳で小学校の教師になりますが、軍国教師として懸命に教えたために敗戦後には大きな絶望に陥ります。自殺未遂、そして結核、脊椎カリエス発病による13年にわたる闘病中、幼馴染みのクリスチャン前川正を通してキリストに出会い、洗礼を受けます。前川亡きあと現れた三浦光世の祈りに支えられて奇跡的に癒された綾子さんは、結婚後、雑貨店を営みながらはじめて書いた1千万円懸賞小説『氷点』で作家デビュー。以降1999年の召天まで、多くの病と闘いながら、人々に神の愛を語り、生きる勇気と希望を与える80冊以上の作品を書き続けました。 三浦綾子の人生で順調だったのは小学校の教師時代までで、それ以後は思いもかけない出来事の連続です。絶望、虚無感、自殺未遂、恋人の死、長い闘病生活、死と隣り合わせのこれらの日々の体験が作家としての基礎になっていると思います。絶望を潜り抜けた綾子さんは絶望する前の綾子さんに戻ったのではなく、絶望体験と信仰の二つから物事を捉え直す人へと変えられました。詩人の金子光晴は『絶望の精神史』の中で「絶望の姿だけが、その人の本格的な正しい姿勢なのだ。それほど、現代のすべての構造は、破滅的なのだ」と述べています。三浦文学の根底に「現代の構造は破滅的である」という視座があるように思います。
「お国のために死ぬこと」を徹底的に教えた軍国主義教師であった綾子さんは作家となった後は一転して「人生いかに生きるか」を語る作家となりました。社会における不公平を憎み、一人一人の個人が大切にされることを願い、平和を追い求める活動をしました。その視野は社会にある不正、不公平から公害、環境問題、原発、核兵器まで広くカバーしています。平易な表現を用いているにもかかわらず、内容は深く、三浦文学を慕う人は多くその作品によって人生を変えられた読者は後を絶ちません。     
様々な病に苦しめられましたが、数多くの作品を世に残しました。総発行部数4200万部以上、世界十数カ国語で読まれています。『氷点』以外に『塩狩峠』『道ありき』『細川ガラシャ夫人』『天北原野』『泥流地帯』『海嶺』『ちいろば先生物語』『母』『銃口』などがあります。
1999年10十月12日三浦綾子さんが亡くなったとの知らせが駆け巡った直後、インターネットの中に国内はもとより海外からも心の籠った弔意と感謝の言葉が寄せられました。作家三浦綾子の熱心で誠実な読者は年齢・性別・国籍を超え厚い層となっていることが分かりました。
不思議なことに全国に散らばっている三浦綾子ファンが2001年に同時多発的に動き始め、各地で読書会が始められました。2017年に桜台九条の会の依頼により「三浦綾子の平和主義」と題した講演をさせて頂きました。その後この練馬でも三浦綾子読書会が始まりました。三浦綾子の作品を愛する者たちが「人生いかに生きるか」と話し合う場を広げているのです。読書会について興味のおありの方は私宛にお問い合わせください。(電話080-3006-6536)
最後に綾子さんの言葉を一つご紹介して筆を擱きます。
 『自分の人生は先が見えた、と思ってみんな生きているかもしれない。 でも「一寸先は闇」と言いますが、「一寸先は光」という言葉もあるんです。(三浦綾子『希望、明日へ』より)

 

統一教会とキリスト教 
    
有田芳生氏の講演会に参加して     麗梨(ねりま9条の会会員)                    

 本年10月18日ここねりホールで開かれた有田芳生さんの講演会には200名近くのリアル参加者と30数名のオンライン参加者があった。既に半世紀にわたって統一教会を調べてきている有田さんは、7月8日の元首相銃撃事件の背景や前提にある事柄から話を起こし、当日時点の最新情報に至るまでを実にきめ細かく丁寧に話して下さった。
 強引な献金取り立てや勧誘・霊感商法・政界との癒着・「祝福2世/信仰2世」が抱える諸問題など統一教会の反社会性は枚挙にいとまがない。これ以上の被害者を出さないためにも国は一刻も早く解散命令を出し、宗教法人格を剥奪すべきだろう。統一教会と持ちつ持たれつ関係の現政権は事態解決の引き伸ばしを画策してくるやも知れぬが、断じてそれを許してはならない。
 他方、統一教会のようなキリスト教カルトの跋扈の一因として、既存の宗教とりわけキリスト教のだらし無さ・堕落ぶりも私たちはおさえておかねばならない。たとえば、日本のプロテスタント最大教派である日本基督教団は、戦時下において『日本基督教団から大東亜共栄圏に在る基督教教徒へ送る書翰』を発表。そこでは「正義と愛の共栄圏を樹立するためにこの戦争を最後まで戦いぬかなければならぬ」などと記し、日本国家の片棒を担ぐ形で植民地支配のさらなる強固化とさらなる戦意高揚を促している。
(ある意味、日本基督教団は国家権力と一体化したカルトだったのかも知れない。事実、同教団は国の意向に靡き、基督再臨信仰破棄・礼拝前宮城(皇居)遥拝・戦争協力の約束の下、特高警察による迫害・弾圧から逃れている)
 こうした日本のキリスト教によって各植民地におかした「反キリスト的」行為が、1954年に統一教会を立ち上げた文鮮明教祖の反日思想を呼び起こしたひとつの要因であろうことは容易く推測出来よう。若き日の文鮮明の家族たちは皆かつて熱心なクリスチャンであったとも聞いている。
 従来多くの日本基督教団の有能な牧師たちが統一教会からの脱会支援活動に関わってきた背景には、或いは一種の贖罪意識が働いているのかも知れない。
 ところで、今年8月の「連合」の定例会見の席上にて、芳野会長は(彼女が学んだ)富士政治大学校と統一教会との関連について精査する必要の有無を記者から問われた際、「しない」と明確に答えている。富士政治大学校は1969年に反共思想養成を目的に設立されたとされており、第2代目理事長には立教大学総長も務めた日本聖公会信徒のクリスチャンだった松下正寿氏が就いているのだが、彼は統一教会系の国際平和教授アカデミーの要職も務め、さらに1980年代半ばには統一教会教祖・文鮮明を讃える書物も著しているのだ。(ちなみに統一教会系政治団体の勝共連合が富士政治大学校荘率の前年1968年に立ち上げられている)
 有田さんをお呼びした集いの実行委員会には区内の労働団体も名前を連ねている以上、まるで他人事のような素振りで「調査しない」と言い切ってしまっている芳野会長を追及する姿勢を是非とも明確に打ちだしてもらいたい。
 形をかえて善良な市民に近づいてくる統一教会。意外なところに意外な方法で忍び寄ってくることを思えば、誰もが要注意である。


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